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さもゆ
2024-12-06 15:49:18
34977文字
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【スティレオ】ツイログ
1~8…付き合ってないタイプのスティレオ。
9~12…付き合ってるタイプのスティレオ。
2020.12.27 たまごのお粥pixiv投稿作品
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ボスを一番に思っている副官のことを、よく分かっている少年の話
困った人たち、
「スティーブンさんは、何か勘違いをしてるんだと思います。気づいてますか?」
普段なら絶対に、酩酊しようが口が裂けようが言いそうになかったことをぽろりと零してしまったのは、清潔なベッドで書類仕事をしている目の前の上司が、あんまりにもいつも通りだったからだろう。
レオナルドは決して職場の上司に生意気を言う性格ではなかったし、上司の方も、十三も年下の部下に、ともすれば難詰じみた声をかけられるほど、不出来な上司ではない。むしろ、彼は立派な人だ。
先のBB戦で負った重傷の体は、病院の個室内を歩くだけでも辛いだろうに、もう背中に枕を挟んで事件処理のため時と力を使っている。世界の均衡を保つ秘密結社ライブラの副官として、爪の先まで包帯の巻かれた左手で持つ書類も、簡易テーブルに乗るノートパソコンを弄る右手も、それらに忙しなく片目が隠れた目線を行きつ戻りつさせるのも、いつも通り、不自然さもなく様になっている。
もう見慣れてしまった光景だ。
だからといって、見逃すことには、まだ慣れていない。
慣れようとするのをやめてしまったが故の、先ほどの発言だ。
額から右目にかけてを白い包帯で覆われているスターフェイズが、仕事の手を止め、傍らに立ち竦んでいるレオナルドを見ている。
レオナルドはじっと、握った手のひらに汗を滲ませながら、片方だけの瞳を見つめた。やがて、古傷の伸びる薄い唇が開く。
「勘違い?」
予想していたより、純粋な疑問を抱いた声だった。「何をだい?」
レオナルドはそれに少しばかりほっとして、今この個室にいるのはバイト終わりに一人見舞いに来た自分と見舞われているスターフェイズだけかを探り、ドアがきっちり閉じられているかも振り返って確かめた。オールオーケー。この部屋は紛れもなくプライベートルームだ。
その様子を眺めていたスターフェイズが益々不思議そうに目を眇める。
「そんなに知られたくない話なのか?」
「いや、なんというか、そのー」緊張する話なんで、と言った言葉に、嘘はない。レオナルドは変に緊張している。消毒液のにおいを嗅ぎながら深めに呼吸し、だって、と思う。今まで薄っすらと考えてきていたことを、明確な意思を持って、本人に告げようとしているのだ。体に力が入るのも仕方ないだろう。
そんなになるなら言わなければいいのにとも思うのだが、包帯を巻かれて仕事をする上司を見てしまったらどうにも口がもぞついて仕方なかった。傍らのパイプ椅子をちらりと見下ろし、いや、いざという時のために座った方がいい、と椅子に腰かける。立ったままだと微妙に逃げ出したい気持ちがあったので。「怒らないで、聞いてほしいんすけど」
……
往生際が悪いぞ、レオナルド・ウォッチ。
スターフェイズは不思議がりながらもああと言って体ごとこちらを向いてくれた。「
……
で、僕が何を勘違いしてるって?」
「あの、」言葉を選ぼうとして、口を閉ざし、ええいままよと再び開けた。「クラウスさんのことです」
「クラウス?」方眉が上がる。レオナルドは挫けないよう食い気味にはいと首肯して、暗色の垂れ目を窺うように半ば睨み上げる。「スティーブンさんは、クラウスさんがもし死ぬとしたら、世界のためか、BBにやられると、思ってるでしょう」口の中がからからに渇き、引っ付く舌で無理やり唇を舐め、ひどく塩辛い味の馬鹿げた空想事を喋った心地になって顔をしかめる。対して彼は表情を動かさなかった。
「あいつは志半ばで死ぬようなやつじゃないよ」世界はなんでも起こるとはいえ。これだけは、神より信じられる。と言ったスターフェイズの怪我は、そのクラウスが死なないように行動した結果の産物だった。そりゃそうでしょうよ、レオナルドはやけくそな言葉を飲み込む。だってあの人を守ってるのはあんたなんだから。「
……
そうじゃ、なくて。いやそーでしょうけど、もしもの、仮定の、イフ、ファンタジーな話ですよ」「この街でファンタジーを語るのか」「いーでしょう。だから、そんな、身構えないで聞いてくださいよ」身構えてるのはお前の方だろ、と言われ、レオナルドは座り悪く体を揺らした。スターフェイズはよく分からない顔をしてこちらを見ている。それを了承と取り、話しを続ける。
「感情とか、事実とか、抜きにして。スティーブンさん、そう思ってるでしょう」
「クラウスが、
……
死ぬなら、敵の攻撃だと?」
「はい。誰かを庇ってとか。寿命とか、病気とか、そういうのもあります」
「そんなのは誰だってそーだろ」呆れた物言いだった。
「じゃあ認めますね」
「少年。何が言いたいんだ?」
「クラウスさんを殺すのはスティーブンさんです」
「何?」
レオナルドはゆっくり言った。「スティーブンさん気づいてませんか。クラウスさんを殺すのは、きっと世界でもBBでも病気や怪我でもなくて、あんたなんすよ。あんたが、あの人の胃を最大限に痛めて殺すんです」そして口を閉ざす。
闇のように音もなく、靄がかった温度のない静寂が病室内を満たした。
窓の向こうは濃い霧が白く浮き出ている。
まるで世界に二人きりだ、とレオナルドは馬鹿みたいに思った。霧の中、昏く切り取られたスターフェイズの病室で、夜闇の王のような上司の言葉をただひたすらに待つ。もしかしたら自分がもっと何か言うべきなのかもしれないし、彼もそれを望んでるのかもしれなかったが、レオナルドの言葉はそれで全てだった。
ライブラのボス、クラウスを殺すのは、スターフェイズだ。
薄っすら、常々思っていることだった。
レオナルドがスティーブン・A・スターフェイズについて知っていることは決して多くない。むしろ少ない方だ。どう足掻いたってクラウスやK・Kのように距離感なく彼とは接せない。それに彼は、義眼とは関係なしに人の感情に敏いレオナルドにとってぬらりくらりとしていて掴みどころがなく、ぞんざいで、かと思えば壊れ物に触れるような言動をしてくることがある、摩訶不思議な上司なのだ。深いところを把握できる方がおかしかった。
けれどそんなレオナルドでも大きな自信を持って知っていると断言できることがひとつある。
スターフェイズはクラウスを大事に思っている。
一等。この世で最も。
クラウスが太陽ならスターフェイズは月。陽と陰。表と裏。隣に立ち、背中合わせで戦い、そして、ライブラの秤を均等に保っている、どちらも欠かせない存在。
馬鹿でも分かる。レオナルドは自慢じゃないが馬鹿だった。この街においては、特にそう評される。
クラウスを死なせることができるのはスターフェイズだけだ。
彼はボスを守るが、そのために、自分を顧みたりはしない。
その危うさを感じられるほどにはライブラに所属しているし、その結果が、目の前の重傷人なのである。
レオナルドは耐え忍ぶことには定評があるが、もういい加減、一歩を踏み出してしまいたかった。この大人に気づいてほしかった。勘違いを正してほしかった。
あなたにも、死んでほしくないと、思っているのに。
瞬きもせず暗い瞳を見つめ続ける。スターフェイズは、包帯の巻かれていない片方の瞼をゆるりと閉じた。同時に、薄い唇が弧を描いて持ち上がる。
「
……
世界の均衡を保つ秘密結社のボスの死因が、ストレス性の胃痛ってのは、中々ジョークじみてていいね」
穏やかな声音だった。
冗談じゃないぞ、レオナルドは思った。思ったまま勢い良く立ち上がり、拍子に椅子が引っ繰り返って静寂を打ち破る。昏い病室に青い眼光が閃き、見下ろしたスターフェイズの暗色を照らし出した。義眼に映るスターフェイズの表情は凪いでいる。少しは焦るかと思っていた。彼には後ろめたいことがあるはずで、だから、卑怯だとしても、レオナルドの言葉は響くという打算もあった。何かしら、影響を及ぼすと。なのに。いっそ怒られた方が、どんなに良かったか!
「僕を呼んでください」
レオナルドが悲痛に懇願すると、彼は片目で訝りながらも「レオナルド」と言った。「そうじゃなくて」「
……
少年」レオナルドはハイと返事した。
「僕は、そう、少年です。子どもだ、あなたにとったら。だから、」
自分の顔がみるみるうちにくしゃついていくのを感じながら、たった今まで凪いでいた大人の顔が比例して狼狽えるのを、ハハと鼻声で笑ってやる。大体、よくここまで我慢したものだ。
「
……
僕は今から、大号泣します」
二人きりの病室内に、盛大な泣き声と、ひどく慌てふためき慰める声が、しばらく。
……
無事で良かった、無茶しないでください、死なないでください、どうして分かってくれないんですか、レオナルドの喚きに、スターフェイズは、もどかしそうに瞳を困らせるばかりだった。
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