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racmon
2024-05-30 18:47:36
30891文字
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既刊『阿吽の呼吸』全文web再録
「コンビ時代の2人、ささろ未満」
3年前に出した本のほぼ全文web再録です。
まだとらさんに在庫はありますが、かなり経つので投稿します。
これをお読みいただいて気になったかたは、本の方もよろしくお願いします!
2025.2.6 追記
最後のところまで全文載せました。
ヒプムビ公開おめでとう!ささろをよろしくお願いします!
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◇ ◇ ◇
断続的な揺れが心地よい。
沈む夕日の色に染められて、ひとり車両を独占する盧笙は瞼を閉じた。こんな時間帯に電車に乗って帰るのは久しぶりだった。仕事が入っていないときでも陽が落ちるまで簓とネタ合わせをしたり、たまに息抜きで夜通しゲームをしたりしているからだ。盧笙は馴染みのある願望に、初めて口角を上げた。長いあいだ苦しめられてきたそれは、盧笙の知らない新しい側面を持っていた。
実のところ、改札を抜けるつもりはなかった。翌朝の起床時間を理由に相方の部屋を出たが、駅に近づくにつれ泊まった方がラクなのではと思いはじめていた。
——
提案されたら乗っかろう。そんな待ちの姿勢でいたばっかりに、振り返って手を振ることさえもできなくなってしまった。
盧笙は作戦を練ることにした。このもどかしさを解消するよい術はないか。作戦一、このまま眠ってしまうのはどうか。きっとあっという間に最寄駅に到着するだろう。しかし目を覚ましたとき、隣が静かであることに変わりはない。作戦二、ずっと気になっていた定食屋で早めの夕飯を摂るのはどうか。期待通り美味しいといい。しかし簓好みの味だった場合が難儀だ。簓と居るのはもはや当たり前になっていた。常にハイライトの連続で、盧笙はスローモーションで振り返る。貪欲になっていく。もっとたくさん求めてしまう。
——
だから、いまは帰りたくない。
盧笙は新たな作戦を行動に移すことにした。170円のきっぷ代が無駄になっても、プリンを二回ほど我慢すれば済むことだ。降りたことのない駅の景色は新鮮で、自然と目線は上がった。早足で反対側のホームへ向かう。すれ違った駅員には、乗り過ごした客だと思われたかもしれない。それは限りなく近い。なぜなら、湧き上がる気持ちをやり過ごそうとしていたのだから。大体、盧笙は自ら伝える努力をすべきだったのだ。普段から二人で一つとしてやっているのに、口籠っていては先が思いやられる。一度くらい「今日泊めてや」と言うくらいがなんだと言うのか、と盧笙は意気込む。
簓と過ごす時間は目新しく、魅力的だ。元々友達と馬鹿をやる経験すらまともになかった盧笙にとって、簓の存在は特別だった。盧笙は、玄関ドアの向こうで驚く簓の顔を想像した。
——
たまには俺も、簓を出し抜きたい。
通天閣が見下ろす街に出て、また声を重ねて笑い合うまであと少し。
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