さもゆ
2024-12-06 15:49:18
34977文字
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【スティレオ】ツイログ

1~8…付き合ってないタイプのスティレオ。
9~12…付き合ってるタイプのスティレオ。

2020.12.27 たまごのお粥pixiv投稿作品


顎の話。1

かわいい




 スティーブンを何やら怒らせてしまったのだと気づいたのは、ちょっと突き出した唇が中々彼の顎に到達しなかったからだった。
 スラックスのポケットに入ったままの腕を掴んで、一生懸命つま先立ちしてバランスを取る。それから、えいやっと口を尖らせれば、形の良い顎の先になけなしのキスが届く。はずなのだが、おかしなことに自分の唇はちょんとした感覚を伝わらせなかったし、背伸びした足はぷるぷる震えたままだった。
 レオナルドはきゅっと瞑っていた糸目で窺うように上司の顔を見上げた。どうしよう、と思った。もしかしたら、何か怒らせたのかもしれない。顔の位置が、いつもキスをこちらからする時よりも遠かったのだ。それで再認識する。一生懸命背伸びして届くキスは、自分の頑張りと、屈んでくれない上司が猫背という意地の悪い優しさを発揮してできていたものだと。
 つまり、きちんと背を正して顎を引いた彼の顔には、今のようにどう足掻いたって唇が届かない。
 でも、そうされる理由が分からず、レオナルドは掴んでいた腕を控えめに揺すった。
「すてぃーぶんさん」
 自分でもちょっとどうかと思うほど子どもじみた声が出た。スティーブンはそっぽを向いた。益々不安な気持ちになる。
「ねえ、き……キスしないんですか」
 しないも何も、キスがしたいなあと思って仕掛けたのはレオナルドの方であったが。それでもこんなふうに拒まれる姿勢をとられたことはなかった。
「す……」もう一度名前を呼ぼうと彼の逸らされた顔を見て、逸らされたということはやはりキスをされたくないからなのかと考え、噤んだ口の代わりにまた腕を揺すってみる。つん。レオナルドの唇ではなくスティーブンの態度の方がその音に当てはまっていた。
 レオナルドは諦めようかと思った。つま先立ちの足もキスをしたい心も挫けかけている。けれど、こんな些細なことで諦めるのもなんだか情けなさすぎて嫌だった。そもそも何も言ってくれないスティーブンも悪い。されたくないなら、されたくないで、そう言って貰わないと、したい方のやる気はどこに流せばいい?
 流れた行き先というのがレオナルドの右手だったらしい。諦めかけて視線を下ろした先、ちょうど目の前にあった黄色のネクタイに引き寄せられ、右手が勝手に上等な黄色を握って引っ張っていた。ぐい、不意を打たれたのか、スティーブンの顔があっけなくこちらを向いて驚いていた。
 レオナルド自身、急なやる気を見せ無体を働いた右手に驚き、唇が触れ合わないぎりぎりの距離で中途半端に硬直してしまう。視線がかち合う。かち合った視線を辿るように額がぶつかる。そこで気づいた。スティーブンは別に怒っていない。氷の中で灯る炎のような瞳をして、垂れた眦を欲とからかいでにんまりさせている。
……しないの? キス」
……
 レオナルドは弄ばれた心地になってむっとして返した。「しないです」むっと下唇を突き出した。言葉なんかよりよっぽど素直なお口である。
 スティーブンは笑ってその落としやすい唇にキスを落とした。もちろん、レオナルドが仕掛けるちょん、という可愛らしい音には、到底ならない方のキスだ。