さもゆ
2024-12-06 15:49:18
34977文字
Public BBB
 

【スティレオ】ツイログ

1~8…付き合ってないタイプのスティレオ。
9~12…付き合ってるタイプのスティレオ。

2020.12.27 たまごのお粥pixiv投稿作品


レオくんと私設のお兄さん。

影なる半同居人




 痛い、痛い、朦朧とする意識で譫言のように呟いているのが自分でも分かった。
 日中に負った二の腕の裂傷が、深夜、ベッドの中、熱を持って夢見を悪くさせている。
 自分は今、眠っている。瞼は閉じているし、体も思うように動かせない。でも、電気が消えた、一人には広い寝室の中を見ることができている。義眼のおかげではない。義眼になる前から、たまに他人からも聞く、不思議な感覚。夢と現の狭間、奇妙で、不気味で、心許ない時間。
 皮膚の内側から毛穴までを焼くような痛みを抱えて、横たわり、堪え忍んで、暗い部屋の奥を睨みつけていたレオは、そこから影が入り込んでくるのを目にした。
 それはするすると音もなく人の形になり、はっはっと荒い息を吐くレオの前で立ち止まる。痛む体は動かせないし、閉じた瞼の眼球も動かせない。見上げられず、顔の分からない影は、少しの恐怖で身を硬くしたレオに覆い被さった。――これは現実ではない。
「いたむのですか」
 と影が耳元で囁き訊ねた。何かを訊ねられたことは分かったが、温度の低い声を吹き込まれた耳の奥にある脳は半分眠っていて、残りの半分は痛みに侵されていたので、意味がよく分からなかった。ただ、レオは、熱い血潮が過剰に巡っている左腕を抱き、「いたい」と言った。それ以外の言葉は、落とせない。
「そうですか」
 影はまた言って、レオの左腕を掴んだ。レオは悲鳴を上げた。上げたが、声にはなっていなかった。一度びくりと体が跳ねて、瞬間的に汗が大量に滲んだだけだった。「やめて」代わりに出た言葉は、呟きより弱々しかった。
 影が傷のある二の腕を押さえ、骨の形を確かめるように肘までをなぞっていく。ゆっくり、何度も。すると、燃えるようだった痛みが徐々に薄れ、短く荒い呼吸も深くなり、あんなに熱かった汗が冷えて寒いくらいになった。レオは、ああ、と声を漏らした。ああ、痛くない、良かった。これで……
「おやすみなさい」
 
 目覚めた時には寝間着どころか下着まで汗みずくになっていた。遮光されている寝室の、朝の光の届いていない影という影を見ていくが、人の形をした影などもちろんのこといやしなかった。ぶえくしっ、レオはくしゃみをして、すっかり痛みが弱まった腕をさすった。やはり、あれは、眠りが浅い時に見る、夢か幻か何かだったんだろう。
 と思うのがきっと正解なのだろうが、身じろぎくしゃみをしても目を開けない隣の男にとっては、不正解に違いなかった。彼は本当の答えを知っているが、レオに偽りの正解を見ていてほしいと思っている。そして、レオがそう思っていることも、聡い彼は既に知っているのだろう。
 隣で眠っているスティーブンは、一体いつ帰って来てレオを抱きしめ眠ったのだろう? 少なくとも、レオが痛みで呻き、隣で寝ようものなら睡眠を妨害しそうな、あの時間帯ではないことは、確かだ。
……スティーブンさん」
 この寝室の全ての影を集めたって到底叶いそうにない黒髪に隠れた耳へ、寝起きの掠れ声で囁く。
「この家、やっぱり、ほかにも誰かいるんでしょ」
 あなたによく似た色の、あなたによく似た冷たさの。
「おれはね、お礼をね、言いたいんですよ」
 怖いけど、優しくされたら、ちゃんとお礼をしなくちゃ。
 それまでじっとレオを抱きしめていたスティーブンは、もぞりとレオの汗くさい体にすりついて、寝息に近い声を吐き出した。
……伝えておく」
 うーん。
 まだまだ挨拶はできなさそうだ。