終わりなき夜が明ける日

新刊「馬子の背骨に触れるものには」から抜粋してお届けします。よかったらCC福岡おいでませ。マリンメッセで会いましょう。
再録の再録みたいなところがありますが、前べったーに載せていたものに加筆修正を加えて本に収めました。ハイドノーブル家の終わりと夜明けの話です。





 「ねえ、愚かしいと思うでしょう?」

 俺はその声に横を見た。おばあ様。ギネヴィア・ハイドノーブルがそこにいる。昔、まだ俺が本当に幼かった頃、優しく頭を撫でてもらったことを急に思い出した。
 だが俺の従兄弟たちや他の血縁はおばあ様を酷く恐れていた。幼い俺にはわからなかったが、今ならばわかる。彼女は憎悪の容れ物だった。
 おばあ様は、ギネヴィアは、多くを奪われていたのだろう。
 俺が先ほど見たはじまりの馬子——ヴィヴィアンと同じように。
「シャルルマーニュ。貴方の仔はよくやりました」 ギネヴィアはそう言って、砂嵐となっているスクリーンを眺めた。
「終わりなき夜を終わらせた。素晴らしいことです。わたくしの役目はもうこれで終わりね」
「役目って……?」 俺はギネヴィアに問いかける。
「馬子は幻想と現実のあわいに立つ生き物です。そして特に、わたくしたちハイドノーブルには一つの役目があった。決して呪いを溜め込むことではなくてよ」 ギネヴィアはいつか見た穏やかな、百合の様な微笑みを浮かべて言った。
「わたくしたちの役目は、ある存在を秘匿する事です」
「存在の秘匿? おばあ様。それは神秘管理局が」
「いいえ、シャルルマーニュ。管理局の目にさえ触れさせてはならない神秘があってよ。それは馬子の中で紡ぐ幻想であり、決してヒトにも、幻想種にも、原生神秘にさえ――まあ、原初の泡は信用できるでしょうけれど、少なくとも多くが知って良い事ではないの」
 俺は何となく察しがついた。ある存在の秘匿。大地から生まれた馬子。つまり俺たちの役目は――
「おばあ様。……その役目はハイドノーブル家が解体されても、次は俺が」
「あら、いいの? お喋りで自由を愛する貴方にできるかしら」
「息子にばかり任せてはおけない。ロジェにはきっと、他にやりたいことがあるはずだ」
「そう。さようなら、シャルルマーニュ・ハイドノーブル。
 わたくしと同じ轍は踏まない貴方。後はお願い致します」

 席を立ち、おばあ様は颯爽と出口へ向かう。その先には黒よりも黒い闇が広がっている。
 ワトソンは言った。ハイドノーブルは地獄に落ちる、と。確かにあらゆる呪いをため込み、そして最後にこの国と心中しようとした彼女は天国に行けないだろう。

 ――俺たちは、原初の陸の上に立っている。
 ロジェはハイドノーブル家を解体するという。だが――この秘密は俺が墓場まで、いや。
 俺が幻想の内側へ連れていく。星が滅ぶ、その日まで。