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アスナショウコ
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【創作|馬子軸】外伝 黎の撃鉄
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終わりなき夜が明ける日
新刊「馬子の背骨に触れるものには」から抜粋してお届けします。よかったらCC福岡おいでませ。マリンメッセで会いましょう。
再録の再録みたいなところがありますが、前べったーに載せていたものに加筆修正を加えて本に収めました。ハイドノーブル家の終わりと夜明けの話です。
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――
英国 ベイカー・ストリート221B 一階『カフェ・ドイル』
長男、ラヴウィズミー。次男、ロジェールマーニュ。三男、ラフトゥヴィ。
みな顔はどこか俺に似ている。そりゃあ俺が父親なのだから当然ではあるが、一番上のラヴは俺によく似て自由奔放、細かいことが嫌いで大雑把。縛られることも嫌いで、とにかく己の感情の赴くままに生きている。
三男のラフは控えめで穏やか、多少神経質なきらいがあるが、手先が器用で将来は俺と同じように靴職人を、ひいては装蹄師をやろうと思っているようだ。今は俺が歩んだ道を辿り、走ることを選んでいる。ただどうも芝は苦手で、砂でアメリカを目指して頑張ることにしたらしい。
そして次男のロジェは長男のラヴとは正反対に、真面目に折り目正しく、まるで鏡面の如く乱れのない精神性をしている。とにかく幼い頃から達観していて落ち着きがあった。俺とは似ても似つかない正しくハイドノーブル家の馬子、正しくハイドノーブル卿という雰囲気を纏っていた。だからこそロジェはハイドノーブル家の『次期当主』なんてものに選ばれたのだろう。
ハイドノーブル直系子孫たる俺の役目であるはずのそれを、俺は己の子供に押し付けた。
実際次期当主にロジェを指名したのは前当主だから、一切俺は口出しできない
――
そもそも俺はハイドノーブル家と血縁があるというだけで、それ以外には何もない。
「ロジェはさぁ、何つうか
……
俺とは本当に、いや、本当に誰に似たんだろうなぁ」 俺はぽつりとつぶやいた。正面に座っているエマ=ジェームズ・ワトソンは、紅茶を飲むのを一度止めて俺の方に視線を寄こした。
「確かに、お前には似ても似つかないわ。顔だけはよく似ているけど」
カフェ店内のシーリングファンが回転する音が聞こえてくる。未だ現役の蓄音機はピアノを主旋律にした穏やかな音楽を奏で、時折レコード特有のノイズ音を立てながら連続して再生している。
俺たちがいつも座る窓際の席は、俺たちがいない間は大抵の場合、店主の飼い猫とワトソンの飼い猫が陣取っていた。日当たりが良く昼寝に最適なようだ。
しかし快晴のロンドンというのは珍しいもので、今日も天気予報を見ずともよくわかる曇天だった。
先日起こったある事件
——
即ち『ハイドノーブル暗殺事件』なんてものの気配が未だ残っているような、陰鬱な気が立ち込める分厚い雲が太陽を覆い隠し、街並みを白黒に塗り潰している。ただティーカップに注がれた紅茶の色は紅く、その色だけが唯一の色彩であるように思えるほどだった。
「でも結果的にロジェールマ
―
ニュは無罪放免になった。当然ではあるけれど」 ワトソンはそう言いながら、スコーンを二つに割ってクリームを塗り始めた。
「ギネヴィア・ハイドノーブルを討伐できなければ、恐らく事態はさらに悪化していた
……
」
「だからってあいつに全部背負わせたのは間違っていた」 俺はワトソンに言う。ワトソンは感情のあまり籠っていない緋色の瞳で俺を見返した。
「私がロジェールマーニュの代わりにあれを殺せばよかったとでも?」
「いや、違う。そうじゃなくて、別にお前を責めたいわけじゃない。ただ
……
ただ俺は」
どうすれば良かったのか、俺にも分からない。ロジェはあまりにもどこか達観していた。全てを見渡していたような気さえする。少なくともロジェには、俺には見えていないものが多く見えていた
――
それは間違いない。所謂幻想を見る目があったのかもしれない。俺には一切なかったし、そういう話を親子ですることも殆ど無かった。
「まあ、確かにお前の様なタイプとはだいぶ違うわね。ロジェールマーニュは」
「なんだよ! 俺が何も考えてないアホたれみたいな言い方しやがって」
「実際そうでしょう。シャルルマーニュ」 ワトソンはスコーンにジャムを塗る手を止め、口へ放り込んだ。
「お前は幸運だった。あらゆる馬子のしがらみとは無縁に生きてきたのだから。
……
少なくとも私はお前がハイドノーブル家の当主でなくてよかったと思っているわ。何故ならお前はその気になれば、平気で他の純血貴族家の頭を押さえられる。それだけの血統を持っている。未だ健在な馬子の貴族社会では血が全てだもの。如何にハイドノーブル家が今は人と交わることを許容しても、英国の馬子らがお前たち『黒の一族』の血に敵うことは決してない」
「それは」
俺には関係ないだろう、と言いたかった。だが言えなかった。事実として俺は、最もハイドノーブル家の中で血が濃かった。自分でも良く知っていた。
俺には、ギネヴィア・ハイドノーブル
――
彼女が最も愛した男、マイクロフト・ホームズの面影が強く残っている。その理由がどこにあるのかなんて考えなくてもわかる。
「
……
悩むより、もっと話せばいいと思うわ。お前はロジェールマーニュの父親なのだから」
「そういうもんかなぁ」 俺は紅茶にミルクを注ぎ入れながら問いかけた。
「そういうものだと思うわ。馬子も、人も。分かりあうために言葉を紡ぐのでしょう」
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