さもゆ
2024-12-06 15:49:18
34977文字
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【スティレオ】ツイログ

1~8…付き合ってないタイプのスティレオ。
9~12…付き合ってるタイプのスティレオ。

2020.12.27 たまごのお粥pixiv投稿作品


ワンドロワンライ、読書

集中できない




 耳にスティーブンさんのなまぬるい吐息が吹き込まれたとき、俺は無様に掃除機を持ってきてくれと叫びそうになった。掃除機を持ってきて、耳に掲げて、穴の奥の方までうぶ毛と皮膚を撫でていったスティーブンさんの吐息を吸い取ってくれと訴えたかった。彼の吐息に一体どれほどの価値があるだろう、少なくとも俺にとっては、手に持っていた本を床に落とし、ついでに自分が飛び上がるほどの価値があった。掃除機で吸い取っていっそのこと保管したいくらいには。
……す、すまん。そんなに驚くとは」
 飛び上がって椅子に尻をぶつけ着席し直した俺の横で、スティーブンさんはやや目を丸くして頬を掻いていた。その顔が未だ近いままだったのでさり気なく椅子ごとずれて本を拾う。「や、自分でも過剰なびっくりでした。すみません」中々顔を上げずらくて、俯きがちに本をテーブルに置く。髪を整えるふりをしつつ、その実癖毛が両耳にかかるように弄った。彼が僕の名前を呼び、吐息がかかった右の耳がカッカと熱いままだったからだ。
「ええと、あの、何用でしたか」
「ここ、もう閉めるぞ。そろそろ閲覧注意資料が悲鳴を上げる時間なもんでね」
「ああー、あの被害者の写真が叫び出すっていう……
「まさか被害者が写真に残留思念を映せる能力者とは思わんだろ」そのおかげで犯人はすぐ見つけられたけど。でも被害者も死んでるんじゃなあ、あれずっと叫び続けるだろうな。スティーブンさんは事もなげに言ってテーブルを人差し指で叩いた。「さ、行くぞ。あれの悲鳴を聞いたんじゃ、きみもっとびっくりするよ」
「あ……っれは! びっくりとか、そーいうんじゃなく……!!」
 耳どころか顔中カッと赤くして叫びかけたが、スティーブンさんのきょとんとした表情にすぐさま我に返る。「そーいうんじゃなく?」純粋な質問に、僕はたぶんものすごく変な顔をしながらテーブルの本を引っ手繰って立ち上がり答えた。「しゅ、集中してたんですよ。読書に。資料室なら誰もいないし、邪魔されないだろうから、めちゃくちゃ集中して読んでたのに、」
「僕が声をかけた?」
「う。はい」
「それってつまり、びっくりしたってことだろ」
「う。……はい」
「はは。分かんないやつだな、少年」
 言葉のわりに、スティーブンさんは楽しそうに笑って「もう出るぞ。あと二分後が被害者の殺された時刻だ」と物騒なことをやはり愉快そうに言って踵を返す。その背中を見ながら、僕は気づかれないよう顔中と耳の中を手指で撫で繰り回してから本を持って後に続いた。顔の熱が、全部見えづらい手のひらに移ってしまえばいい。頼むから。
 こんな街じゃ、こんな職場じゃ、満足に読書もできやしない。