さもゆ
2024-12-06 15:49:18
34977文字
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【スティレオ】ツイログ

1~8…付き合ってないタイプのスティレオ。
9~12…付き合ってるタイプのスティレオ。

2020.12.27 たまごのお粥pixiv投稿作品


ワンドロワンライ・ティーブレイク

代理ティータイム




 仕事を中断してお茶を飲むことをティーブレイクという。英国では紅茶、米国ではコーヒーでのブレイクタイムが多い。
 ではここ、異界と人界の混じり合う境界都市、ヘルサレムズ・ロットでは?



 ──いつになく爆煙が凄まじい。
 鼓膜と鼓動がどくどく震えているし地を踏み締めている足裏はちょっとすると振動にやられて吹き飛びそうだし、何より目を庇うゴーグルに粉塵がびしばし音立ててぶつかってくる。
 倒壊した看板の裏に隠れ、ゴーグルの表面に傷をつけてくる砂埃をぐいと拭い、ただ爆煙に飲まれている戦況を見据えるレオナルドは、果たして今何時だろうかとともすれば呑気なことを全く焦りながら考えた。
 あの人たちは一体、もう何時間戦っているんだ?
 義眼の力を必要とする緊急招集に呼ばれ主要戦闘メンバーとともに現場に訪れたのが今朝方。いつものようにギリギリで世界の危機を救ったかと思えば、ひとつの事件に複雑に多数のものごとが絡まり縺れこんがらがって、昼の鐘が鳴いた頃には現場はレオナルドの義眼など必要としない極めて難儀で単純な物理戦線となっていた。
 画面のひび割れている端末を取り出し時間を確認する。15時2分。ゴーグルの奥で惜しげもなく義眼を曝け出す。つまり、半日以上は戦っている。
 そして自分は約三時間、巻き込まれないようここにこうして大人しく身を縮めていることになる。
 お前にとっちゃあそれが分そーおーだよ陰毛頭、ぐしゃぐしゃに髪が乱れた頭の中で先輩の声がした。分かってます、分かってますよ俺だって。それくらい分かってます。熱と冷気と静電気、血の紛れる噴煙が風に押し流されてくる。そこの中心を見る。
 湧いて出てくる敵方と、推して参っている味方々。あの中での自分の役割はひとつもない。そもそもああなる前に邪魔だとザップに投げ飛ばされたし(戦線離脱させるための荒業であり、そして彼の責任ある庇護側自己責任主義の行動だ。とはいえもちろん感謝しているし腰は強かに打った)、指揮の副官にもこの時だけでなく常日頃から、やむを得ない場合以外非戦闘員は前線に出るなと言い含められている。何時間も彼らが戦うなんてザラであるし、そこで義眼の助けが必要なら必ずレオナルドが怖い嫌だと言っても引ったって行くだろう。今は自分の身が最優先だ。
 分かっている。
 けれどそれはレオナルドが彼らを心配しない理由にはならない。イコールにならない。
 切れたざらつく唇の端を舐め、じゃりじゃりと砂を噛み締める。あとどれくらいこうしていたらいいのだろう。不安だ。とても。まさか負けるわけがないことは確信しているが、上司や先輩、後輩が傷つきながら戦うさまはいつ見たって胸の不快指数を上げる。
 15時4分。
 進みの遅い時間に目を落とし、もう一度上げると、爆煙を突っ切ってくる上司の姿を認めた。義眼でだ。煙の外へと飛び出し、真っ直ぐこちらへ駆けてくる段階になってレオナルドはゴーグルを引き下げ糸目に戻る。半壊している看板から飛び出し、どうしたんすかと焦って訊いてからぎくりと足を止めた。
 頬の傷が引き攣るほどの笑みを浮かべた上司が、大股で駆けてきている。
 大変に怖い。
 先輩と違ってこの上司は戦闘中に飄々とした微笑みは浮かべても大口開けて笑ったりはしない。嘘を言った。一応はある。しかしそれはリーダーと背中合わせで戦っている時や何か面白いことがあった時、もしくは──
 ──面倒な状況にブチ切れているか心身ともに疲弊しきっているか。
 どうか前者じゃありませんように、や、後者であった場合もそれなりに困る(だって疲弊していても彼の代わりの戦闘など到底補えない)けれど。
「すっ、す、ス! スティーブンさんどうしたんすかっ、何か俺に御用が」どもって言った言葉は、つんのめるようにしてレオナルドの前に立ち止まり、そのまま両肩に手を置いてきた上司によって悲鳴に上書きされた。ヒイッ、怯えるレオナルドを意に介さずスティーブンは覆いかぶさってくる。
 背中が反る。落ちてしまいそうな腰を大きな手が乱雑に支え、普段ない接触と距離にまたもや悲鳴が漏れる。
「ところでレオナルド、今何時か分かるか?」
 だというのに上司の声は妙に上がっており、あ、これちょっと戦いすぎておかしくなってるやつだと冷や汗をかきながら悟った。戦闘員によくあることだ。よくあることだが、腕時計はどうしたんすか、と冷静に訊けるほどこういう時の対処の仕方は分かっていない。
「さ、さん、3時4分、でしたけど」
 反り返る体勢に苦しくなりながら答え、覆い被さる上司の顔を見上げると彼はそうかと笑った。
「ブレイクタイムだな。お茶持ってる?」
「いえ、エッ、い、いいえ」胸の中で益々心配が大きくなる。
 対してスティーブンはこの世の憂い全て取っぱらった笑みで(戦闘で変にぶっ壊れた表情筋の成れの果てとも言う)またそうかと頷くとじゃあちょっとお茶休憩をくれと言った。
 そしてそのまま唇が唇にぶつかった。
 ぶちゅり、だか、ざらり、だか。
 皮膚と皮膚が擦り合わされ、間抜けに開いていた口の中、砂利と血の味が充満する。
「は……
 じゃ、と。
 彼が腰を支えていた手で背中と肩を叩き、瞬く速さでまた戦闘へと戻って行く。爆煙。雄叫び。粉砕音。
…………
 は?
 レオナルドはしばらく、休憩時間に呆けて立ち尽くすサラリーマンのようにそこで呆然と固まっていた。
 ……もしかしたら。
 もしかしたら、俺が知らない間にティーブレイクの意義が書き換えられたのかもしれない。
 HLだし。
 そう思うことで、なんとか混沌から身を守ろうと、静かに立ち竦んでいた。



 ……ヘルサレムズ・ロットでも、ティーブレイクの意義は外の世界と変わらない。
 それは、ただ、彼にとって、無意識的に、お茶か少年か、という話なだけである。