終わりなき夜が明ける日

新刊「馬子の背骨に触れるものには」から抜粋してお届けします。よかったらCC福岡おいでませ。マリンメッセで会いましょう。
再録の再録みたいなところがありますが、前べったーに載せていたものに加筆修正を加えて本に収めました。ハイドノーブル家の終わりと夜明けの話です。



以下 神秘管理局 異端審問調書より抜粋


 彼女——ギネヴィア・ハイドノーブルが不特定多数の牡と交配し、結果的に子孫が近親交配をすることになったのは、決して彼女の意志ではなく彼女を当主に据え上げた父の意志だったことを申し添えておきたい。なおこの父親(ブラックヨーク・ハイドノーブル卿)は、ギネヴィア暗殺前日に死亡しており、何らかの神秘要因によって生き永らえていたと考えられる。
 ブラックヨークは、ギネヴィアにとって最愛の人であるマイクロフト・ホームズとの間に子供が出来た後、彼が連れてきた相手との間に無理やり子を作らせ、ハイドノーブル家の血が濃い者を残すことに執着し続けていたとみられる。
 その結果マイクロフトとギネヴィアは離縁へ追い込まれ、挙句の果てには1891年、マイクロフトの弟であるシャーロック・ホームズが死んだ後を追うように、マイクロフトも殺害された。
 本件に証拠は無いが、現時点での情報を総合して考えると、ブラックヨークがホームズ兄弟の暗殺を仕向けたと考えるのが妥当である。その後ギネヴィアは精神疾患を発症し、現状の案件が発生したと考えられる。
 ギネヴィアはホームズ家の色が強い子供たちを優遇し寵愛して自由にさせていた。
 しかしその裏で復讐心は絶えることなく燃え続け、ついにはその復讐の矛先が英国どころか世界に向けられ始めた。故に僕——ロジェールマーニュ・ハイドノーブルは、ギネヴィア・ハイドノーブル暗殺計画を立て、実行に移した。
 そして結果的に本計画の証人となったエマ=ジェームズ・ワトソン氏は、ハイドノーブル家で行われたこと、その全てを知っている。彼が、中身が溢れるまで僕たちを積極的に助けようとしなかった理由としては、「ハイドノーブル家にはシャーロック・ホームズ氏やメアリー・モースタン女史を助ける力があったのに何もしなかった」というところにあるはずだ。
 端的に言わせてもらえば、本計画に巻き込んでしまった。彼女——或いは彼は、一切無関係である。どうか無理に異端審問の証人喚問を行うことはやめていただきたい。
 ハイドノーブル家の内部資料はすべて、僕の妻であるメイビーキャッツ・ハイドノーブルが管理している。必要な資料があれば彼女迄連絡をして欲しい。

 僕は恐らく、史上最悪のハイドノーブル家当主として名前を残すだろう。
 一時的にではあるが、僕は英国を存亡の危機に陥れた。一切を夜の中で終わらせられなかった。
 だがどうか知っていて欲しい。僕はこの終わりなき夜を終わらせるために、この家の当主になった。全てが終わればハイドノーブル家は神秘管理局の公財としてもらって一向にかまわない。

 僕の役目は既に終わっている。
 ——どうか、貴族ですらない、ただの馬子……或いは親友が呼ぶ、『似非紳士』に戻れたら。
 そうなれたら、幸甚に絶えない。