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さもゆ
2024-12-06 15:49:18
34977文字
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【スティレオ】ツイログ
1~8…付き合ってないタイプのスティレオ。
9~12…付き合ってるタイプのスティレオ。
2020.12.27 たまごのお粥pixiv投稿作品
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警部補と少年が副官についてぼやく話。
警部補と少年
警部補さん、と瓦礫の山から人目(おそらくこの規制線を張った惨状極まりない現場で憚る目線とは、仲間内からのものと、こちらからのものだろう)を気にして左右を見渡し、ひょこひょこ近寄ってきたライブラの一員は、最近見かけるようになったすこぶる糸目の少年だった。戦闘員ではないと思う。秘密結社の力を借りて押し通さなければならない現場で、彼がいつも参戦しているわけではなかったからだ。
けれどダニエルが信条とする、この街で一番弱っちい守らなければならない存在、ではない、ということだけは確かで、というのもそうでなければ彼は秘密結社などに所属していないだろうし、不規則的に現場に駆り出されもしないだろう。となれば態度は無論ぶっきらぼうなままで良いだろうと、眉間の皺を深くした。
「なんだ。ライブラのガキが何か用か」
瓦礫の凹凸を危うげ満載で乗り越え、ガキって、と困ったように細い眦を僅かにひくつかせた少年は、あのーと言いづらそうに唇を尖らせる。
「あの、
……
あなた、呪われてますよ」
「
……
スカーフェイスの差し金か?」
「え?」
スティーブンさん? 困惑した様子で首を傾げているのと同じ向きにダニエルも首を傾げ、チーチキチキ、頭の中で歯車を噛み合せようと演算する。一体なんだ、と呟いて最近妙に重い右肩に手をやった。紐育がHLになってからは、オカルトな物言いやSFな武器、ファンタジーがあちこちで息をしている。そして自分は警察だ。誰にでも受け入れられる正義のもとでは戦ってはいない。だから「呪われてますよ」発言は別段おかしなことではなかった。そろそろ病院に行くべきかと案じていた右肩の重みが、呪いによるものでもおかしくない。
おかしいのは、わざわざそれを言いに来た目の前の少年だろう。
彼の上司に恩でも売ってこいと言われたか。それにしたってそのすっとぼけた面はきょとんとしている。もし差し金ならば、近くであの胡散臭い微笑みを浮かべている男がいそうものだが、周囲にそれらしき姿はない。
首の傾きを正し、あのー、と少年がまた言った。
「あんまりややこしそうな呪いって感じでもないですし、たぶんその辺の呪術師さんに言えば解いて貰えると思うんですけど」
でもヤブにつかまされたりもするんで、ええと、信頼してる呪術師さん紹介しますよ。あの、大丈夫です、どんなに屑な人間が客でも代金さえ払えばちゃんと仕事してくれる人
……
人じゃないけど
……
がいるんで。
そう言ってどう見てもサイズが合っていない服のポケットからメモとペンを取り出す動きを、待てと片手で制す。頭の中の歯車は未だ噛み合っていなかったが、口に咥えていた煙草を手に取るには充分だった。煙をふうと吐き出してから、いらねえよと言う。
「うちにもお抱えの呪術師がいるんだ。お前らの世話にゃならねえ」
「あ、そうか。そりゃそうっすよね」
思い至った顔つきで納得し、大人しくメモ帳らを仕舞いこんでいる少年に、まさかと歯車の演算がようやっと噛み合ってしまう。まさか、本当に、誰の差し金でもなく? ダニエルは盛大に口の端を曲げた。
「まさかお前、それだけか?」
「はい?」
「呪われてるって言うためだけに、わざわざHLPDの警部補に声を? ライブラのガキが?」
「はあ。まあ、見えちゃったもんは気になっちゃいますし、そうですけど。あっ呪われてるの知ってました? 余計なお世話でしたかね」
「いや知らなかったけど」
「じゃ、良かったっす」
そんじゃまあ、そういうことで、お疲れ様でしたと癖毛頭を下げて再び瓦礫を超えていこうとする背中はあんまり頼りなさすぎた。うっかりこの街で一番弱そうな存在に見えるし、実際、おそらく、ライブラの中でも弱い一般人の分類に分けられるだろう。瓦礫を乗り越えて行きつつ、げえっザップさんまさか置いていきやがった、と零している様はまさしくだった。そして彼は、すこぶる目がいい。呪いをつい見えてしまえるほど。
煙草を手に持ったまま、おーいガキ、と後ろ姿に惰性で声をかける。
「
……
今の職場が嫌んなったら転職に来い。歓迎する」
うわっ、彼は足を滑らした。瓦礫の隙間に足を飲まれつつ、首だけ振り返った顔は不満げに顰められている。歓迎するなら今助けてくださいよ、喚いている。知るか。それくらいなんとかしろ。ただの知り合いにそこまでする義理はねえ。あとねえ、と糸目と糸目の間にぎゅっと皺が寄る。僕、そこまでガキじゃねーっすから。
「これでも十九にはなって
……
」
「ガキじゃねえか。成人なり立てだろ」
「いや、そうっすけど。そうですけど。そうです、まだ自分大人に慣れてないんでちょっと助けてくださいこれ足どうなってんだ」
「頑張れライブラー」
「ちょっとやめてっ、秘密結社の名前で容易に応援せんでください!」色々困る!
ぎゃあぎゃあ喚いている少年はどう見てもクソガキだ。安心しろよ、規制線張ってんだ一般人はいねえよ、適当に宥めすかすとだからそうじゃなくてまず助けてくださいと情けない声を上げる。足は瓦礫にずっぷり嵌っている。しゃーねえなクソガキ、と煙草を落として踏みにじるとあっ警察がポイ捨てしてる! と自分の状況を忘れたのか嬉々として叫んだ。ダニエルは手を振った。「じゃ」「あああウソウソ嘘です置いて行かないで!!」「そのうちポリスーツが掘り起こしてくれんだろ」「だってあれ瓦礫ごとじゃないですか! 繊細な手つきで助けてほしいんすよ、ったく自己責任を掲げるやつはどいつもこいつもロクなもんじゃないっすね!」やけくそのように叫んでいる子供のもとへ、不承不承、近寄ってやる。何の話だ、その状況で元気だなお前。
……
空元気っす。
「大体おめえのとこの上司はどこ行ったよ。あの傷野郎でなくても、褐色のチンピラとかいんだろ」
「いやもう速やかに各自解散して
……
あなたマジで人の名前呼びませんね」
「ったりめーだろ。それとも何か、秘密結社の一員さんはそんな容易に名乗ったり人に名前呼ばれていいのか」
「ダメ
……
なはずなんですけど、何せリーダーが名刺配るお人なので
……
」
「あのお坊ちゃんは馬鹿正直だよな」だから副官を相手するよりよっぽどいい、とは言わず、気づいたことにああーそうかと煙の味が残る溜め息を深々吐き出してしまう。速やかに各自解散。つまり、だから、本当に、少年の行動はライブラとは無関係の個人的なお節介なわけだ。意味が分からない。だが、そういうやつは一定数存在する。ダニエルはそういうやつに手を伸ばすのがわりかし好きだった。極たまにだけれど。
「おら、手ぇ出せボウズ。引っ張りあげてやっから」
「あざます!」
礼を言うべきはこちらだと思わないのだろうか。呪いなど、まあいつかは気づくだろうが、言われなければ気づかなかったのは確かだ。いつどこで誰に掛けられたのかも記憶になく、そう強いものでもないはずだろうし、それをわざわざ事件後、見かけた決して仲良くはない組織に伝えに来る行動は、彼らのリーダーの馬鹿正直さによく似ている。上が上なら、下も下だな。そう考えると、ではあの副官の、人を食ったような態度も彼に影響していくのかと思い至り、いやそれはねえなと伸ばされた手を鷲掴む。ないない。あの氷の副官自身がそれを許すと思えない。力任せに引っ張れば、痛い痛いと泣きながら身を捩り、ようやく両足を瓦礫の上に踏み締めさせた。あー痛かった、ありがとうございます。糸目をほっとしたように緩めて言うので、おうと面倒そうに返してやる。
「
……
スターフェイズの野郎も大変だな。ライブラはいつから託児所になったんだ」
「託児されてねえです。ってか、スティーブンさんの名前は呼ぶんですね」
「ああ、まあな。知人以上の顔見知りになっちまったからな」
「
……
友だちになったってことですか?」
「虫唾が走ること言うんじゃねえ」
服にこびりついた土埃を叩いている少年の頭を、軽くどつく。一瞬で首の裏までさぶいぼが立った気がする。
「
……
いやだって、知人以上って」
「今のところ利害関係の一致した協力関係。知人以上、友人以下だろ」
「
……
はあ、まあ、そーですかね。じゃあその間の関係になると、名前を呼び合うことに?」
「明確な線引きはねえが、そうなるな、今の流れだと」
いい加減だ、とどつかれた頭を摩りつつぼやいた。そりゃそうだろ。名前を呼ぶのに確固たるルールを持ってるのなんて、軍所属かっての。そういえば、とぼやいたついでばかりに、そいつが漏らす。
「スティーブンさんも、僕のことだけ『少年』て呼ぶんですよ」
最近は、ちゃんと名前で呼んでくれることもありますけど。
そーか、と相槌を打ち、げっと苦汁を飲まされた心地になる。なんとなくだ。俺とあいつはおそらく歳が近く、正義のためなら違反も辞さない心意気なのも、認めたくはないが同種類のものを抱えていると思われる。こいつのこと、それも自分の組織に所属している弱っちい部下を、『少年』呼びだって? うげえ、呻きとも溜め息ともつかぬものを吐き出し、不思議そうに糸目を向けてきたガキの頭をぐしゃぐしゃに掻き回し、何するんすかと抗議してくる背中を押しやる。うるせえよ、お前もう帰れ、邪魔だジャマ、秘密結社の構成員らしくひっそり静かに迅速に、もう何にも巻き込まれることなく帰っちまえ。
「じゃーな、ちんちくりん」
「俺の名前叫んでやりましょうか!?」
叫べるもんなら叫びやがれ。ぎゃあぎゃあ喚きつつも去っていくちんくしゃの背中を見送って、重い右肩に手をやり、個人的なお節介を受けた場合は個人的な礼をするべきか無視をするべきか考えてみる。だがすぐに面倒になって考えるのをやめた。まだ名前も知らない相手にすることなんて何もない。
なんとなく、だ。
この街では人はすぐ死ぬ。あっけなく、唐突に、くしゃみする間もなく瞬間的に。名前を呼び合うような仲になるまでに、片方かあるいは両方が命を終えるのなんざ珍しくはない。だから。
最初から懐にいる者の名前を、もっと言えばそいつが自分の身も守れないほど弱いのならば、呼ぶなんて、そんなの、後のことを思えば本当に堪ったもんじゃないのだ。もし名前を呼び合うほど心許したあとに、あっさり死んでしまったら?
ダニエルはそれをなんとなく、というより、まあ覚えのある感覚だったのでよく分かってしまった。
「あいつも案外臆病だな」
そして、ならば、リーダーはともかく副官が、あの少年をこの街では死なせない、という決意を持ったということだ。
あのガキ、ただの一般人じゃないのかね。そりゃそうだろう、と自問自答して、ダニエルはまた面倒そうに、気怠く右肩を回しやった。
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