さもゆ
2024-12-06 15:49:18
34977文字
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【スティレオ】ツイログ

1~8…付き合ってないタイプのスティレオ。
9~12…付き合ってるタイプのスティレオ。

2020.12.27 たまごのお粥pixiv投稿作品


首の話。




 クラウスと話している時のレオナルドは甲羅から出た亀のように首を伸ばしていて大変そうだった。
 傍目から見れば自分とクラウスでもそう映るだろうが、あの少年との不自由そうな身長差ほどではない。自分と話すクラウスは決して膝を屈めはしないし、自分の頭頂部は彼の肩の高さだから声だってそのまま耳に落ちてくる。しかし少年は彼の鳩尾に癖毛頭がくる。大変な距離だ。
 では自分と少年の身長差はどうかと言えば、奇しくもクラウスとの身長差と似たようなものだった。癖毛頭が肩より少し下あたりにくるのである。だから、まあ、少年と話す彼のように膝を屈めたり腰を折ったりはせず、首を傾ける程度で事足りるわけだ。それに、少年の声は男にしては高めで非常に聞き取りやすい。こちらがわざわざ小さな子ども相手にするように差を埋めるということはほとんどなかった。
 ところで少年の服はゴーグルがかかりやすいタートルネックのスウェットである。首周りや胴にゆとりはあるものの真正面から見れば肌の露出は少なく、防備的と言えよう。ブラフの小銭をいくつか仕込める機能性もある。良い服だと思う。亀の首を守れるような。
 真正面から見ればの話だが。

 レオナルドが無防備な首を晒して上を見上げている。
 上というか前に立つクラウスに糸目を向け喉仏を見せている。
 観葉植物の傍で話し込んでいるあたり、きっと出社した挨拶からそのまま話に花が咲いたんだろう。証拠にクラウスの手には如雨露が握られたままだ。……喉仏を見せているって、なんだ。
 スティーブンは遅れて自分の認識に眉を寄せたが、しかし認識通りの光景なのだから特段おかしなことではない気がした。ほかにひとのいない執務室は静かであるし、そうすると背の高すぎる彼が少年に合わせて屈む必要はなく、必然的に少年は首を伸ばす姿勢となる。何もおかしくはない。
 ならば何に違和感を覚えたかというとそれに明確な答えは用意できず、スティーブンは益々眉を寄せた。ただ、あれでは、おそらく、自分よりもクラウスの方が多くのものを見ることができるだろうと考えついた。多くのもの? たとえば?
 たとえば。喉仏だけでなく鎖骨(くらいなら俺の身長でだって時折見える)とか、それより下とか。
 馬鹿な。あの服はそれほどがばがばじゃない。
 と思ってやはりそのおかしさに気づく。なぜ少年の首に対してここまで考えを巡らせなければならない? 
 スティーブンは眉間に皺をつくったままじっくり黙考した方がいいと更に考えたが、それよりも足が気配を消して少年の後ろに歩み寄る方が早かった。頭から一番遠い故に、自分の足は体のどの部位よりも本能的だ。気配を消して部下に近づく副官をボスは不思議そうに見てきたが、目の下で話を続けているレオナルドにそれを知らせはしなかった。スティーブンも何も言わなかった。何も言わずに、上向いて話に夢中になっているレオナルドの無防備な首へ後ろから片手を滑らせた。
「ビッ」
 死にかけのヒヨコみたいな声が指を添わせた喉仏から飛び出た。
 どくどくと脈拍の速さが手のひらに伝わってくる。
 スティーブンはレオナルドの伸ばした首を軽く撫でるように掴み、人差し指で輪郭を擦っていた。
 覗き見下ろした先で、限界まで見開かれた義眼の明かりが顔に突き刺さってくる。その下の口がぱくぱくと二度ほど音を出し損なって震えた。
「すっ……すんません、おれ、首絞められるんですか……?」
 あんまり絶望深い声音で訊かれたスティーブンは噴き出しながら違うよと言おうとして、けれどもなぜ少年の首を守っている(という自認だった。なぜだか)のか分からず、自分でも参って言った。
「いや……少年が上向くの、手助けしてやろうと思って。疲れるだろ、首」
 レオナルドが更に絶望しきった顔をしたので、たぶんひどいことを言ったのだと思う。
 クラウスが大真面目にすまない屈もうかと汗を飛ばし、レオナルドはもう一段階かわいそうな顔つきになる。スティーブンはまた噴き出した。それを間近で見たレオナルドはまたびくりと揺れる。
 おそらく本人は決して楽しい気持ちにはなっていないのだろうが、スティーブンとしては首を支えている少年が逃げ出さないことに気を良くしてしばらく笑っていた。
 見兼ねたギルベルトが皆さんソファに座られては、と促してくれなければずっとそのままだったろう。レオナルドが明らかにほっと息を吐いたので、なんだか惜しい気持ちになったが、少年の前に二人して座ってしまえば見えるものは完全防備服の少年だからまあいいだろうと思った。
 思ったところで。
 やっぱり何か、おかしな感じはするのだけれども。