mochita_rj
2024-11-16 15:41:19
27131文字
Public TwitterのSS
 

ss2022年分

1Pに各ssの内容があります。飛んでね!
※一部ここに載せてないのがpixivにあります。最初の5作と露仗週間で書いたものなど


秋の始まりを匂わせる涼しい夜風が吹いている。
9月の夜ともなれば、夏の茹だるように湿気を帯びた暑さも消えるらしい。風だけではなく、おれの視界を占める夜空までも澄み渡っていて、煌々と輝く満月が静かな街を照らしていた。

「秋、って感じッスねえ。だいぶ涼しくなった」

「オイオイだからってあんまり薄着すぎるぞ。風邪ひくだろ、ほら」
「ふふ、さんきゅ。露伴」

はしごでおれの後から屋根に登ってきた露伴が、呆れた顔でおれに薄手のカーディガンをかけた。そのままおれの隣に座ってきた露伴が空を見上げて、感嘆のため息をつく。

「おお今日はまた綺麗な月だな」

今日は十五夜ということで、露伴の家の屋根に登って月見をすることになった。こんな高い所からだと障害物は無くなり、おれ達の月見を邪魔するものはなくなる。まんまるに輝く満月は、ここのあたりで1番高い場所にいるおれ達をスポットライトで照らしているようにも見えた。

「飲み物、コーラで良かったかい」
「お!いいっスねえ〜ありがと」

よく冷えたコーラの缶を手渡される。露伴は飲まねえの?と聞くとぼくはこれで、と水の入った透明なグラスを揺らした。露伴ほとんどジュース飲まねえもんな、だから細いのかぁなどと考えながらプルタブを開けると、プシュッ!と爽やかな炭酸の音が立った。

「「乾杯」」

おれは缶を、露伴はグラスをつき合わせる。冷たいコーラを勢いよく口に流し込めば、しゅわしゅわと心地いい刺激が喉を通っていく。月を見ながらなんか飲むってのも粋なもんだ。早くおれも大人になって月見酒してみたい。隣に座る露伴をちらりと見ると、空を見上げながら静かにグラスを傾ける横顔があった。おれの視線に振り向いて、

「どうした?」

とふわりと優しくおれを見つめる露伴は、おれよりもずっと大人でカッコよくて。ああやっぱり早く大人になりたいと思った。守られてばかりのガキから卒業して、おれもこの人を守れるようになりたい。いつもおれだけがしてもらってばかりなのって、同じ男としてちょっと情けないし。

「露伴ってさあ、おれのこと甘やかすよな」
「そうか?」
「うん。おれがまだ大人じゃねえから、そういうモンかもしんねえけど」

少しわかりにくいけど優しくしてくれる露伴が好きだ。おれを気遣って上着を持ってきてくれるのもそうだし、おれの好きな飲み物だって冷やして出迎えてくれる。でもあまりに完璧すぎるのも子供扱いされているようで、おれは複雑でもあった。

「あのなあぼくが誰にでもこういう事するわけないだろ」
「えっ?どういう事?」
「このぼくが!この街のガキ全員に優しくしてるか?違うだろ」
「ええと、」

やっぱり露伴の言葉の意味がよくわからない。露伴はクソ、とかああもう、とかごにょごにょ何かを呟いている。珍しく煮え切らない態度の顔を覗き込むと、とうとう痺れを切らしたように露伴はおれに向き直った。

ああもう鈍いな!歳がどうのじゃあない、惚れてるから甘やかしたいんだろうが!気づけスカタン!」

露伴は誤魔化すようにぷいっと顔を逸らしたが、赤くなった耳たぶは月に照らされてバレバレだ。照れてる姿はおれよりも幼く見えて、カッコよくて可愛い恋人に愛しさが込みあげてくる。露伴はにやにや表情筋が緩んでるおれをジトッとした目で見つめ、仕切り直すように咳払いをした。

「だから君が成人しようが大人になろうが関係ないね。ぼくは君を全力で甘やかすさ」
へへ。おれ、めちゃくちゃ露伴に愛されてんスね」
「当たり前だ」
「もしかしてベタ惚れ?」
「うるさいな」
「ね、おれも好きだよ露伴」
「知ってる」

今日の露伴はなんだか素直だ。にやにや笑ってるおれを悔しげに見つめているのが面白い。ヤケになったようにグラスの中身を一気に煽った露伴は、深く息をついて再び月を見上げた。

「満月の模様ってのは、よくうさぎに見えるって言うよな」
「それよく聞くけど、おれにはよくわからねえんだよな」
「ぼくには見えるぜ。うさぎが餅をついてるようにな。あの部分がうさぎの耳で、あれが臼で」
「あー!確かに!そう言われたら見えるかも」
「知らなかったのか?今までまともに月を眺めたことないのかい」
「しょうがねえだろ!今の今まであんまり月に興味無かったんだからよお」

残り少ないコーラを流し込みながら満月をよく見れば、なるほど確かにそう見えてくる。露伴はけらけらと笑いながら、やけに饒舌に月に関する世間話を続けた。

「そういえば満月の夜はオオカミ男がオオカミになっちまうとも言うな」
「?ああ、そっすね」
「オオカミはうさぎを喰うんだ。そんなときに呑気に餅なんかついてたら、そりゃあ喰われるよな。可哀想にな」
「ねえ、さっきから何の話ッ!?」

いきなり訳のわからないことを言い出した露伴の方を振り向くと、アルコールの刺激臭が風に乗っておれの方に流れてきた。その瞬間、ヒュッと息が止まる心地がした。おいまさか、

「露伴!!もしかして酒飲んでたんスか!?」
「なんだよ、いい大人が月見酒して何が悪い」
「あんたが飲んだらロクなことになんねえのが問題なんだよ!」
「貰いもんだけど日本酒も美味いな!アハハ!」

露伴は酒を入れたら面倒くさくなる。それを知ったのはこいつと恋人になって暫くしてからだった。やけに素直になってよく笑う分にはいいけど、その、ソッチの方までしつこくなるのが厄介なんだ。普段だったらワインを飲むから色で警戒できていたが、今日は月見ということで日本酒にしたのだろう。無色透明だったから気づかなかった、ちくしょう油断した。

「わーわーうるさいうさぎだなァ。いいから黙ってぼくに喰われなよ」
「ヒッ!?!」

露伴の顔が近づいたかと思うと、ぬるっとした感触が首筋に伝わったことでおれは「舐められた」と自覚した。慌てすぎて手に持っていたコーラが手から離れる。かなりの高さからアスファルトに叩きつけられ、アルミ缶が潰れた悲鳴が下から聞こえた。おれもああならないように慎重に露伴から距離を取ると、露伴は据わった目で怪しげに笑ったのちおれを強く抱きしめた。

「仗助好き、好きだよ。言葉にしなきゃ伝わらないなら何度も言ってやる」

普段大人しく潜めた愛と欲を全てぶちまけた、夜の闇よりも深い緑とぶつかる。獲物を捕らえた瞬間の獣のようなこの目には身に覚えがありすぎる。酒をやめさせた原因でもある、おれの誕生日祝いで露伴がワインを開けた夜だ。限界を超えわんわん泣いて許しを乞うおれを「可愛いなぁ仗助、愛してるよ。食っちまいたいくらい」と抱きしめて。結局解放されたのは月はとっくに沈んで朝日が登る頃だったはずだ。翌日丸一日使い物にならなくなったあの悲劇を思い出し、一気に顔が青ざめる。

「あ、あの、ここで?落ちるから。死ぬから、ほんとに、」
「流石にここではしないさ。少し冷えてきたしね、そろそろ部屋に戻ろうか」

咄嗟に逃げ道を確認する。が、ただでさえ足場が不安定な屋根の上、1階に降りる道はとっくに露伴に塞がれていた。この絶望的な状況で、舌舐めずりをして罠にかかった獲物を静かに待つ狼から逃れられるわけがなかった。

「ちょ、うわっ!?あぶねえ!あぶねえから!おい聞いてる!?下ろしてーーーッ!!!」
「オイ暴れるなマジに落っことすだろ」
「嫌だァーー!!落とさないでーーッ!!」

どこにそんな力があるのかわからない腕でおれを抱え、米俵を担ぐようにしておれを運び始めた。不安定な体勢、揺れる視界、遠い遠い地面。ここで落とされたら終わりなので大人しく捕まることしかできなかった。

「月は家の中からでも見える。夜はこれからなんだ、思う存分見ればいいさ」

完璧な恋人がおれを必死に求める姿に、少しは「悪くないかな」なんて胸が疼くおれも大概愛が重いのかもしれない。だけどいきなり豹変するのは聞いてない!秋風が吹きつける静かな住宅街に、慌てふためくおれの断末魔が虚しく響き渡った。