戌丸アット
2022-05-29 23:52:24
38106文字
Public Fate
 

その肌へ口づけを

槍弓



ぎしり、ぎしりと悲鳴を上げるキングサイズのベッドを気にする間もなく、ベッドの上で男が髪を振り乱して苦しむ声は次第に高く甘くなっていく。
本来は女性が上げるべき声ではあるが男が上げてもおかしくはない。
しかしそれも抱かれているとなれば話は変わるだろう。
甘えた低い蕩けた声色の元凶である男は目の前の赤子のように首を振って嫌だやめてくれ、と熱に浮かされながらも従順に秘部を晒す生贄を美しい獣は遠慮なく味わう。

「っふ!ぁ、ぅぐ……ぅ!」
「はぁ……アーチャー……
「も、そこ、いぃからっ!」
「ん?何?気持ち良いって?」
「ち、ちがっ!やだ、らんさ、い、ゃだぁあ!」
「ばーか、アンタに拒否権なんかある訳ねぇだろ……?」

本来は誰にも触れられぬ身体の奥の泣き所を暴き蹂躙され、シーツに泣きついていると言っても過言ではない褐色の生贄を何処か悲しげに愛おしげに赤い瞳に写す麗しい男の顔は涼しげである。
しかし当然だろう。
脅している相手に。
好きな相手に。
弱っていたり余裕の無い姿を男であれば誰とて見せたくない。
殴って抵抗しても良いのに、と何処か脅していながら真逆の事をランサー、と泣きじゃくるように鳴く生贄に呼ばれた男は考えていても口には出さない。
きっと言ってしまえば目の前の捕まえている自分への生贄であるアーチャーは、己の面目など気にも停めずに遠慮なく抵抗して警察に突き出してしまうような気がした。
今ならば己の痴態をランサーに晒す羞恥から無理であるがアーチャーは、それすら捨て去り目的の為に行動しかねないとランサーは考えていた。

「っぅあ、ぅ、ゃめっろ!」

されどランサーは己の欲望、アーチャーの快感に身を捩らせる姿を見る為に後ろの秘部へ指を入れて開発する事に集中し、余裕などない。
男であれ女であれ、意志とは関係なく蹂躙されると言う、かなりの屈辱だ。
しかし仮初の名であるランサーの名を呼ぶアーチャーは快感に身を震わせ、跳ねても己の所に堕ちずに闘志を燃やしておきながら決定的な抵抗しない従順さでランサーを誘う。
無論、アーチャーに自覚は無いことはランサーも分かっている。
だが明らかにアーチャーを支配しているのだと思わせるには充分な材料に酔わずに居られる程、ランサーは歳を重ねていない。
醒めそうにない酒に酔ったようにランサーはアーチャーに無茶をさせていると自覚していながら手を止める事が出来ずにいた。

「っあ!いや、だ!また、くるぅ!"コレ"ぃぬけっ!くそ……っ!」
「アーチャー、そういう時は"イく"って言えよ」
「そん、な!!!」
「言えるだろ?」
「っぁあ!ぐ、っふぁ、い、ぃく、から!もう!」

よく出来ました。と本来ならば年上であるアーチャーには似合わぬ言葉を敢えて掛けながら纏わり付く精液を気にする事もなく、手を滑らせてアーチャーの額にキスを送る。
しかし手加減など出来る筈もなく、ランサーは用意していた己の性器より小さいディルドでアーチャーの秘部を慣らす為に遠慮なく最奥まで挿し入れて無理矢理に達する事を促す。
あぁ、ポロリと彼の見開いている瞳から溢れる涙のなんと甘いことか。

だが本来は受け入れる場所ではない場所を弄られたアーチャーは、たまったものではない。
未だ羞恥と抵抗し切れない口惜しさからアーチャーは、すっかり調教された通りに喉から悲鳴混じりの嬌声をあげる。
しかしまだ早い。
そう感じたランサーは、早く彼の中へと入って鳴かせたいと悲鳴を上げる己の性器をアーチャーの内股後ろの秘部から性器、逞しい腹筋へと擦り付けながら所謂、素股で済ませる。
ゆっくりと、だが確実に。
ランサーはアーチャーを己の手練手管で堕としてやろうと考えていた。
だが現実は素股をする間、アーチャーの顔を見れる筈もなく彼の鍛えぬかれた背中に隠しきれない欲を歯型で残すことで発散する。
虚しくとも、この想いが伝わってしまえば良いと。



シャワーのコルクを捻って出てくる冷水を冷ますように火照った身体を浅ましいと思いだからアーチャーは頭から浴びる。
俺の事はランサーとでも呼べ、と笑った宝石のように見る者を魅力する赤い瞳と本来の性格を表したような晴天を思わせる青髪の青年ランサー。
彼と情事の真似事のような事を始めてから数ヶ月以上が経とうとしており。
彼に求められるままに従っているが、その真意や目的を掴めずに混沌とした思いのままにランサーの好きなようにさせている。

無論、アーチャーにランサーを拒む事は許されない。
何故ならば公務員、更には刑事である自分を脅して今の行為は行われているのだから。
だが、それだけではない。
アーチャーは、あの見目麗しい男に花の香りに誘われてやって来る蝶のように惹かれ、彼の行いを許せる程に彼に魅入られていたのだ。
無論、恐喝に当たる事くらいは分かっている。
犯罪だ。
相手がランサーでなければ己の沽券など気にも留めずに証拠を取り揃えて逮捕しただろう。
相手の歳など気にせずに犯罪者は検挙する。
検挙し罪を償わせるのだ。
それがアーチャーの基本的な方針であり、本人は知らないが組織の中では容赦の無さと驚異の検挙率から"鷹の目のアーチャー"などと半ば冗談に近い異名まである。
そんな自分が、たった一人の青年に組み敷かれて喉から溢れる媚びた声を堪える羽目になっている。
本来ならば、組み敷かれる前に。
性を匂わす行為をされる前に。
自分は警察の人間として相手をねじ伏せていなくてはならないのに。

曰く、アーチャーはランサーに犯罪の領域に踏み入れさせた自分に責任を感じていた。
本来ならば仕事であれ何も感じない可能性の方が高いと言うのに相手がランサーだったからこそ。
自分の過去を黙って聞き入り、尚且つ同情しなかった彼を。
アーチャーは犯罪者扱いしたくはなかったのだ。

何より不思議とアーチャーは青年の神々しい赤と瞳が合うと何も言えなくなる。
あの明るい声が欲情から掠れて、愛称でありコードネームである弓兵の名を紡ぐのが待ちきれない。
白魚のようでありながら部活動からか、手のひらのタコが硬くなっていて男性的な筋張った色気のある手が己の肌に触れると、溶けてしまったかのように熱く燃え上がる。
何より行為が終わった悲しみから首筋に、しがみついていると最後に慰めてくれているかのような口づけを顔中へと降り注いでくれる。
だからこそアーチャーからすると更に手放すのが惜しくなる。
何故ならランサーはアーチャーにとって誰かに触れられて離れる事の寂しさを人生で初めて与えてきた男なのだから。

養父が恋愛的に好きなど笑わせる。
アーチャーは改めて、己は本当の意味で男を好きになったのだと理解した。
だが同性愛者なのだと言うには、あまりに不甲斐なく。
ランサーに恋心を知られると怯える姿は同性愛者として向き合っている人達に対して、自分も同じだと言うのは失礼だろうと思わずにはいられない。
だが刑事としてのアーチャーの中にもランサーへの疑問はあった。

「何故ランサーは私を抱こうとするような真似事を……

ただそれだけがアーチャーの中で疑問であった。
例え恋に瞳を曇らせているアーチャーとて自分が抱きたくなるような身体をしていない事くらいは冷静に判断できている。
例えば背丈は少しランサーよりもあるので、たまに彼は上目遣いになったりしていて愛嬌は、あちらにある。
他に身体はランサーも鍛えているがアーチャーの身体は運動の為ではなく犯罪者と対峙する為に肉厚で、武道の為のトレーニングメニューなどでランサーのようにバランスと計算された肉体ではないので柔らかい所を探す方が大変だろう。
何よりも彼の美貌だ。
染めていない天然の青髪、偽りではない宝石のような真紅の瞳。
見惚れ、親しみやすさから恋に落ちる異性も多いだろう。
冷静に見ても何処をとってもランサーの方が見ていて飽きる事はないだろうと思える。
彼がノーマルであるのだから、迫られれば出来れば挿れる側になりたくなるだろう。
しかし提案してきたのはランサーだからこそ思惑が分からないのだ。
だが、それ当然だろう。
結局、脱衣場を出たアーチャーは気付かなかったのだから。
後ろ姿に刻まれた首筋から腰までにある、数々のアーチャーにとって愛しい男からの独占欲による赤い印がある事を。