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さもゆ
2024-12-06 15:49:18
34977文字
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【スティレオ】ツイログ
1~8…付き合ってないタイプのスティレオ。
9~12…付き合ってるタイプのスティレオ。
2020.12.27 たまごのお粥pixiv投稿作品
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テンション振りきれると仲間にキスをぶちかます番頭と、まだぶちかまされてなかった少年の話
キスについて
「この間、びっくりしたことがあって」
そう言いながら彼が出したカードは『SKIP』で、レオはむむむと糸目と糸目の間に皺を寄せた。自分の手札はまだ七枚もあるのに、相手は残り三枚。敗色が濃厚に見える。とはいえ、自分は飛ばされてしまうのだから、まだ相手のターン。どうにもできない。だが話を進めることはできる。
「
……
びっくりしたこと?」
「はい」
例のごとくHL的事情でアパートに帰れなくなったレオと、レオのやけくそな夜更かし(メンバーはこれを『地獄のウノ』と呼ぶ)に付き合わされているツェッドしかいない深夜の水槽前でないと、聞き漏らしてしまうような控えめな返事だった。「
……
それは如何様な」自然、こちらの声もひそめられる。
彼はじっと自分のカードを見つめながら、スティーブンさんのことです、と更に声を落として言った。レオは意外な名前が出たことにきょとんとして、興味を惹かれる。
「スティーブンさん」
「はい。この間、ハリケーンを神と崇め奉る会が起こした事件があったでしょう」
「ツェッドさん大活躍のやつですね!」途中、風を操る彼が神として崇め奉られそうになった、説明すれば絡まったイヤホンコードよりややこしい事件のことだ。
「いや、そんな」ちょっと照れくさそうにしたあと、あれは大変でした
……
と遠い目で呟く。レオはその時戦況の近くにいなかったので、人伝に聞いた話なだけに下手に慰められない。お疲れさまです、とだけ返すと、まあ、いいんです、そんなことより、です、ツェッドが言う。
「あの時、皆さん大変疲労困憊だったじゃないですか。いや、レオくんはクラウスさんと別地点にいたから、まあ、その、兄弟子の口数が減るほど僕たち困憊してたんですけど」
「はい。スティーブンさんと一緒だったんですよね?」
「そうなんです。そうです。スティーブンさんもくずおれそうなほど疲れていらして」
氷の彼は事態の把握から解決に至るまで人一倍奔走、その上台風の混じる大乱闘に巻き込まれ、その時のインカム越しの乱雑さったらなかった。指示、スラング、命令、スラング、激励、スラング。女人禁制の宗教団体なのが幸いだったかもしれない。あの場にチェインがいたら卒倒していただろう。
ツェッドはそこで一旦口を閉ざすと、おもむろにカードを出した。「スキップ」ま、またか。
しかし会話の続きが気になっていたレオは今度は眉根を寄せず、どこか言い淀むように黙っている後輩を、大人しく見守る。
「まあ、その、疲れてたんでしょうね」
前置き。
「分からなくはないですよ。ヒューマーにはよくあることだと学んでます。僕だって、アドレナリン出まくりの時はなんかこう、ぐわっとなりますし」
前置き。
「でも、あの人にそんなイメージはなかったというか。びっくりしました。兄弟子に訊いたら別にそれほど珍しいことでもなく、むしろ兄弟子もされたことがあると。いやあ、びっくりです」
「ツェッドさん?」
彼はまた、残り二枚のうち一枚をカードの山に出した。
「レオくん、スティーブンさんにキスされたことあります?」
本題。
「ウノ」
なのに、彼が深夜の二人ウノ大会を終わらせようとしている。代わりにレオの中で何かが始まろうとしていた。
上司から部下にキスなど同意がなければ頬でも男同士でもセクハラだとか、そんなことを思うより何よりレオはひどくいじけた気持ちで「おれはされたことないのに」と多大なるショックを受けていた。
ぶちゅり。ツェッドは自分の頬が潰される音を聞いたという。勢い余って倒れ込みそうになるのを抱き支えられながら「よくやったツェッド! お前は最高だ!」とスティーブンに頬へと唇を押しつけられたらしい。普段決して自分たちにはパーソナルスペースの狭くない上司との接触に目を白黒させていると、「あ、悪い。もしかしてヒューマーとのキス初めてか? つっても頬だ、許してくれ。何はともあれお疲れさん!」背中をバシバシ叩きスティーブンは快活に笑って現場を後にしたのだそう。後に残されたツェッドが呆然となんですかアレ、と漏らすと傍に来た兄弟子が慰めるように肩を叩いて言ったのである。「気にすんなよ、可哀想にな。並大抵の恐ろしさじゃねえよなアレ。たまにあるんだよ、戦闘後とか、興奮冷めやらぬ時によ。まあ普段はそんな気ねーけど、信頼されてるってこった」俺は身の毛がよだちすぎて血法仕掛けちまったけど。(と付け足したザップの顔は当時を思い出したのか面白いことになっていたらしい)ツェッドはなるほどヒューマーとはそういうものかと納得することにした。
納得できないのはレオの方だ。
俺はあの人にキスなんてされたことないぞ。
レオは自分の思考がおかしな方向に進むのを薄々気づいてはいたが、この感情を見て見ぬふりするのは義眼保有者として度し難いほど耐えられそうになく(というのがただの言い訳であることには気づいていない)、いやでも信頼の証のようなものをまだされてないということはつまりそういうことかとか、いやいやいやただ単にあの人が俺に賞賛しきりの大事件がまだ起こっていないか起こっていたとしても俺が賞賛されることをできなかったからじゃないかとか、あれそれどちらの理由にしろだいぶヘコむぞ、でもしかしだってだって、とレオはツェッドから話を聞いて以来、歯をぎりぎりさせている。
……
だって。なんで、俺よりそりゃツェッドさんの方が優秀だけど、おれ、だって、おれの方が一応先輩なのに
……
!
「スティーブンさんはなんでぼくにはちゅーしてくれないんすか」
「ぐぶっ、
……
おーい誰だこいつに酒飲ませたの」
レオの頭はもとからショックで馬鹿になっていたが、今は酒も加わりかろうじて機能していた理性と常識が総崩れしていた。
「誰が飲ませたかなんてそんなのはどうでもいいんす」ライブラ事務所内での飲み会だ、誰が何を持ってきて自分が何に手をつけたかなんて、安心しきって細かく覚えていない。
普段ザップより礼節をわきまえツェッドより世間の常識を知っている、急に隣に腰掛け迫ってきたレオの赤ら顔は、スティーブンを少しの困惑に落とし込めたらしかった。「お前な、一応はまだ飲めない年齢だろ」大人らしいことを言ってはいるが、先ほど動揺で噴き出した酒が口端から垂れたままでいる。
レオは糸のように細い眦をきゅっとつりあげ、上司の顎から伝う赤い液体を注視した。美味しそうだなと思ったからだ。この酒を垂れ流している薄い唇が、ツェッドに熱いキスをぶちかましたのだ。(後輩はそんな表現を使っていなかったがレオの中ではそうなっている)
「俺にはしてくれたことないのに」誰が聞いても拗ねた声音が出た。
「ええー、ちょっと待て、話が見えないぞ少年」明らかに顔をひきつらせて仰け反っている。
それを気に食わなく思うがままに唇を尖らせた。
「ツェッドさんを褒めちぎってキッスしたんでしょう。頬に。あのもち肌に! 俺だってまだ触ったことないのに! 『よくやった』って背中叩かれたことはあるけどちゅーはないっすよ!」
「
……
あ。お前それ嫉妬か? なるほど、
……
いやどっちに嫉妬してるんだ」
「んな女々しいもん誰がしてますか!」
「きみだろ」
スティーブンはそこでようやく口許を拭った。零れていた酒がぐいと手の甲につくのを、あ、と声を漏らしながら見守る。しかし彼はそれもテーブルにあった布巾で拭い去った。レオは視界から赤が消えたことで、なぜか仕方がないなという気持ちでようよう彼の瞳を見上げやる。彼の夜色の瞳はパトリックの持ってきたムーディな天井照明によって赤っぽくなっている。離れたところでザップたちの騒ぎ声がひっきりなしに続いていた。
レオは急に寂しくなった。
「スティーブンさんはぼくを信用してないんですか」
「そんなことはない」即答だった。
「でも、ツェッドさんにはちゅーしたんでしょう」
「あー、あのな、悪い癖だとは思ってるんだ。いつも正気に戻ってからちょっと死んでるよ。あいつには悪いことをした」
「ぼくにしてくれたことないですよ」
「悪いことしたと思ってるって言ってるだろ」
「全然悪かねーです。でもザップさんにもツェッドさんにもしたのにぼくにしてくれないのは悪いっす。悪逆の極み」
「なんなんだきみ、いじけ方おかしくないか?」まるで三兄弟の真ん中を相手するように眉尻を下げている。
ちぇっ。とレオは実際口にした。「そりゃ僕は二人に比べて圧倒的に足手まといですよ。唯一役に立つ義眼だってまだうまく使いこなせない。スティーブンさんがキスしたくないのも分かりますよ」
「別にしたくないとは言ってないだろ」
思わず、といった体で憮然と言い放ったスティーブンは、寸の間のあと、レオの顔を見て『しまった』というふうに頬を引き攣らせた。次に言うレオの言葉を察したからだった。
「じゃあキスしてくださいよ!」
声が大きい! スティーブンがレオの口を手で塞いだ。
「っあのなあきみ、優しいから言ってやるが相当酔ってるだろ、明日あたり絶対羞恥で死ぬぞ」
鼻も口も覆った掌に唇を押し当てもがもが言ってやると、くすぐったかったのかおい黙れ酔っ払いと笑いながら更に手を押しつけてくる。もがが。普通に苦しい。
「大体俺はきみと違って酔ってないし正気なんだ、その状態でキスなんて頬でも事故だろ。もしくは事件。とんでもない」
もがががっ。
「いままできみにしなかったのはタイミングがなかっただけさ。きみが活躍するってなるといつも血だらけのぼろぼろ。キスして褒めてる暇あったらギルベルトさんの車に放り込むね」
もごごがっ。
「分かったら、酔っ払いらしく若者たちのとこへ行っておいで。はは、あっち凄いぞ。ザップが火を噴いてる。あれは駄目だな。あーあー、ああ
……
」言わんこっちゃない、彼は呆れてレオの口から手を離した。その時だけ喧騒が遠くなり、スティーブンの瞳も逸らされ、頬の傷があらわになるのを、レオはちくしょうと思って見ていた。この大人は全然レオのどうしようもないいじけに付き合ってくれない。いわゆる本当に子どもじみた拗ね方だった。目の前の大人が構ってくれないのが苛立たしい。
けれどレオは立派な十九歳男子、もと紐育の法律では酒は飲めないが既に成人している男である、そこで子どものように泣きわめくほど幼稚ではなかった。
スティーブンの首を鷲掴んで(身長の低いこちらが丁度よく引き寄せられそうな箇所がそこだった)目尻から口許に走る傷痕にキスをぶちかました。ぷちゅっ。酒で濡れていたレオの唇と引き攣れて皮膚がでこぼこしているスティーブンの頬が湿った音を立てる。唇の皺が感じた皮膚と傷の境目が面白く、ちょっぴり食むようにしてしまったあと、レオは満足して糸目をニヤリとさせる。大人に一発食らわしてやった気分だった。スティーブンがレオをよく分からない寂しい気持ちにさせたのが悪いのだ。
「へん、おれはスティーブンさんの頬っぺにぶちかましてやりましたよ」
本人に得意げになって宣言するほど頭が馬鹿になっていた。
ところでスティーブンは?
「
……
、
……
」
引き寄せられた際曲がった首とキスされた頬を押さえ、へらへら笑うレオに視線を向け、なんとも言えない顔をしていたかと思えば。めらりと夜色の瞳に明るい赤を混じらせた。「調子に乗るなよマセガキ」悔しそうに言ってレオの顎を掴み取る。ぶちゅり。レオの片頬から聞きたかった音が鳴った。
翌日、酔っ払いどもが死屍累々としているライブラ事務所内でレオはスティーブンが言っていた通り死んでいたし、スティーブンも自分が言っていた通りちょっと死んでいた。おそらく、近いうちに、ツェッドの水槽前では地獄のウノ大会が開催されるだろう。相手は彼の先輩か上司かもしれない。
今度はレオだけでなくスティーブンの中でも、何かが始まろうとしている。といっても、HLでは大して珍しくはないことだったが。
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