さもゆ
2024-12-06 15:49:18
34977文字
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【スティレオ】ツイログ

1~8…付き合ってないタイプのスティレオ。
9~12…付き合ってるタイプのスティレオ。

2020.12.27 たまごのお粥pixiv投稿作品


戦闘中の番頭の体温と、優しさを見つけてしまった少年の話

あついのつめたいの




「はっ?」
 レオナルドはスティーブンの腰にしがみついたあと小さく驚愕の声を上げた。ぱっかり、瞼と口を開け硬直するレオを構わず抱き寄せ(というよりレオの腰に回った腕は拘束具の力加減で、こちらは力強く寄せられるほかなかった)、スティーブンは離れるなよと告げると踵を地に叩きつける。エスメラルダ式血凍道──彼の薄い唇がその先にどの技を紡ぐのか、目の前の状況、自分の所在、見上げて映る僅かに上がった口角、それら全てから予想しレオも知らずと同じ口の動きを辿る。
「絶対零度の風」
 う゛ぃえんとでるせろあぶそるーと、自分の口から出たのはそんな発音し損なったひどい音であったが、彼の綺麗な発音は迫り来る全ての敵を文字通り風となって凍りつかせた。足元から舞踊り停滞する冷気にぶるりと震え、こんな状況じゃなければ絶対に触ることのないスーツの胸元を皺になりそうなほど握り込む。足がガクガクする。歯の音が合わない。鼻と、なんとか食い縛ろうとする歯の隙間から、息が白く漏れ出た。「お、おわ、終わりましたか」訊けば背中から腰に当てられていた腕の力が緩まる。「ああ。危ないとこだった」と言う割には、レオと同じ色の息を吐くその姿はいつも通り少し気怠げで飄々としていて、震えてもいない。自分が凍りつかせ打開した四面楚歌の冷たい輝きを、しばし警戒するように眺め回したあと、あっちはどうなったかな、まあ大丈夫だろうが、一応向かうか、とレオを見下ろした。が、「ウワッ」声を上げたスティーブンが慌てて手のひらをレオの顔に向けてくる。「なんだ、どうした。何か見えたか?」どうやらレオの義眼が剥き出しだったらしく、大きな手が目許を隠してくる。あのなあ少年、スティーブンが言う。「ゴーグル使えゴーグル。びっくりさせるな」今回の任務、後方からの指揮と、全体を見渡すレオの護衛、その最中に敵方に襲われたついさっきのことよりよほど焦った声音に、レオはすんませんと手のひらへ睫毛を擦らせながらも瞼を閉じた。奇襲を受けた際に彼が落としたスラングでさえ焦りとかではなく邪魔されたことによる苛立ちであったのに、義眼剥き出しは焦るんだな、そりゃそうか、となんとなく愉快な気分になったレオは、自分が見開いた理由を思い出してスティーブンの手を掴んだ。離すためではなく、その逆のために。
「おい、レオナルド?」
 目へと押しつけるように手を押さえたレオに、スティーブンは戸惑ってどうした、ともう一度訊き返す。「何か見えたのか?」「あ、いや、そうじゃなくてですね、」そんな大層な理由でないことに、レオはええと、と言い淀んだ。この間、凍った地面を踏み締めているスニーカーは一歩でも動けば滑ってしまいそうだわ寒いわで動かせず、それともうひとつの理由でスティーブンの手にしがみつきながら、白息を吐き出す。「す、スティーブンさん、すげえあったかくて、」自分の顔を覆う大きな手の甲と、骨張った手首に指を擦りつける。あったけー……、と沁みるように言ってしまう。「さっきも、腰にしがみついた時、あったかくてびっくりしたんす」それだけです、すいません。謝ると上から気の抜けた、はあ、そうか、という言葉が降ってきた。
「義眼晒すほど、僕の体温が高いのは意外かい」冷血漢だからかな、と嫌味や自嘲とは程遠い、不思議そうな声での呟きに、レオはだって、と返す。「だってスティーブンさん、いつもは、」いつも? スティーブンが続きを引き取る。「そりゃ、通常はここまで高くないよ。戦闘中はちょっと血流操作してるんだ。氷使いが自分の技で寒がってちゃ、」……くそダサいだろ、と彼は言った。たまのスラングといい中指のハンドサインといい、この上司は時折こういうところがある。怖いと思うこともあるが、ちょっとお茶目に見えてレオは好きだった。けれど、自分が言いたかった「いつも」は彼の言ういつもじゃなくて、「……でも、前は反対のこと言ってましたよ」初めてスティーブンの手がレオの目を覆った時の話だ。
 そもそも、レオとスティーブンではライブラにおいて役割が違いすぎる。ザップやツェッドのように、現場で行動を共にすることはほぼない。そのためレオは斗流兄弟弟子と現場を共にする時の、邪魔にならない守られ方を身につける必要があったし(主にザップにド叱られることが多かったので)、実際懸命に取得した。守られるのにも技というものはいるし全ては自己責任だ、クズだが天才の先輩と後輩だが心身ともに強い彼らは血法を誤操作などしないだろうが、味方の攻撃に巻き込まれる可能性だってある。この街じゃ守られるのも一苦労なのだ。
 そんなレオは、スティーブンに付きっきりで守られたことはない。指揮及び戦闘員と索敵及び非戦闘員では現場で立つ場所が異なる。ほかが手を回せないいざという時は彼の氷に守られることがあるが、今でもレオはスティーブンに対する適切な守られ方を身につけられていない。現場で彼と一緒になるのは、主に事態が終息したあとだからだ。
 積み上がった瓦礫の上で焼ける瞼の熱に耐え、酷使した義眼が皮膚の隙間から白煙を漏らし出すほど酷くなると、スティーブンは戦闘中の距離感を大幅に縮めてレオの傍に立つ。最初、一回目、レオは倒したはずの敵に顔面を鷲掴まれたかと思った。それくらい乱雑な手つきで顔に冷たく張り付いた。「ぎあっ! えっ、なん、」「よくやった少年!」その事件でレオは確かにちょこっとだけ、義眼を酷使するくらい、活躍していた。顔を掴んでいる手が氷のように冷たく、えっえっと狼狽えるレオをよそに、スティーブンが上がった声で言う。「しっかり冷やしておけよ、頑張ったからな。出血大サービスだ」わはは、と笑ってなどいる。普段あまりこの上司と接触のないレオは反比例して泣きそうになった。この人疲れてるんだ、クラウスさんに助けて貰わないと、と鼻水を啜った。そして気づく。出血大サービス? ──義眼の熱を治める手のひらの冷たさを思う。──それって本当に文字通りの状態だぞ! 「すスティーブンさん無茶しないでください、あなただって疲れてんでしょ!?」途端に大慌てで引き剥がそうとするレオの顔に更に手を押しつけ、おいおい、とスティーブンが呆れる。「戦ってる時から冷えてるんだ、今は大して力使ってないよ」上司の厚意には素直に甘えるのが吉だぞ。機嫌の良さそうな、こちらにイエスを取らせる言い方に、レオは「はい。……ありがとうございます」と半ば慄きながら言っていた。そんなようなことが二度、三度と続いていき、未だに守られ方は学べていないが彼がどういう時にどの技を繰り出すのか、その予想の正解数が半分に近くなるくらいには、そしてレオがスティーブンのお茶目な一部分を知り好きだなと思うくらいには、最初のこのやり取りから、時間が経とうとしている。
 なのにもう何回目か分からない自分の目を覆っているこの手の持ち主は、戦闘中は体温を上げている、と言ったのだ。それも、いつも。
 レオナルドは自分の目を覆わせている温かな手に、何かとんでもないことに気づいてしまった予感に襲われ、しかしその何かが分からず益々顔を押しつける。あったかい。足元は寒い。正直背中にある手にもっと力を込めて欲しいが、それをされたらされたで不味いような気がする。不味いって、何が。「スティーブンさん」レオは困惑したまま口を開いた。「全然冷血漢なんかじゃ、ないじゃないですか」自分でもちょっとどうかと思うくらい呆然とした言葉だった。「わざわざ、冷やして、いつも……
 ……冷たいのは、わざとなのだ。
「あー、」スティーブンがレオの言いかけた言葉の先を今度こそ完璧に予想し、気の抜けた声で遮った。「いや別に、虚言癖ってわけじゃない」よく分からないことを取り繕っている。「僕別にスティーブンさんのこと嘘つきって思ってませんよ」『出血大サービス』と冷たいのが通常のように振る舞ったのは、それってだってレオナルドのためだ、こちらが変に詰ることは断じてない。でも、それに気づけなかった自分は不甲斐ないし、普通に言ってくれればいいのに、とも思ってしまう。優しさが見えづらいのは優しさを向けられた側も損だ。「義眼でも見えづらいのは、頂けねっすけど」「何が」「俺最初の頃よりスティーブンさんのことうんと好きになっちゃってるんで、そんなことされたって、むしろスティーブンさんカッコイイってなっちゃうと思うし、現になってるんすけど」「おい?」レオナルドは自分の口がこんがらがるのを感じた。「……僕今何を言ってます?」「分からん。たぶん恥ずかしいことを」「さいですか。いや分かります。顔がすごくあつ…………スティーブンさん? とレオは押さえつけていた大きな手をどかそうとした。動かない。「あの、スティーブンさん」自分の顔も確かによく分からない羞恥で熱くなっているが。それ以上に、手、が。
…………待て、いま血流操作するから」
 そう言ったスティーブンの顔が見たいから冷たくするより離してくれた方がいいっす、とは、まだ言えないレオナルドだった。
 何せ、こちらも見られたくない顔をしている自覚があったので。