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mochita_rj
2024-11-16 15:41:19
27131文字
Public
TwitterのSS
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ss2022年分
1Pに各ssの内容があります。飛んでね!
※一部ここに載せてないのがpixivにあります。最初の5作と露仗週間で書いたものなど
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「
…
あ」
つい以前までの癖で2杯分淹れてしまったコーヒーを目にして、自嘲ぎみにため息を漏らした。
「何やってんだぼくは」
これからずっと持ち主がいないであろう青色のマグカップの横に、ご丁寧に砂糖とミルクまで添えて。ぼくは何回同じことをやるつもりだと目の前のカップを煽り、やけに口に残る苦味に顔をしかめながら1ヶ月前の事を思い出した。
*
すっかり大人になって、社会人として働く仗助に縁談の話が来ていたのを知ったのは突然のことだった。たまたまゴミ箱に乱雑に放り込まれていた、それらしき書類を見つけてあいつに問いただしたところ、実は一年前からこういう話は来ていたのだと白状した。
仗助は、ぼくと付き合わなければ今頃普通の女性と結婚して、可愛い子どもと幸せに暮らしていたのだろうか?そんな未来はぼくらには一生降ってこないという事実が今更突き刺さった。仗助には、特別な重みを持って受け継がれた家系には、こんなところで血を絶やさせる訳にはいかないのだ。ここが潮時なのかもしれない、そう思ってぼくが身を引くからお前は幸せになってくれと言っても、仗助がそれを許すはずもなく。あんたと離れるなんて嫌だと泣いて暴れる仗助を能力で抑え付けて、無理矢理恋人という関係を終わらせたのだった。
仗助の脳内に書かれていた、ぼくへの感情や2人の思い出を全て消した時。そこに書かれていたのは「露伴大好き!もっと甘えたい」「意地悪だけどそれ以上に優しいんだよなあ」「好き、好き、露伴。ずっとそばにいたい」なんて甘ったるい言葉ばかりで、見てるこっちが恥ずかしくなった。
「ぼくだって大好きだったよ」
紙をめくるたびに胸にずきずきと走る痛みに気づかない振りをしてペンを握った。無意識のうちに落としていた水滴が紙に染みを作り、しわになっていくページをめくり終わって、ようやく仗助は目を覚ました。
「
…
?なんでおれ露伴の家にいんの?」
その眼差しには今までぼくだけに向けられていた甘さは失われていて、これでぼくらは終わったのだと踏ん切りをつけたのだった。
*
そうやって過去のことに思いを馳せながら上の空で机に向かっていれば、当然だが筆の進みも悪くなる。時間だけが漫然と過ぎて、時計の針は既に昼過ぎを指していた。だめだ、こんな状態では仕事なんて進まない。机上に広げていた本を閉じ、上着と車のキーだけ引っ掴んで駆け出すように玄関の扉を開けた。
運転席の窓から入り込む潮風がかきあげた髪を撫で上げる。エンジンの回転数が上がり、クラッチを踏んでギアを上げる感触が心地いい。この時間だけは強制的に思考を止めさせてくれるから、こうして行き先も決めずに知らない道を運転するのが好きだ。
「
…
?ああ。行き止まりか」
心を無にして車通りの少ない海岸通りを走っていたら、とうとう陸の果ての港に到着していた。知らないうちに随分と遠くまで来たらしい。平日の夕方だからか自分以外誰もいない港に車を停め、係船柱に腰かけて目前いっぱいに広がる海をぼんやりと眺めた。
停泊した船に押し寄せた波が船体にぶつかり、ちゃぷり、と音を立ててまた返っていく。そうやって延々とうねりを上げて揺れ続ける海面は、西日の光を受けてきらきらと輝いている。ぼんやりとした頭で広大な青を見つめていたら、
『露伴!』
海の続く水平線に落ちる夕日を指さして綺麗だな、なんてはしゃぐ彼の笑顔がよぎった。まただ。これ以上ここにいてもどうしようもないので、またため息をついて踵を返し来た道を戻ることにした。
気分転換に今日みたいに海を見に行ったりなんかしてあれこれ試してみたが、結局何をしても彼との思い出が顔を出すので逆効果だった。ぼくの方から別れを切り出したくせに未だに引き摺ってるなんて笑える。過去は振り向かないと決めたのに。どうして自分の記憶は書き換えられないのだろう。仗助の記憶を消したあの時より、別れてもあいつを好きだった記憶しか思い出せない今の方がかえって辛かった。
家に着いた頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。車から降りてとぼとぼと空を見上げながら玄関へと向かっていると、ほのかに霞んだまん丸の月が浮かんでいた。なあ仗助、独りで眺める月はこんなにも冷たいものだったんだな。
「仗助、」
元気にしているだろうか。あいつの笑った顔も声も全てが恋しい。今頃ぼく以外の誰かにその笑顔を見せてるのだろうか?
…
嫌だ、そんなの───
「おかえり。遅かったっスね」
久しぶりに聞く声にハッとしてその方向に目をやると、玄関前の階段に1番会いたくなくて、でもずっと会いたかったやつが座り込んでいた。
「な、なんで、ここに」
「残念だったな。またあんたのこと好きになっちまったみたい」
ニヤリと笑った顔に言葉が見つからない。まさか、思い出した?そんなわけない。ぼくの能力は絶対だ。でもなんで、
「最近朝メシ作るときなぜか2人分用意しちまってるの。こういうことが続いてたからおかしいと思ったんだよ。絶対露伴の仕業だって色々探してたらさ。見つけたんだ、日記。」
「
…
日記だと?」
そう言って仗助は1冊のノートを手渡してきた。何が起きたかよくわからないまま受け取ってパラパラとめくってみれば、仗助の脳内に書かれていたのとほとんど同じ内容がそこにあった。
「あんたはその気になれば記憶を消すだろ。多分それを見越して、過去のおれが未来のおれに思い出すよう託したんだと思う。
…
正直おれと露伴が付き合ってるなんて信じられなかった。でも、こんなの書いてたら信じないわけにいかねえじゃん」
仗助がノートを覗き込んで何枚か紙をめくり、最後に2人で行った海のことが書かれているページが開かれた。その文章の最後に大きく「忘れるな!」という文字が目に入って思わず息を呑む。
「こんな恥ずかしい日記読んでたら見てるこっちまでドキドキしちまってさ。でも、おれって露伴のこと本当に大好きだったんだって気づいたの。
…
あんたの能力って本当厄介だよなあ、思い出すまで1ヶ月もかかったじゃあねえか」
「
…
ぼくはお前のことを思って身を引いたんだ。お前にはもっとふさわしい相手がいる」
「結婚だとか家系だとかどうでもいい。おれは露伴と一緒にいられたらそれでいいんス。ちゃんとお袋にもわかってもらえたから大丈夫だよ」
のんきそうに笑ってなんでもないように言う仗助に拍子抜けする。こっちはお前のいない虚しさを抱えたまま、それでもこの生活に慣れようと必死にもがいてたのに。ことごとくこいつはぼくの思い通りの行動をしない。
「
…
お前がいなくなったらこの家はだだっ広くて困るんだ」
「うん、」
「食事だって作り方もあまり知らないし、仕事をしてたらつい食べるのも忘れる」
「げっ、やっぱりちゃんと食ってなかったんスか!?」
「ぼくはお前がいないとまともな生活も送れないんだ。いい大人のくせに」
「それでもいい、おれだってあんたがいないとだめなんだよ。
…
な、露伴。おれずっと露伴のそばにいたい。またおれと付き合って」
おぼろげに光る満月の夜、告白は2回目のくせに仗助の緊張したような表情、その全てがぼくらの関係が始まった時の状況と重なった。お前と別れて気づいたことだが、けっこうぼくは未練がましいし自分勝手な男だ。束縛だって本当はしたい。それでもお前はここに帰ってくるというのなら。
「後悔するなよ」
「するわけない!」
「1ヶ月お預けくらってたんだ。泣きながらやめてって言ってもやめてやらないよ」
「?」
「なんでもない。こっちの話だ」
流石にそういうことは日記には書いていなかったか。くく、と笑いが込み上げるぼくを仗助は不思議そうな顔をして見つめている。
「仗助。ぼくは───」
青いマグカップを捨てられないでいたのも、こうやって仗助が思い出すのをどこかで期待していたからかもしれない。何回ぼくが忘れさせたとしても、仗助は懲りずにぼくに再び恋をして戻ってくると。ならばこれから先こいつの記憶をいじることはもう無いのだろう。目の前のぽかんとした表情の愛する人の手を引き寄せる。それならいっそ、もう一生離してなんてやらないから。
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