いまち
2024-02-10 11:44:01
199057文字
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ティナとねじれた魔法の世界・2



11.ティナとリリアの部活見学


 お部屋に戻って、リリアさんからもらった宝石をしまおうと机の引き出しを開けると、見たことのない冊子が入っていた。
 取り出してみると、つるつるした薄い紙でできた、ちょっとくたびれた冊子だった。表紙には学園のマークなのかな? 鍵を持ったカラスの絵がデカデカと書かれていて、その下に「ナイトレイブンカレッジ学園案内」とちっちゃく書かれていた。

「案内?」

 気になって開いてみると、学園長さんの挨拶の言葉と学園内の地図、校舎内の地図と施設について詳しく書かれている。表紙に書いてる通り、この学園の案内のようだった。
 地図にはユウくんのお屋敷も載ってるけど「封鎖中の建物のため立ち入り禁止」とだけ書かれている。
 わざわざこう書いてるってことは、やっぱりあのお屋敷は使われてない建物だったんだ。あの傷み方や汚れ方からして、相当長い間放置されてたのかなって思ったもん。そしてロクに……いや、全然お手入れをしないままユウくんたちを住まわせたんだろう。
 タダで寮に住まわせてもらってる私に口を出す権利はないんだけど、それでもやっぱり、もう少しやりようとかなかったのかなって思った。
 もやもやしながら冊子を読んでいると、寮の紹介に、学園ではどういう教科のお勉強をするのかの説明が載っていた。

「あ、ぶかつ……

 それらをなんとなーく読み進めると、終わりの方に部活について載っていた。「マジカルシフト部」とか「陸上部」とか「サイエンス部」とか、それぞれ名前と、絵と、どこでどんな活動をしているのかが書かれている。他にもここに載っていない「同好会」っていうのもあるらしい。
 色々書かれてるけど、そもそも部活がなんなのかは書いてなかった。これじゃあ分からないままだ。分からないけど、見に行ったら分かるかなぁ?
 説明のところに「見学自由」って書いてるところがあるけど、わざわざそう書いてるってことは、見に行ってもいいんだよね? 実際に見てみたら部活がなんなのか分かるかもだし。
 そうは思うものの、今行ってもいいものなのかちょっと悩んでしまう。だって、どこでやってるのかは書いてるけど、いつやってるのかって書いてないんだもん。運動場とか、授業中かもと思うと気が引ける。
(とりあえず行ってみよっかな)
 どうせ今日は復習くらいしかやることがない。それなら行ってみようかな。今日はいい天気だし、こんな日にお部屋に篭ってるのももったいないもんね。もし授業中だったらこっそり回れ右しちゃえばいいもん。

「よし」

 寮から一番近いところだと、バスケ部? とか陸上部? とかの運動場のあたりでやっているのだ。まずはそこに行ってみようと、ヨレヨレの冊子を持って寮を出た。

 運動場へ向かっていると、リリアさんとシルバーさんが歩いているのが見えた。二人とも授業が終わったのかな?
 見た感じではシルバーさんは普通そうで、具合が悪そうな感じはしない。あの後も何ともなかったのかな。なら、大ごとにならなかったみたいでほっとした。

「リリアさん、シルバーさん!」

 なんとなく嬉しくなって声をかけると二人は振り返った。
 こうして二人が並んでいると、シルバーさんの体格のよさもあって、リリアさんがものすごく華奢に見えてなんだか面白い。つい口元が緩みそうになっていると、リリアさんがにっこり笑いかけてきた。

「おぉ。どうしたんじゃ、こんなところで」
「えぇと、部活の見学に行こうと思ったんです。部活ってなんなのか分からなくて、見たら分かるかなーって思って」
「あぁそうか、お主の世界の学校には部活動はないんじゃな」
「そですね、初めて聞きました」
「ふむ、ならわしも付いて行ってやるか」
「いいんですか?」

 なにもかも分からないから、リリアさんが一緒にいてくれるならかなり心強いかも。リリアさんはニコニコ笑いながらシルバーさんを見上げた。

「構わんよ。シルバーもどうじゃ?」
「俺ですか?」

 シルバーさんはちょっとばかり驚いた顔をしながらも、ゆっくりかぶりを振った。首の動きに合わせて流れるように揺れる髪は、さっきも思ったけど、とってもキレイだ。

「俺はこのまま馬術部へ行きます。リドルもいないので、その分一年生を見なければ」
「あぁ、そういえば今日は『なんでもない日』のパーティーだったな」

 トレイもぼやいておったわ、とリリアさんはくふくふ笑った。話の流れからして、リドルさんとトレイさんって人もハーツラビュル生なのかな。やっぱり、その人たちも悪さをしたらエースくんみたいに首輪を付けられるのかなぁ、なんて、なんとなく考えていると「俺はここで」とシルバーさんは運動場へ目を向けた。

「うむ、励むといい」
「ありがとうございます。……そうだ、キースリンク」
「あ、はい」
「さっきは助かった。ありがとう」

 さっきって、寝てるシルバーさんを起こした時のことかな? 実際に寝てるシルバーさんを起こしたのはカリムさんだけど、ってちょっと思ったけど、シルバーさんのまっすぐな目を見ると、そう言うのもためらわれた。
 お礼は素直に受け取っておくものだっておじいちゃんも言ってたもんね。

「えと、どういたしましてです。その、身体は大丈夫なんですか?」
「問題ない」

 シルバーさん、見るからに健康そうだもんね。カリムさんの言った通り、ただの居眠りだったのかも。
 よく考えたら、ここは魔法の学校だ。眠くなる魔法をかけられたとか、そういう薬草をかいじゃったとかそういうのもあるのかも。……そういうことがあるなら、私も気を付けた方がいいかな?

「なんじゃ、わしだけ仲間外れか? 寂しいのう」
「うぇ!? そういうんじゃないです!」

 しくしく、と口で言いながらリリアさんはわざとらしいウソ泣きをしはじめた。
 隠すようなことでもないから、鏡舎のそばで居眠りをしていたシルバーさんを起こした話をすると、リリアさんはやれやれとため息をついた。

「仕方のない子よ。……落馬には気を付けるんじゃよ?」
「お心遣い、ありがとうございます」

 そう言って、ぺこりと頭を下げて、シルバーさんは運動場の方へ歩いて行った。
 リリアさんが落馬とか言ってたから、馬術部ってお馬さんに乗ったりするのかな? たしか、そんなところも案内に載ってた気がする。馬車は乗ったことあるけど、お馬さんって乗ったことないからちょっと興味あるかも。
 気になりつつシルバさんを見送って、リリアさんから部活がなんなのかを教わった。
 授業とは別にやる課外活動で、活動内容と授業の成績には関係ないらしい。だから、やりたいこと、好きなことで選んでいいのだそうだ。気に入らなければ辞めたり、他の所に入り直したりもできるから、気軽に選んでいいのだそう。
 説明はしてもらったけど、いまいちよく分からない。そんな私にリリアさんは「直接見た方が早いな」と笑った。

「それで、気になる部はあるのか?」
「ないです。とりあえず、近いところから見てけばいいかなーって思ってたので」
「そうか……ふむ」

 リリアさんは小さく呟くと、よく見る光る板を取り出してぺたぺた触り出した。この板、ほんとになんなんだろう?
 先生が見せてくれたのには学園の地図が載ってた。けど、今リリアさんが触っている板の表面には、絵や文字がするすると流れている。……どういう仕組みなんだろう?
 リリアさんは少しの間その板をいじると、「よし」と呟きながら顔を上げた。

「では軽音部の見学に行くか!」
「けーおんぶ?」
「うむ、わしが所属しておる部よ。どうじゃ?」

 リリアさんに聞かれて、持ってきた冊子を開いた。けーおんぶってこの軽音楽部、ってとこかな。楽器の演奏やお歌を歌う部活だそうだ。どっちもあまりやったことはないけど、リリアさんがいる所、っていうのは気になるかも。全然知らない人がいるところよりは、知ってる人がいるところの方が安心できるもんね。

「えと、見てみたいです!」
「うむ。では早速行くか。わしらの部室は校舎にある」

 こっちじゃ、と案内してくれるリリアさんの後について、校舎へ向かった。

 ついていった先はなんの部屋とも書かれていない空き教室だった。
 ノックもなしに入るリリアさんについて入ると、なんだか美味しそうな匂いがした。
 見ると、教室の中で二人の人がお茶を飲みながらお菓子を食べているようだった。机を寄せて二人が掛けて、椅子が二脚空いている。
 先にきていたのは、さっき会ったカリムさんと、エースくんたちのようにほっぺにひし形のマークのお化粧をした華やかな雰囲気の人だった。赤と黒の腕章を付けてるし、ハーツラビュルの人なのかな。
 でも、この人からは妙な気配を感じた。リリアさんやマレウスさん、妖精さんたちとも違う、どちらかというとユーレイさんのような感じがする。でも、リリアさんは気にしてる様子はない。分からないけど、そういう種類の妖精さん? なのかな。
 この二人以外にもいるのかなぁって思いながら教室の中を見回していると、リリアさんがユーレイさんのような人に向かって「お主もおったのか」と首を傾げた。それに対して、ハーツラビュルの人は明るく笑った。

「もっちろん! 入部希望者が来るって聞いて、スルーできるわけないでしょ」

 そう言って私の方を見た。
 リリアさんがそう言うのも分かる。ハーツラビュルは今日はパーティーをしてるはずだ。ここにいるなら抜け出してきたとか? でも、そんなことをしたら寮長さんに怒られるんじゃないかな? 人ごとながらにちょっと心配していると、ハーツラビュルの人はがっくりと肩を落とした。

……でも、ウワサの女の子だって知ってたら、けーくんが来てたんだけどな~」

 ホウレンソウは大事だよ、リリアちゃん。と、ハーツラビュルの人は意地の悪そうな笑顔でリリアさんを指さした。
 ……なんでホウレンソウ? 美味しいけど、楽器やお歌と関係あるのかな? 不思議に思ってると、今度はカリムさんが笑い出した。

「なんだ、ケイトは分身だったのか? 全然気づかなかったぜ」
「スマホ持ってないんだから気付いてよ~」

 巻き髪をいじりながら、ハーツラビュルの人ことケイトさんは苦笑交じりにため息をつた。そんなケイトさんに対してカリムさんは「悪い悪い」と悪びれる様子もなく笑った。さっき見たのと変わらない明るい笑顔だ。
 分身とか、すまほとか、言っていることはよく分からないけど、このケイトさんがどういう存在なのかは気にしなくていい、みたいな雰囲気はわかった。なんとなくだけど。
 それでも、やっぱり気になるかも。そんなことを思っていると、カリムさんがじぃっと私を見ていることに気付いた。目が合うと、お外で会った時のようににかっと笑った。

「ティナ、さっきぶりだな!」
「えと、はい。さっきはありがとうございました」
「えっ、カリムくん知り合いだったの!?」
「あぁ! さっき一緒にシルバーを起こしたんだ!」
「ちょ、意味わかんないんだけど! っていうか、けーくんだけのけ者じゃん。さみし~」

 言ってることとがっかりした目元とは裏腹に、ケイトさんの口元は楽しそうに笑っていた。隣を見ると、リリアさんも楽しそうにくふくふ笑っている。三人して楽しそうに笑って、なんだかいい雰囲気だなぁって思って、私もつられて笑ってしまった。

「ほら、ティナちゃん。こっちに来て座りなよ」

 ケイトさんに勧められて、リリアさんと空いている椅子に座った。机の上には美味しそうなお菓子と、お茶が並んでいる。

「ようこそ軽音部へ! おかわりもあるからゆっくりしてってよ」
「えと、ありがとうございます」
「ティナ、甘いものと辛い物、どっちが好きだ?」
「ふむ、ではわしのとっておきも出してやるか!」
「あー! あー! 大丈夫! いっぱいあるから、リリアちゃんは気を使わないでいいから! ね?」

 わちゃわちゃしながら二人に勧められるまま、お菓子とカリムさんの故郷のものだというお茶をいただいた。
 お茶も、たくさんあるお菓子のどれもが美味しくて、お喋りも楽しくて、まるでパーティーのようだった。
(あれ?)
 のんびりした雰囲気につい飲まれそうになったけど、ここって楽器の演奏とかする所じゃなかったっけ?

「あのぅ……

 それなのに、こうやって遊んでていいのかな? 気になって聞いてみるとケイトさんは苦笑い、カリムさんとリリアさんはきょとんとしていた。

「ここ、部活とは名ばかりで普段はこうなんだよね~」
「あぁ、キースリンクは見学に来とるんじゃったな。馴染み過ぎて忘れとったわ」
「そうなのか? まぁいいじゃないか! ほら、これも食べてくれよ!」
「えっと、ありがとうございます?」

 カリムさんから渡された、ごろっとした丸いドーナツを食べていると、ケイトさんがここでの活動について説明してくれた。
 リリアさんの言った通り、ここでは楽器の演奏とお歌を歌うのだそうだ。ただ、おーけすとら? や、すいそーがく? とは違って、ごく少人数でやるらしい。酒場にくる演奏家さんみたいな感じかな?
 学園で催し物がある時なんかはステージで音楽発表をするから、そのための練習はするらしい。けど、普段はといえば、こうやって三人集まってお茶をしながらお喋りするだけなのだそうだ。

「へー、部活って授業みたいにきっちりやるわけじゃないんですね」
「いやぁ、こんなに緩いのはウチくらいじゃないかな。他はもっとちゃんと活動してると思うよ」
「えぇと、そうなんですねぇ?」

 なるほど、やっぱりよく分からない。三つめのドーナツを食べながらケイトさんのお話を聞いた。それにしても、このドーナツ、お砂糖たっぷりな上にシロップがたっぷりかかっていて、とっても甘くて美味しい。幸せ。

「ところでティナちゃん、ここに来たってことは楽器はできるんだよね?」
「んぐ、ん……えぇと、はい」
「へー! キーボードとかできる?」
「きぼー? ってなんですか?」
「えぇと、ピアノとか、オルガンとか、チェンバロ……こう、鍵盤を鳴らすやつ」

 そう言いながらケイトさんは机の端を指先でトントン叩いた。オルガンってたしかあれだよね、大聖堂にあるおっきい楽器。昔聖堂の人に触らせてもらったことはあるけど、演奏なんてとてもじゃないけどできない。鳴らすのは楽しいんだけどね。

「んーん……んぐんぐ。できないです」
……っていうか、ティナちゃん、よくそんなに食べられるね? 甘くない?」
「美味しいですよ?」
「そう言ってくれると嬉しいぜ!」
「あはは……それじゃあ、何の楽器ができるのかな?」
「んぐ……えっと、シタールです」

 シタールはおじいちゃんの得意な楽器だ。おじいちゃんのお仕事がヒマな時に、作り方とか弾き方を教えてもらったことがある。
 教わってからは、たまに酒場で弾き語りのマネごとをしたんだよね。結構ウケたし、おひねりも貰えるからいいお小遣い稼ぎになってた。パパはちょっとイヤがってたけど。
 でも、言ってみたはいいけど、この世界にシタールってあるのかな? 周りを見た感じ、六弦ポロロンに似たような楽器はあるけど、シタールは見当たらない。だとしたらここで演奏はできないかもなぁ……そう考えていたら、カリムさんが大きな目を輝かせながら身を乗り出してきた。

「異世界にもあるんだな!!」
「シタール……?」
「これはまたユニークじゃのう」

 通じるかちょっと心配だったけど、シタールのことはケイトさん以外の二人は知っているようだった。
 とっても嬉しそうにしているカリムさんの隣でケイトさんは不思議そうに首を傾げている。そんなケイトさんに、リリアさんはシタールの説明をしていた。漏れ聞こえた話によると、カリムさんの国の楽器らしい。
 だからカリムさんは嬉しそうにしてるのかも。世界が違っても同じ楽器があるなんて、とってもワクワクするもんね。

「なぁなぁ、ティナの世界にあるっていうシタールも、やっぱり弦楽器なんだよな?」

 カリムさんも同じように思ってるのか、食いつきはすごかった。話を聞くとカリムさんは音楽がとても好きで、パーティーの度に演奏家を集めてはお歌を歌ったり、踊りを踊ったりしているのだそうだ。
 そんなスカラビアのパーティーのお話を聞いている間に、ケイトさんもリリアさんからシタールの説明を聞いたらしく、困ったようにクセがどうこうと呟いた。たしかにシタールはクセが強いかもだけど、心に染み入るようないい音色なんだよね。同じレシピでも、作った人によって音色が変わるから、そこもまた面白い。

「でも、カリムくんの太鼓と演奏したらウケるかもね」

 困ったような顔をしたケイトさんだけど、そう言って、ふんわり笑った。
 
「そうだ、今度スカラビアに遊びに来てくれよ! ティナの演奏、聞いてみたい!」
「え? でも楽器がないと演奏できないですよ?」
「大丈夫だって! たしか実家から持ってきたヤツがあるから……
「ちょ、カリムくんストップストーップ!!」

 ウキウキと誘ってくれるカリムさんと私の間に、ケイトさんが割り込むように手を出してきた。
 あまり顔色が良くないケイトさんは「ダメだって!」と焦ったような顔をカリムさんに向けた。

「カリムくんが持ってるのって、すっごい高いヤツでしょ!? 勝手に貸す約束なんてしたら、ジャミルくんに怒られるんじゃないの?」
「そうか? でも、楽器は演奏してこそだろ?」
「そうだけどさぁ」
「え、え、高いんですか?」
「相場は知らないけど、カリムくんが持ってるのだと……そうだなぁ、家の1~2軒建ててもおつりがくると思うよ」

 たはは、と苦笑いするケイトさんにカリムさんは不思議そうな顔をしている。ケイトさんがそう言うのは、ちょっと分かる気がした。カリムさんの着けてるアクセサリーとかすっごく高そうだもん。もしかして、カリムさんも王子様なのかな? そう思って、ちょっと怖くなった。だって、知らなかったとはいえ、ずい分と厚かましいことをしちゃったもん。
 でも、そうだとしたらジャミルくん? に怒られるってどういうことだろ。カリムさんは寮長さんだし、そんなカリムさんに怒れる人ってどんな立場なのか想像つかない。
 いやでも、それよりもケイトさんの言葉だ。家を建ててもおつりがくる楽器ってどういうことだろ? どんな材料を使えばそんなに高価な楽器になるのか思いつかない。というか、そんな楽器なんて怖くて触りたくない。

「あの! そんな高いのはちょっと……
「遠慮すんなって」
「します! えぇと、そんなすごいものを貸してくれなくても、その、私、作るので!」
「えー、ティナちゃんクラフトもいける系? 意外ー」

 目を丸くするケイトさんに、なんで急にばくだんの話をするんだろ。って一瞬思っちゃったけど、話の流れからして、楽器作りのことを言ってるんだよね。たぶん。

「はい。演奏も作り方もおじいちゃんが教えてくれたんです」
「へぇ! いい祖父さんなんだな!」

 そっかぁ、とカリムさんは頷いて「じゃあさ」と期待が籠ったような目を向けてきた。

「材料費も手間賃も出すからさ、作ってくれよ! 異世界のシタール、見てみたいんだ!」
「ちょ、カリムくん!?」
「えぇと、じゃあ作りますね。手間賃はいいですよ」
「ティナちゃん!?」
「ふむ、ではわしも一肌脱ぐか」
「リリアちゃんまで!?」

 驚いたようにあたふたするケイトさんを横に、カリムさんとシタール作りの話をした。驚きはするものの、ケイトさんもシタール作りに反対する気はないようで、最後には私たちの話をうんうんと聞いていた。
 シタールに必要な材料は木材に糸、それと羽根ペン。どれもそんなに高いものじゃないだろうし、先生からのお小遣いで買えると思う。
 サムさんのお店で買えばいいのかと思って聞いてみると、それくらいの材料であれば、先生に頼めば融通してくれるだろう、ってリリアさんが教えてくれた。

 そうしてとんとん拍子に話は進んで、進みすぎて、シタールを作ったらカリムさんの寮でのパーティーで演奏会をしようという話にまでなってしまった。三人の前ならともかく、たくさんの人がいる前で演奏するとなると、ちょっと緊張するかも。
 さすがに断りたいかなぁ、なんて思っていたら、ケイトさんがやれやれとため息を吐いた。そうだよね、よその寮を巻き込むんじゃ迷惑になるかもだもん。

「演奏会する時は絶対呼んでよね」

 止めてくれると思ったけど、そんなことはなかったようだ。そんなケイトさんにカリムさんはニコニコ笑って頷いた。どうしよう、勝手に話が進んでいく。

「もちろん! リリアも来てくれるよな?」
「うむ、いつでも馳せ参じよう」
「リリアちゃんってたまに――

 言いかけたケイトさんがはっと顔を強張らせた。さっきまでのほんわかわちゃわちゃした空気が一瞬で凍り付いた気がした。どうしたんだろう、そう思う間もなく、ケイトさんは焦ったように「ごめん、オレ戻る!」と立ち上がった。

「ティナちゃん、ゆっくりしてってね」

 それじゃ、と早口に言い残して、ケイトさんは文字通り姿を消した。あっという間のことで何がなんだか分からないでいると、リリアさんが「本体が忙しくなったんじゃろ」と、なんでもないように教えてくれた。

「本体?」
「うむ。あやつが人間でないことには気付いておろう?」
……はい。なんかユーレイさんみたいでした」
「今消えたケイトは魔法で作った分身よ。あやつの本体……本物のケイトはハーツラビュルにおる」
「魔法で分身……えっと、ケイトさんが二人いたってことですか?」
「そうそう、二人どころか何人にも増やせるんだ。すごい魔法だよなぁ」

 そういえば、カリムさんも分身がどうこうって言ってたっけ。魔法でそんなことをできるなんてすごい。私もそんな魔法が使えたら一日で色んな所に採取に行けるし、たくさん調合できるからすっごい便利な気がする。
 でも、ケイトさん本人が忙しくなると消えるってことは、そういう使い方はできないかも?

「ふむ、では今日はお開きとするか」
「だなぁ」

 ケイトさんはああ言ってくれたけど、このままだとケイトさんだけ仲間外れみたいになるから、今日はこの辺で、と解散することになった。残ったお菓子を包んでもらって、空き教室を後にした。
 別れる間際、カリムさんから今度するスカラビアのパーティーに遊びにおいでと誘ってもらった。美味しいごちそうをたくさん用意してるから、お友達と一緒にぜひ、って。
 ……ごちそうかぁ、ハーツラビュルのパーティーの話を聞いてたから、とっても気になるかも。
 ごちそうのパーティーはともかく、シタールを作るって約束もしちゃったし、いつかはお邪魔することになるのかな? でも、演奏会なんて大それたことはしたことないから、それだけは断りたいかもなんだよねぇ……

 カリムさんの姿が見えなくなるのを確認して、改めてリリアさんに向き直った。知るのはちょっと怖いけど、カリムさんがどういう立場の人か聞いておきたいもんね。

「あの、リリアさん」
「ん?」
「えと、その、カリムさんって王子様なんですか?」
「いや、あやつは商家の跡継ぎよ」

 商人さん? 聞いてもピンとこなかった。リリアさんが言うには、カリムさんは「熱砂の国」という国のとってもおっきな商人さんの家の子で、そんじょそこらの王様よりよっぽどお金を持っているのだそうだ。
 なるほど、すごいお金持ちってことか。王様よりもお金持ちなんてどういうことなのか、全然想像はつかないけど、カリムさんが身に付けてるものを見れば、納得できるかも。

「ときに、見学してみてどうじゃ?」
「えぇと、分かるような、分からないような……

 せっかくリリアさんが連れて来てくれて、見学までさせてもらったけど、よく分からないというのが正直な感想だった。分かったのは授業が終わって、集まってなにかする、くらいだ。
 部活がなんなのかは分からなかったけど、他の学年、寮の人たちとお話しをするのは単純に楽しいと思った。そう思ったことを伝えると、リリアさんは「それもそうじゃな」なんて言いながらくふくふ笑った。

「ケイトが言うておった通り、軽音部は一・二を争う緩さじゃから、分からんでも仕方なかろうよ」
「はぁ……?」
「まだ時間はあるな。せっかくよ、今日は他の部も見学しに行くか」

 それはいいかも。ほかの部活も見てみたら、部活がなんなのかよく分かりそうだもんね。

「えと、はい。お願いします!」

 頷くと、リリアさんは「では行くか」と、楽しそうに笑いながら私の腕を引いて歩き出した。

+++++

 それからリリアさんとあちこちの部活を見て回った。
 色々なゲームで遊ぶボードゲーム部、調合にお料理に草花のお世話をするサイエンス部、ボール遊びをするバスケットボール部、広いところで走ったり飛んだりする陸上部、セベクくんとシルバーさんがいる馬術部。
 見た感じでは、どこも楽しそうにそれぞれの活動をしているようだった。それと、見ているうちに部活がどういうものなのか、なんとなくだけど分かった気がした。……ついでに、ケイトさんが言っていたように、軽音部が特別のんびりしているってことも。

 あっちに行って、こっちに行って、と一通り見学し終わって、最後に来たのは大きな掲示板の前だった。
 掲示板には今日見学に行ったところや、行ってないところ、冊子に載ってない同好会の参加を募る貼り紙がたくさんされていた。今日一日でもたくさん見た気がしたけど、貼り紙の数を見た感じでは、それでもごく一部に過ぎなかったんだ。って分かった。
 リリアさんはそんな貼り紙まみれの掲示板の前で両手を開いてにっこり笑った。

「大体の部はここで勧誘をしておる、ここを見て決めるといいかもしれんな」
「うえぇ、すごい数ですねぇ」
「部活はともかく、同好会は申請すれば概ね通るからのう。おかげで乱立しとるよ」
「んと、この中から選ばないとなんですよね?」
「そうじゃな。とはいえ、実の所、選択肢はそう多くなかろうよ」
「そうなんですか?」

 リリアさんは「うむ」と大きく頷くと、部活についてさらに詳しく説明してくれた。
 前提として部活や同好会は大きく分けて、運動部と文化部に分かれている。
 運動部はその名前の通り、主に運動をするところで、陸上部とかがそうらしい、で、文化部はリリアさんたちの軽音部やサイエンス部とかのことを言うらしい。
 その違いは、なんとなく分かる気がした。文化部? はそれぞれお部屋で好きにやってるみたいだったけど、運動部と言われるところはみんなが揃って同じ活動をしているように感じた。……そう思ったらお部屋で同じようなことをしてたバスケットボール部ってなんなんだろ? いっぱい動いてたから運動部かな?
 他にも細かいところが違ったりはしてるけど、そんなに気にすることではないらしい。

「みんなで同じことをするって考えると、運動部って楽しそうですね」
「そうじゃな。じゃが、お主が運動部に入ってもめいっぱいは楽しめないかもしれんの」
「そうですか?」
「うむ」

 リリアさんの説明によれば、運動部はよその学校との交流として試合をすることがあるのだそう。けど、もし私が入部しても試合に出るどころか、連れて行ってもらうのも難しいかもしれないのだそう。
 たしかによその学校の人に私がいるのがバレたらマズいかも。「男の子しかいない学校になんで女がいるんだー!」ってなったら、学園長さんが困りそうだもんね。それに試合とか、勝負事ってちょっと怖い気もするし……そう考えたら運動部はナシかも。
 お馬さんに乗るのとかははちょっと憧れるけど、迷惑はかけられないよね。ひっそり諦めていると、リリアさんは説明を続けた。

「文化部にもコンテストやら発表やらあるといえばあるが、代理を頼んだり、人前に出ずとも、まぁできるからのぅ」
「発表、ですか?」
「うむ。とはいえ、その辺は顧問によるから、一概には言えぬがな」
「えぅー、難しそうです……

 コンテストとか発表ってなにするんだろう? 分からないけど、なんとなく難しそうな響きかも。
 たしか、ケイトさんも軽音部では音楽発表をすることがある、って言ってたっけ。たぶん、大勢の前で演奏するんだよね。それもやっぱり、私は参加できないのかな? だとしたら、ちょっと寂しいかも。
 でも、軽音部にはちょっと惹かれてはいた。カリムさんたちがくれたお菓子、とっても美味しかったもんね。
 どうしようかなぁ、と考えながら掲示板を見上げていると、リリアさんがまたくふくふ笑った。

「あまり難しく考えずともよいよ、お主のやりたいことから探すといい」
「やりたいこと……
「まぁ、どうしても決めかねるのであれば相談には乗るからな」
「うー……ありがとうございます」
「若いうちは存分に悩むがよいよ」

 おじいちゃんみたいなことを言うなぁ。とはいえ、そうは言ってくれるけど、期限もあるから、あまり悩むわけにはいかないよね。

「さて、わしはそろそろ寮に帰るでな」
「あ、はい。ありがとうございます! 部活のこと、色々教えてくれて」
「構わんと言うておるに。……ではな」

 くるり、とジャケットを翻して、リリアさんは校舎を出て行った。後ろ姿を見送って、リリアさんの言葉を思い返す。
(やりたいこと……
 私がやりたいことといえば、やっぱり、カボックに帰ることだ。先生も元の世界に帰る方法を探しなさいって言ってたし、遊んだりするよりは、そっちに集中するべきだと思う。
 でも、今日リリアさんと色々見て、他のことに興味が出ちゃったのもまた事実。ゲームで遊んだり、いっぱい身体を動かしたり、お花や動物のお世話だってやってみたい、かも。

……わかんないや」

 考えるうちにやってみたいこと、やらなきゃいけないこと、それぞれがこんがらがって、なんだかよく分からなくなってしまった。
 それでもどうにか考えてみると、入りたい、って思うのはサイエンス部かも。と、うっすら思った。
 材料になる植物を育てるなんて、やったことないから興味はある。
 見学に行った時にいたルークさんが言うには、サイエンス部は「なんでも部」と言われるくらい、活動内容が広いらしい。だから、他の部と比べると好きなことができるのだそう。
 だからなのかな、サイエンス部は他よりも人が多くてにぎやかに感じた。それなら、カボックに帰る研究以外の調合なんかもできそう。ここに来てから、ずっと魔技術の調合をしてないものだから、なんとなく落ち着かない気もするもん。
 ……それと、ルークさんからはハーツラビュルのバラノシュバリエさんというお菓子作りが得意な人が、たまに美味しいお菓子を振舞ってくれる。と、こっそり教えてもらっていた。これは、正直、かなり魅力的に思った。
 だって、ケイトさんがハーツラビュルから持ってきたっていうお菓子はとっても美味しかったんだもん。部活に行ってそれが食べられるってなったら、やっぱり、いいかもって思っちゃう。
 ヨコシマな考えで決めちゃダメな気もするけど、他に気になるとこがないようであれば、サイエンス部に入ればいいかなぁ? ……そんなことを考えていると、一枚の貼り紙が目に付いた。

「山を愛する会……?」

 他の物より二回りくらい小さな貼り紙には、山とキノコの絵が描いてあって「共に山での散策を楽しみましょう」と書かれていた。
 どこの教室で活動してるのか、とか書いてないから、ここも同好会なのかな? 貼り紙の下の方に「入会希望の方は2-E ジェイド・リーチまで」と、やたらキレイな字で書かれている。
 お山で散策ってことは、採取とかもできるんだよね? そう思ったら、とっても気になった。サイエンス部での栽培も気になるけど、山に行けば栽培できない鉱石や植物なんかも手に入りそうだもん。
 そうしたら、カボックへ帰るための研究もはかどるかもしれない。先生は必要な材料とかは学園で用意してくれるって言ってたけど、甘えすぎるわけにはいかないし、自分の足で材料を集めるのはなんだかんだで好きなんだもん。
 そうなると、この「山を愛する会」はとっても魅力的に思えた。……でもなぁ、バラノシュバリエさんのお菓子も気になるんだよねぇ。

「当同好会へ興味がおありですか?」
「ぴっ!?」

 悩みながら貼り紙とにらめっこをしていると、突然後ろから声をかけられた。
 振り返ると、キレイな色の髪をした、とっても背の高い男の人が、感じのいい笑顔で私を見ていた。

「これはこれは、驚かせてしまい申し訳ありません」
「えと、大丈夫です」
「ふふ、随分と熱心に御覧になっているようでしたので、お声がけさせていただきました。山を愛する会の会長を務めております、ジェイド・リーチと申します」

 お見知りおきを、と会長さんことジェイドさんは品のいい笑顔で深々とお辞儀をした。「山を愛する会」の会長さんなんていうから、なんとなく山男みたいな人かと思ってた。
 でも目の前にいるジェイドさんは、とても都会的なカッコイイ人で、ものすごく意外に感じた。……けど、同時にジェイドさんの付けている腕章が目について、ハッとなった。

「オクタヴィネル……

 気付いて、オクタヴィネル寮の人には気を付けるよう、リリアさんに言われていたのを思い出した。
 私のつぶやきが聞こえてしまったのか、ジェイドさんはにっこり笑った。

「えぇ、オクタヴィネル寮の副寮長を務めさせていただいております」
「副寮長さん、ですか」

 ジェイドさんのそれは、とても人の良さそうな笑顔だ。そこからはリリアさんが言ったような、悪さをする雰囲気は感じられない気がした。
 それはともかく、ジェイドさんからは人間とは違う感じがした。人ではありえない、異様な量の水素の気配がしている。ジェイドさんも妖精さんとか、そういう種類の人なのかな? 正体が分からないのもあって、なんだか妙に怖く思えた。

「ところで、山を愛する会に興味がおありでしたか?」
「えっ?」
「先ほどから熱心にポスターをご覧になっておりましたでしょう?」
「えと……

 いつの間にかジェイドさんは私のすぐ目の前まで距離を詰めていた。咄嗟にまずいと思って、こめかみにきゅうっとした緊張が走る。
 どうしよう、リリアさんに注意されてたのにも関わらず、オクタヴィネルの人と関り合いになりそう。それも、副寮長さんともなると、いよいよまずい気がする。

「その、見てたんじゃなくて、ぼーっとしてただけなんです」
「おや、そうでしたか」
「えと、はい。お山に興味があるとか、そういうわけじゃ……

 正直、この世界のお山にはどういう材料があるのかってすごく興味はある。だから、入りたい気持ちは大いにある。けど、ジェイドさんはオクタヴィネルの人で、しかも副寮長さんだ。
 リリアさんに気を付けるよう言われた手前、すぐに頷くことはできない。悪いなぁと思いつつも断ると、ジェイドさんはまた、にっこり笑った。

「ご安心を、当同好会は初心者も歓迎しております」
「へ?」
「たしかに、女性の山歩きとなると体力面の不安などもありますでしょう」
「あの……

 おかしい。興味がないって断ったはずなのに、ジェイドさんに通じていないらしい。言い方が悪かったのかな?

「ですが、ご安心ください。誠心誠意サポートさせていただきます。必要であれば道具やウェアも用意いたします。あぁ、代金は気にしていただかなくて結構ですよ、少額ではありますが部費もございますので」
「えっと……
「怪我などが不安であれば、こちらで保険の申請もいたしましょう、部費で。あぁ、もちろん野生動物や毒のある植物などの対応もお任せ下さい」
「えぅ……

 どうにかしてやりすごさなきゃ、そうは思ってもジェイドさんはずぅっと喋っていて、まるで私の話を聞いてくれそうにない。

「さぁ、こちらの入部届にサインを」

 それどころか、どこに持っていたのか、入部届を突き付けてきた。
 なるほど、オクタヴィネルの人はこうやって押し売りをするんだな、って変に冷めた頭で感じた。けど、このままサインしていいとは到底思えないから、どうにかしてお断りしなきゃいけない。

「あの! 私、サイエンス部に入るので、お山の会には入れないんです。その、ゴメンナサイ……

 だから、悪いと思いつつもウソを吐くことにした。元々、サイエンス部に入ろうかと思ってたから、真っ赤なウソというわけじゃない。そう、頭の隅で言い訳しながら。
 ジェイドさんはきょとん、と首を傾げるも、またすぐさっきの笑顔に戻った。どうしよう、イヤな予感しかしない。

「ご心配には及びません。山を愛する会は文化部なので、掛け持ち可能ですよ」
「えっ!?」

 掛け持ち、ってことは文化部なら二つ以上の部に入れるってことなのかな? リリアさんが言ってた細かな違いってこういうことなのかな?
 というか、ジェイドさんはなんでここまで食い下がってくるんだろう。話も通じないし、執念のようなものを感じてすごく、ものすごく怖い。

「っ! ごめんなさーい!」

 だから、逃げた。「話の通じない人は相手にしても無駄だから、魔物だと思って逃げなさい」って、おじいちゃんから教わっていたから。

「おやおや」

 追いかけてこられたらどうしよう。ちょっと心配だったけど、幸いにもジェイドさんは追いかけてこなかった。
 走って、走って、サムさんのお店の前の通りまで来て、辺りを見回して、ジェイドさんがいないことを確認できて、ようやくひと心地がついた。

……ふぃ」

 逃げてきちゃったし、今日はもう寮に戻ろうかな。あちこち歩いて、またジェイドさんに会ったら気まずいし、さっきみたいに迫られたら怖いもんね。
 ジェイドさんにはあぁ言っちゃったし、やっぱりサイエンス部に入ろうかな。お山で採取できるのは魅力的だけど、ジェイドさんは怖すぎる。
 そんなことをぼんやり考えながら、寮へ帰った。