5話✧狷械

✧執筆協力
まめこ様

✧スチル協力
ふかひれ。様米2ろう様めんま様



樊凌は一人ひとりに肉の削ぎ方を教えていく。小刀の振り方、急所を避けてすぐには殺さないようにする手順、長く苦しめるための方法。刃が男の肉を削ぐたび、耳をつんざく叫び声が上がった。

気を失いそうになれば、冷水をうちつけられ嫌でも覚醒させられる。

遺族はその男が苦しそうに叫ぶ度に心の中の荷が下りたような顔つきになっていく。ずっと溜まっていた鬱憤が解放されていく感覚だ。

中には音の出るおもちゃで遊ぶ子供のように、無邪気な笑い声を上げる者もいた。肉を削ぐ度に泣き叫ぶ男は、まさに玩具。そして肉を削ぐ感覚は、彼らの手に新しい快楽を伝えていた。

腕を削ぐ、足を削ぐ、腹を切り付ける。皮膚が剥がれ、普段は晒されることの無い肉が血を流しながら顕になる。

棒に括り付けられた男の叫び声は少しずつ弱々しくなった。もはや、助けを求める声ではない。一思いに殺してくれと懇願する声だ。

その様子に人々は歓喜する。殺してなるものか。楽に死なせてやるものか。もっと苦しめてやらなくては。人間の目は爛々と輝き、血走っていた。新しい娯楽を手に入れた様な悦び。

彼らの中に生まれたのは、本来人間が持っていた『残忍さ』。人間は、傲慢で残忍で、残酷なのだ。理由を見つけては他者を貶め、揚げ足を取るように罪をなすり付ける。そして、彼らの傲慢さで人が人を裁く。

正義のためと謳いながら、彼らは自分の中の鬱憤を第三者で晴らしているだけだ。

現に、彼らはとっくに「かけがえのない存在」のことを忘れていた。

家族を殺された者の中には、亡骸を抱いて泣きながら処刑を眺める者もいた。しかし大半の遺体は、地面に無造作に放置されたままだった。彼らは、目の前の刺激的な光景に目を奪われたただの野次馬にすぎなかった。

目の前の人間たちはただ刺激的な光景を楽しんでいるゲスな野次馬にしか見えない。

悪趣味だ

歪なその空間にルフレは吐き捨てるように呟いた。

太陽はすでに沈み始めていた。

十数人に凌遅の方法を教えた頃。

「そんじゃ、次はキ

樊凌がそういって小刀を次の人間に渡そうとしたとき、カラン、と小刀が地面に落ちた。

「樊凌?」

近くにいたラートが近づく。

はは、もう終いみたいやわ。」

そう言って彼は笑顔で振り向き、自身の手を見せた。

その手は、花びらが散るように、ゆっくりと崩れていく。

その様子に、人間たちはたじろいだ。もちろん、傍にいた械たちも。

こうなることは最初からわかっていた。けれど、もしかしたら大丈夫かもしれない。もしかしたら、皆と一緒に帰れるかもしれない。誰もが、どこかでそんな希望を捨てきれずにいた。

だが、現実はそれほど優しくはなかった。

あるのは、起こした行動によって導かれた、当然の結果だけだった。

「ファ、ファンリンさん

ルフレが力なく呟く。樊凌は一瞬どうしようかと迷ったように目を伏せ、やがてふっと顔を上げた。そして、静かにルフレのもとへ歩み寄る。

「ルーちゃん。グラちゃんの剣術、活かしてくれん?」

その言葉の意図はすぐに理解できた。

「っ

ルフレは今までに見たこともないほど険しい顔をする。
そしてかすかに潤んだ瞳でまっすぐに樊凌を見つめた。

「ファンリンさんの剣術も使いこなしてあげますよ。」
「っはは!頼もしいわァ。真是让人信赖呢!」

そう満面の笑みを浮かべた樊凌は、そっとルフレの額に自身の額を重ねた。

「ルーちゃん、あとはよろしゅうな...」

その呟きともに樊凌の記憶がルフレの中に流れ込んでくる。
血塗られた歴史と頭が割れそうになるほどの断末魔にルフレは顔をしかめた。彼が歩んできた刑執行の『記録』。

そして一瞬の空白があった後、館での記憶が流れ込んできた。

グラディエーターと喧嘩して頬に傷を負った日のこと、白浪と初めて会話したことや義兄弟の契りを交わしたこと、シアノへの差し入れとドア越しに食事をしている記憶...。フィリップに何度も燃やされそうになったこと、カラベラフィルムと水飴を食べたこと...。ラートとの日向ぼっこ。そして、自分と話したあの日のこと。

賑やかでささやかな楽しい日々。そして大切な存在を失った心の痛み。自分を責めた日々、そして他の械達に壊れそうな心を救われたこと。

そして最期に

!」

樊凌の核心を知ったルフレははっとした。
彼が顔を上げるのと同時に彼は額を離す。

そして、別れの挨拶にその華やかな赤い袖を振った。

「祝你们成功 !」



その言葉とともに、樊凌の体は形を失い、花びらのように崩れ落ちていく。彼の体であったものは蓮の花のようにひらりひらりと舞い、足元血だまりに触れた瞬間雪のように音もなく溶けて消えた。

血だまりの中央には、鋭く欠けた刃が一つ、落ちていた。

ルフレは手袋を外し、それを拾う。西日に照らされた刃が、その頬を淡く照らした。



その刃をしまったルフレは再度手袋を付けた。

そして、先ほど樊凌が落とした小刀を拾い上げる。深く息を吸い込み、呆然と立ち尽くす人間たちと視線を交わした。

「今からボクが代わりにこの最高に悪趣味なこの処刑法を教えます。」

そう告げ、ルフレは彼らに切っ先を向ける。

「忘れることは許さない。本能に刻み込むつもりで覚えてください。」