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いまち
2024-02-10 11:44:01
199057文字
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ティナとねじれた魔法の世界・2
おはなし一覧
/
ティナとねじれた魔法の世界
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15.ティナの休日と大掃除
朝起きて、いつもより人の少ない食堂でご飯を食べた。眠そうにしている子がちらほらいるから、みんな夜更かしとかしてたのかな?
いつもと違う雰囲気に新鮮みを感じつつ、少しだけ早くご飯を食べて、ちょっぴり急いで部屋に戻った。うっかりのんびりして先生を待たせたら悪いもんね。
そう思って部屋に戻ったものの、ただ待っているのも落ち着かない。昨日ちゃんとできなかった復習をしようと教科書を開いて先生を待つ。
……
つもりだったけど、頭の中はユウくんのお屋敷のこととか、お弁当はどうしようかなーとかでいっぱいだった。
なにかしようと思っても手につかず、気だけは変に焦りながら待っていると、金属でできた大きなカバンを持ったクルーウェル先生が来た。先生は朝だというのにお化粧も髪型もばっちりだった。それが迫力満点なものだから、昨日こってり怒られたこともあってちょっと緊張する。
「えと、オハヨウゴザイマス
……
」
「あぁ、おはよう。それで、持ってきた道具とやらは?」
「えぇと、用意してます」
机の上の道具を指差して見せると、先生はにっこり笑って頷いた。
「good boy! 上がらせてもらっていいな?」
「あ、はい。どうぞ」
言ってから、ベッドに脱ぎっぱなしのパジャマをそのままにしてたことに気付いた。幸い、先生は道具にしか興味がなかったようで、私の机にカバンを置いて、並べた道具をじぃっと見つめていた。
……
けど、あからさまに険しい顔だった。表情からするに、また怒られるんだと想像がついた。最近怒られてばかりなものだから、ヘンな勘ばかりが冴えてる気がする。
あまり怒られたくないなぁ、って心の中でビクビクしながら、パジャマをお布団の下に隠して先生に近付いた。
「えと、説明とかいりますよね?」
「その前に一つ聞きたい」
「なんですか?」
「これはなんだ?」
そう言って先生が魔法で浮かせて、私の目の前に突き出したのはフラム。見るからにばくだんの形をしたばくだんだ。なにもかにも、見たままだと思うんだけど。
……
とは思ったけど、先生は身形からしていいおうちの人っぽいし、ばくだんで魔物退治とかしたことないのかも。だったら、馴染みがないのもしょうがないかもしれない。
「えと、ばくだんです」
納得しながら答えると、先生は見たことがないくらい目を見開いた。
「bad boy!! なんて物を持ち込んでいるんだ!!」
「ぴっ!?」
怒鳴り声と共に、先生の教鞭が床を鳴らした。
「そんな危険な物、持ち込んでいたのならきちんと報告しないか!」
「ご、ごめんなさい。その、聞かれなかったので
……
」
「聞かれなかった、じゃない! 一歩間違えれば逮捕されたかもしれないんだぞ!!」
「え、と、たいほ? ってなんですか?」
聞き返すと、先生は少しばかり怯んだように見えた。私、そんなにヘンなこと言っちゃったかな?
……
言っちゃったんだろうなぁ。
今度は何を怒られるんだろって、内心ビクビクしていると、先生は大きくため息をついて、苦しげにこめかみを押さえた。
「悪さをして捕まることだ。お前、そんなことも知らないのか?」
「えっ! 私捕まっちゃうんですか!?」
「場合によっては、だ!」
そして先生は怒り顔のまま、この世界ではばくだんのような危ない物は、特別な許可がないと使うどころか、持ち歩くことすら許されていないのだと教えてくれた。
特にこの学園では色々な国の人がいて、マレウスさんみたいな王族や、イイお家のご子息さまなんかもいるから、危険物でケガなんてさせた日には、それはそれは大変なことになってしまうかも、らしい。
それを聞いて、昨日先生があんなに怒った理由も分かった気がした。よく分からないお薬を大事な生徒に使われたとなれば、不安にもなるかも。
先生はきっと、身体に合わなくて大変なことになった、とか、副作用でひどいことになった、とか想像しちゃったんだと思う。そういうのって毒を盛られるのと変わらないもんね。
私は自分のおくすりは悪いものじゃないって知ってるけど、先生は知らないんだもん。考えて、先生にいらない心配をかけてしまったのだと、改めて気付かされた。
「
……
ごめんなさい」
「分かればいいんだ。それで、持ち込んだのはこれで全部だな」
「はい、一応
……
」
「一応?」
「えと、同じ物、いっぱい持ってるんです」
カボックの外に出るのに、ばくだんが一つ二つあったところで間に合わない。フラムやレヘルンなんかは使う源素も少ないから、それこそ普段からたくさん持ち歩いていた。
だから、ここに来た日も当然、いっぱい持ってたことを説明すると、先生はまたも顔をしかめてしまった。
「一体どれほど持ち歩いていたんだ?」
「えーっと、ばくだんがあと17個、おくすりがあと12個ですねぇ」
「
……
重複分は置いておいていい。ただし、間違ってもこの部屋から出すな、いいな!」
「えぅ
……
わかりました」
それから先生は道具をひとつひとつ見てはよく分からない魔法をかけて、そうっと鞄の中にしまっていった。
道具がカバンの中に消える度、自分の中の大事な物が削ぎ落とされた気分になった。使う気はなかったとはいえ、ばくだんもおくすりも私の身を守る手段だったものだ。だから、それらを持って行かれて、持ち歩くなと言われると心許ない気分になる。
「なんだ、そのしょぼくれた顔は」
しょんぼりしていたのが顔に出ていたらしい。先生は訝しげな目を向けてきた。
「えと、その、持ち歩くなってなるとちょっと心配になっちゃって
……
」
「心配いらん」
「えぅ、でもでも、魔物とか獣とか出たら危ないじゃないですか!」
言いながらグリムくんの顔がちらついた。グリムくんはみんなが認めてるように魔物だ。グリムくんがたまたま危なくないだけで、危険な魔物だっているのかもしれない。
この学園は崖に面しているから、危ない獣なんかはそうそう入ってこないかもだけど、それでもやっぱり不安になる。そんなことを考えていると、先生は呆れたようにため息をついた。
「そんな心配はいらん。この学園は結界が張られている。そんなものは入ってこれん」
「そー、なんですか?」
「あぁ。それに、非常時には我々教員がお前たちを守るし、近隣の国から即応援が手配される。お前たちが動くことはまずないと思っていい」
「
……
」
「まぁ、よほどの緊急事態であればお前たちが対処する場合もある。だが、そのための訓練は行うし、そもそも、そんな事態は本当に稀なんだ」
「
……
わかりました」
先生からの子ども扱いはちょっと気になったけど、たぶん、私に心配するなって言ってくれてるんだよね。ここに来た時、トレイン先生も私に「子供なんだから大人に頼りなさい」みたいなことを言っていた。なんとなくしっくりこないけど、素直に受け止めておこうと頷いた。
先生は道具を全部カバンに入れて、最後に私が書いたメモをポケットにしまうと、道具を部屋から出すなと改めて釘を刺して部屋を出て行ってしまった。
「はぁ
……
」
空いてしまった机の上がとても寂しい。けど、落ち込んでる暇はなかった。
思ったよりも時間を食っちゃったから、早くお弁当を作ってユウくんのお屋敷のお片付けに行かないとだもんね。
気を取り直してキッチンへ行くと、朝ごはんの時間は終わったらしく、ユーレイさんたちがお片付けをしているところだった。
邪魔にならないように隅の方で作業をしようと思って、悪いと思いつつ、忙しそうにしているユーレイさんに声をかけた。
「あのぅ、お伺いしたいんですけど
……
」
それから、ユーレイさんに調理道具の場所や使っていい材料を聞いて、さっそくお弁当を作った。この前、ユーレイさんに教わったばかりのツナサンド。ロールパンを焼いて、ツナ缶で作った具材を挟むだけの簡単なやつだ。
キッチンのお手伝いをしているという火の妖精さんに手伝ってもらえたから、パンはすぐに焼けた。
作ったのはママが若い頃にパパのために作ったというロールパン。同じレシピで作ってるのに、私が作っても、ママのようにふかふかにできなくて不思議だった。ママは「ティナも大好きな人ができたら作れるようになるよ」なんて言ってたけど、よく分からない。
まぁ、ママのようにふかふかじゃなくてもお店に出せるくらい美味しく焼けるからいいもんね。
……
ちょっと悔しいとは思うけど。
焼きあがったパンをお皿に並べて、冷ましてる間に挟む具材を作った。
ユーレイさんから材料をもらって、キュウリとツナ缶をマヨネーズで和えたもの、それと同じようにキャベツとハムを和えたものの二種類。これもユーレイさんが教えてくれたものだ。
「あぁ! それはダメだよぉ!」
「うぇ?」
湯がいたキャベツを絞っていると、突然ユーレイさんの大声がキッチンに響いた。
なにごとかと声のした方を見ると、知らない人が私のパンを食べていた。その人もユーレイさんの大声に驚いたのかパンを咥えたまま目を丸くしている。
ユーレイさんは困り顔で私が作ったパンだと説明すると、その人はさらに驚いたような顔になった。
「え、そうなの!?」
「えぅ、はい。お弁当を作ろうと思ってて、はい」
「ごめん! オレ、知らなくて」
その人は慌てたようにきょろきょろしながら、しきりに頭を下げてきた。食べられちゃったのはちょっとがっかりかも。でも多めに作ってたから、三人分のお弁当にするには足りるくらいには残ってる。
だから、慌てた顔のその人にかぶりを振った。
「えと、大丈夫です」
「ほんとごめん、オレ、朝飯食いっぱぐれてて」
「そーなんですか?」
「うん。だからといって言い訳にはならないが、その、ごめん」
「えっと
……
」
それじゃあお腹が空いてるはずだよね。そんな時に美味しそうなパンがあれば、そりゃあ食べちゃうってものだ。私だって知らなかったら食べると思う。自分で作って言うのもなんだけど、とっても美味しいパンだもん。
食べられちゃったことにはびっくりしたけど、別に怒ってるわけじゃない。それに、ご飯がないなら分けてもいいかも。お腹が空いたら悲しくなっちゃうもんね。そう思って、残ったパンから二つお皿にとってその人に差し出した。
「そのぅ、いいですよ? えと、よかったらもふたつどうぞ」
「いいのかい?」
「はい。お腹が空いてるのって辛いですもんね」
男の子だからこれじゃ足りないかもだから、もっとあげたい気持ちもある。けど、これ以上あげちゃったら私たちのお弁当がなくなっちゃうもんね。これで我慢してもらおう。
とはいえ、このままだとサンドイッチ用の具が余っちゃうから、具ごと渡すことにした。
「ちょっと待ってくださいね」
「え、あぁ?」
急いで和え物を作って、小皿に盛ったそれも一緒に渡した。
「よかったらこれもどうぞ」
「えっ」
「このままだと余っちゃうので。よかったら食べてください」
「あ、ありがとう!」
その人は、しきりに頭を下げて、けど嬉しそうに笑った。そんな顔を見れば、いいことをしたんだって思えて私も気分がいい。なのに、私たちのやりとりを見ていたらしいユーレイさんはちょっぴり呆れたような苦笑いを浮かべていた。
「キースリンクさんも人がいいねぇ」
「えへへ
……
」
なんて、照れてる場合でもなかった。急いでサンドイッチを仕上げて、ユーレイさんから借りたお弁当箱に入れて、バスケットにしまい込んだ。
それから、運動着に着替えて、お弁当とこの前用意したグリムくんへのお詫びのツナ缶をバスケットに詰めて、植物園に向かう。
植物園の管理人さんに声をかけると、建物の修理に必要だというお道具箱を貸してくれた。
中を見ると、入ってる道具はなじみのある物ばかりでちょっとだけ安心した。使い方の分からない道具ばっかりだったら困ってたもんね。
「木材が必要なら都合できる物もありますので、遠慮なく相談してくださいね」
「ありがとうございます! えと、お借りしますね」
「はい。17時前にはお返しください。道具の手入れはこちらで行いますので、汚れてもそのままにしてくださいね」
「わかりました。ありがとうございます!」
管理人さんにお礼を言って植物園を出る。両手は荷物でいっぱい。前から歩いてくる人にぶつからないよう、気を付けながらユウくんのお屋敷へ続く、荒れた道を進んだ。
お屋敷に着くとホコリまみれのユウくんとグリムくん、それとオシャレな帽子にマントを羽織ったユーレイさんたちに出迎えられた。ユウくんが言うには、ユーレイさんたちは元々ここのお屋敷に住んでいた人(?)らしい。
ここのユーレイさんも食堂や寮にいるユーレイさんたちと同じようににこやかでとっても人が良さそう。
「お嬢さんの話は聞いているよ。わざわざすまないねぇ」
「全然へーきですよ! 任せてください」
「おやおや、頼もしいねぇ」
「なぁなぁ、何を持ってんだ? 食い物なんだゾ?」
ユーレイさんとお話していると、グリムくんはさっそく嗅ぎつけたらしい。キラキラした目でお弁当とツナ缶を入れたバスケットをぺたぺた触っている。
「うん。お昼に食べようと思って、おべんと」
「キャッホー! オマエ、気が利くじゃねーか!」
「ごめんティナ。手伝ってもらう上にご飯まで」
「いいの! 困った時はお互い様でしょー」
申し訳なさそうなユウくんにかぶりを振った。ユウくんには仲良くしてもらってるんだから、できることはしたいって思うもん。
そんなことを考えていたら急にバスケットが重たくなった。なにかと思って見ると、グリムくんがバスケットに頭を突っ込んでいた。
「オレ様、ハラが減ってるんだ、さっそくよこすんだゾ!」
「わわ! ダメだよ!」
おべんとはあまり用意してないから、今食べられたらお昼ごはんがなくなっちゃう。慌ててバスケットを持ち上げると、グリムくんはころっと後ろに転んでしまった。
「ふなっ!?」
ぶつけちゃったのか、グリムくんは後ろ頭を押さえて涙を浮かべた。悪いことしちゃったかも。そんなグリムくんをユウくんは呆れたような目で見ていた。
「グリム、ご飯はさっき食べたでしょう?」
「ふな~
……
」
「えぅ、ごめん
……
えと、かわりに、じゃないけどコレ、あげるから」
バスケットからツナ缶の袋を出してグリムくんに渡す。グリムくんは不思議そうな顔で受け取って、首を傾げながら開けると、ぱっと目を輝かせた。
「ふなっ!? ツナ缶なんだゾ!?」
「えっ」
「見ろ子分! ツナ缶がこんなに! しかも高級ツナ缶もあるんだゾ!!」
「ティナ
……
」
訝し気な顔をするユウくんに、この前グリムくんが言ってた迷惑料のことを言うと、呆れたような困ったような顔でため息をつかれてしまった。
「本当によかったのに。なんか、かえってごめん」
「んと、迷惑かけちゃったのはほんとだから」
正直、先生からもらったお金でお詫びをするというのも変な感じはする。けど、ツナ缶を前に嬉しそうにしているグリムくんを見ると、悪いことじゃないよね。って、そう思った。
グリムくんはツナ缶に夢中なようだった。二種類のツナ缶を並べて、短い腕を組んで、恐ろしく真剣な顔で見つめていた。
「普通のツナ缶か、高級ツナ缶か、それが問題なんだゾ
……
」
「その前に掃除だよ」
「ふなっ!?」
けれど、そのツナ缶たちはユウくんに取り上げられて、袋ごと戸棚の中にしまい込まれてしまった。
あの高さだとグリムくんの背じゃ届かないかも。それでも取り出そうとしてか、グリムくんは戸棚の前でぴょんぴょん跳ねた。けども、棚の取っ手に手は届かない。
何度も跳ねて、それでも届かなくて、グリムくんはぺたっと耳を伏せて泣きそうな顔で私を見上げた。
「
……
ティナぁ」
「えと、お掃除がんばろーね?」
「ふな
……
」
好物を取り上げられて、しょんぼりするグリムくんの気持ちは分からなくもない。けど、今日はお掃除する日だもんね。ご飯はお昼かお掃除が終わってからだから、我慢してもらわなきゃいけない。
かわいそうな目で見られたら、つい取ってあげたくなりそうでアブナイかも。涙目のグリムくんからは目を逸らしつつ、ユウくんとどこから手をつけようかお話することにした。
「
……
一番気になるのは雨漏りかな」
「あー、やっぱり?」
昨日もちらっと聞いたけど、よくよく聞いてみると、ここの雨漏りは相当にひどいらしい。
外から見ても屋根の具合が悪いのはひと目で分かった。でも、人を住まわせるくらいなんだから、住むのに支障がないくらいのお手入れはされてるものだと思ってた。
使われてないお屋敷だから、お掃除がされてないのは仕方ないかもとは思う。けど、ここまで壊れてるのを放置というのはいくらなんでもいただけない。
前にトレイン先生は私たちの生活の保障をするのは大人の役目、なんてことを言っていた。けど、それならこのお屋敷の状態はなんなんだろう。そう考えて、少しモヤモヤした気持ちになる。
「えと、それじゃあ雨の日とかどうしてたの?」
「あぁ、それは
……
」
話を聞くと、談話室のあちこちにあったバケツは雨漏り対策だったらしい。正直、お掃除用にしては多いとは思ってた。
というか、談話室は下の階にあるのに、そこまで雨漏りするってどれだけひどいんだろ? それだと、屋根だけじゃなくて床の修理もしなきゃなのかな?
思った以上にやらなきゃいけないことが多そうで、今日明日じゃ終わらない気がしてきた。屋根だけじゃなくて、床や壁も傷んでるから、その辺のお手当だけでかなり時間がかかりそう。
「じゃーあ、まずは屋根の穴とか塞いじゃおっか」
「へ!?」
「え?」
「ティナがやるの?」
「うん」
ユウくんはいいおうちの子っぽいし、見るからにこういう仕事はしたことなさそうだもん。だったら私がやる方がいいと思った。
ユウくんは驚いたような顔をしたけど、私がカボックでそういうお仕事もやってたことを説明したら、一応は納得してくれたようだった。
「ちゃんとした修理はできないけど、応急処置くらいならできるよ」
「そういうことなら
……
お願いしていい?」
「うん! まかせて!」
そうして私は屋根のお手当て、ユウくんは天井のお掃除、グリムくんは煙突掃除、ユーレイさんたちはお片付けとお弁当の見張り、とやることが決まった。毛が汚れるからイヤだとグリムくんはごねたけど、私のぶんのサンドイッチを一つあげて、どうにか納得してもらった。
それから植物園で屋根の穴を塞ぐための木材をもらってきて、習ったばかりの飛行術で屋根に上って、グリムくんのお掃除用のロープを煙突からぶら下げて、屋根のお手当てをはじめた。
「
……
わぁ」
屋根の状態は思っていた以上にひどかった。最初見た時は穴が開いてそうだとは思ったけど、まさか本当に開いてるとは思わなかった。
瓦は残っていればまだいい方で、むき出しの葺き土からは雑草やらお花やらが生えている。苔も生していれば、海風に晒されてるせいかちょっと臭う。
こんなにボロボロじゃあ板だけじゃ力不足かも。粘土で塞いだりする必要もありそうだけど、残念なことにやり方は分からない。
「
……
よしっ!」
できないことを考えても仕方ない。ちゃんとした修理は職人さんがしてくれるだろうから、私は私のできることをすればいいよね。
そう思うことにして、手あたり次第、雨漏りがしそうな穴や隙間を塞いでいった。
「ティナー、ロープちょっと下げてくれぇ」
「はーい」
グリムくんのお手伝いをしながらだから、屋根の上を行ったりきたり。それがちょっぴり怖い。なんせ屋根の上は恐ろしくガタガタしてるものだから、一歩間違えれば踏み抜いてしまいそう。
「ティナー」
それでもどうにか塞いでいると、水の妖精さんがやってきた。今日は一人らしい、妖精さんは私の腕に抱き着くと、私の手元を見て不思議そうに首を傾げた。
「
……
なにしてるの?」
「屋根のお手当て。雨が漏れないようにしてるの」
「
……
ふぅん」
妖精さんはなにをするでもなく、じっと私の手元を見つめている。
「
……
ね、ティナ」
「なぁに?」
邪魔をしないなら別にいっか。そう思っていたら、妖精さんがつい、と髪を引っ張った。なにかと思って妖精さんを見ると、ちっちゃな手でわりとキレイな瓦を指さした。
「ここ、雨の通り道。塞ぐといい、かも」
「そーなの?」
妖精さんが指した箇所はパッと見た感じだと、傷んでるようには見えない。妖精さんがなんでそう言ったのか不思議に思っていると、妖精さんはぽつぽつと続けた。
「わかるから
……
水が流れるところ」
「そっか、水の妖精さんだもんね」
「ん」
妖精さんなら自分が司るもののことなんかが分かるのかも。納得して、妖精さんが指した部分を見てみた。見た目はキレイだけど、なんでここが雨漏りするんだろ?
不思議に思ってよく見たら、瓦に小さなヒビが入っていた。もしかして、ここから雨が漏れるのかな? でも、これだとどうやって塞げばいいんだろ。考えながら瓦をつついていると、ふいに外れて下に落ちてしまった。
「うえっ!?」
驚いてぽっかり空いたそこを見た。瓦がなくなったそこはどうしてそうなってしまったのか、中の葺き土がごっそりなくなっていて、瓦だけが浮いている状態だった。
見ている間にもヒビ割れた瓦がまたひとかけ落ちて、小気味いい音を上げた。
私も下にいるユウくんもケガしなくて良かったとか思いながら、浮いてる瓦をはがして、その周りも塞いだ。
「ありがと! 助かったよー」
「ん」
「ティナー、オレ様、外の空気が吸いたいんだゾー!」
「はぁい!」
それから妖精さんの手助けもあって、思ったより早く屋根のお手当てを済ますことができた。お手当てが済むと、妖精さんはお仕事があるとかで消えていった。
「グリムくん。どーぉ? 終わったかなぁ?」
「おーぅ、終わってんだゾー! 上げてくれぇ」
煙突の中に声をかけると、グリムくんもお掃除が終わってたらしい。なら、もう降りちゃっていいかな? お腹の空き具合からするに、そろそろお昼ご飯の時間だ。
ススで真っ黒になったグリムくんを引き上げて、お道具箱とグリムくんを抱えながら地上に戻った。
すると、お屋敷の前に、なぜかエースくんとデュースくんが来ていた。二人して見慣れない恰好
――
たぶん、ハーツラビュルの寮服
――
を着て、紙の箱を抱えている。
「よーぅ」
「邪魔してる」
「あれぇ? え、なんで?」
二人とも今日は寮のお片付けで来られないって言ってたのに。どうしたんだろって思っていると、グリムくんが私の腕を抜け出して、二人に飛び掛かった。
「美味そうな匂いがするんだゾ!」
「きたなっ!!」
「こら、グリム! やめろ!!」
飛びかかられた二人は驚いたように身を翻した。そうしちゃうのも分からなくもない。
グリムくんは煙突の中でお掃除をしたばかりだから、ススだらけのホコリまみれ。なんなら、クモの巣までまとわりついている。控えめに言ってとてもばっちい。
そんなグリムくんに飛び掛かられたものだから、二人の真っ白なズボンは見事にまだらに黒く汚れてしまった。
「よこすんだゾ!」
「お前は先に風呂に入れ!」
「なに言ってんだ! メシが先なんだゾ!!」
それでも、二人は持っていた箱を守ろうとしてか頭の上に持ち上げている。グリムくんの反応からするに、食べ物でも入ってるんだろうな。それなら私も気になるかも。
二人の必死の防衛によりあしらわれたグリムくんはまたもしょんぼりと涙目になってしまった。けど、諦める気はないようで二人の隙を窺うような顔でじぃっと箱を眺めていた。
……
たぶん、箱を狙うよりお風呂に入った方が箱の中身を食べさせてもらえるんじゃないかな。そんな気がする。
「え、なんの騒ぎ?」
みんなでバタバタしていると、お屋敷の中からユウくんが顔を出した。ユウくんはユウくんでお掃除を頑張ったらしくホコリまみれだった。
二人にあしらわれてメソメソしてたグリムくんは、ユウくんを見て、嬉しそうな顔で飛びついた。
「子分ー!」
「うっわ! きたなっ!!」
「ふなっ!?」
……
けど、ユウくんは素早くそれを避けた。勢い余ったグリムくんはそのまま玄関マットの上に転んで、そのはずみでマットにはグリムくんの形がハンコのようにぽん、とついてしまった。
ススって織物の繊維に入りこんじゃうから、落とすの大変なんだよねぇ。グリムくんはかわいそうではあるんだけど、ついマットの心配をしてしまった。
「え? なに? 二人ともどうしたの?」
けど、ユウくんはグリムくんもマットも気にするでもなく、エースくんとデュースくんが来たことに驚いたようだった。
エースくんとデュースくんはここのお掃除をできない代わりに、と差し入れを持ってきてくれたのだそうだ。副寮長さんお手製だというお野菜とベーコンをたっぷり使ったベイクドパイと、ミートパイ。
時間もちょうどいいからみんなでお昼ご飯にしよう、天気がいいからお外で食べよう、掃除ついでに家具もキレイにしたいから談話室のテーブルを出しちゃおう
……
なんて話になって、このお庭でお昼ご飯を食べることになった。
「
……
アイツら、ヒデーんだゾ」
「あはは
……
」
三人が談話室のテーブルやソファを運び出すのを見ながら、私はお庭に桶をひいて真っ黒になったグリムくんを洗った。
グリムくんは意外にもちゃんとお掃除してくれたようで、身体の汚れはすさまじい。お水をかけてもかけても真っ黒い水が流れるだけで、なかなか次に進まない。
「オレ様のおかげで暖炉が使えるようになったっつーのに」
「うんうん。グリムくんは頑張ったもんねぇ」
「そう言ってくれるのはオメーだけなんだゾ
……
」
よほど頑固な汚れなのか、石鹸も全然泡立たない。それでも何度も洗って、すすいで、グリムくんもやっとキレイになった頃、ユウくんたちも家具を運び終わった。
お日様の下に運び出された家具はどんより曇っていた。前に見た時は薄暗いお屋敷の中だから汚れてるように見えたのかなって思ったけど、普通に汚れてるだけだった。
みんなも同じように思ったらしく、取り急ぎ四人で拭けるだけ拭いて「まぁいっか」って思える程度までキレイにした。そこまでしてやっと、持ち寄ったお料理を並べて、エースくんにお茶を淹れてもらって、昼ごはんにありついた。
「んー、美味しいねぇ」
「だろー?」
具材たっぷりのベイクドパイを食べていると、エースくんが意地悪そうな顔で笑ってきた。
また副寮長さんのお料理自慢が始まるんだ。そう思ってちょっとむっとなったけど、こんなに美味しいパイを食べてみれば、自慢したくなるのも分かるかも。
「ティナのサンドイッチも美味しいよ」
「ありがとー!」
「あー、たしかにうめーな。パンは、だけど」
「エースお前、失礼だろ」
「ホントのことだし。でもホントうめーよ、このパンって焼きたて?」
「うん。今朝焼いたばっか」
サラダの方はまだ習ったばかりで、作り慣れてないからしょうがないかもだけど、パンはちょっぴり自信がある。だから、美味しいって認められてとっても嬉しい。
……
なんとなく、エースくんからは私が焼いたパンだって伝わってない感じがしてたけど。
みんなでわいわいご飯を食べて、あっという間に食べ終わった。食堂で食べるご飯はもちろん美味しいんだけど、こうやってお外で食べるのも気分がいい。機会があったらまたこうやってみんなでお食事をしたいかも。
「それじゃあ僕たちは寮に戻る」
「お前らも頑張れよー」
それから後片付けも終わって、エースくんとデュースくんは寮に帰って行った。
テーブルとソファはここで洗うからと出しっぱなしにしてもらった。三人がかりで出したものだから、戻す時はちょっと大変かも。
「えっと、じゃあ、どうしよっか?」
「じゃあ
……
」
午後は談話室のお手入れをすることになった。私が外で家具の修理とお手入れを、ユウくんとグリムくんで談話室の中のお掃除だ。
ほんとは良くないんだけど、ホウキでソファを叩いてホコリを追い出して、テーブルと一緒に雑巾で磨く。
ロウでもあればもっとキレイに仕上げられるけど、ユウくんたちの明かりがなくなっちゃうから拭くだけだ。
ソファの破れたところはヴィルさんから借りたお裁縫道具で縫って、スカートを作った余りのハギレで継ぎを当てた。見た目はちょっと不格好だけど、綿とかがはみ出てるよりはずっとマシだよね。
「ティナー、終わったんならこっちも手伝うんだゾ!」
「はぁい!」
それから談話室や廊下、キッチンにお風呂場
……
そういった、よく使う場所を中心にお掃除を進めた。クモの巣を払って、天井や照明に積もったホコリを落としたり。
できれば床もぴかぴかに拭きたいところだったけど、まずは歩いてもホコリが落ちないようにしないとだもんね。今日のところは軽く掃くだけにしておいた。それでも、前よりはずっとマシのはずだ。
そんなこんなで、ひたすらお掃除しているうちに陽も傾いてきた。
遅くなる前に外に出した家具を談話室に運び込んだ。ほんとは床のお掃除が終わってから入れたかったけど、夜露に晒して傷めるわけにはいかないもんね。
お屋敷のドアと同じくらい、家具もイイ木材を使っているらしく、とっても重かった。けどユーレイさんが魔法でお手伝いをしてくれたのもあって、どうにか運び込むことができた。
そうして、丸一日お掃除したかいもあって、初めて来た時のような淀んだ空気はマシになった気がする。とはいえ、まだまだキレイとはほど遠い感じだ。これは明日も頑張らないとかも。
「ふぃ
……
」
「ありがとう、ティナ」
「どういたしまして! 明日も来るねぇ」
「うん。ありがとう」
「明日も弁当持ってくるんだゾ!」
「グリム!」
「うん、まかせて」
また明日。なんて言い合って、ユウくんのお屋敷を離れた。辺りはすっかり暗くなっていた。
足元に気を付けながら、植物園にお道具箱を返して、それから寮に戻った。
「ただいまです!」
「おか
……
え、どうしたの? そんな汚れて」
「あはは、ちょっとお掃除とかしたので」
「えぇ
……
」
思った以上に汚れてたらしく、会う人会う人に驚かれた。中には誰かにひどいことされたんじゃ、なんて心配してくれる人もいたけど、そんなことはないからきっちり否定しておいた。
汚れた運動着は洗いたかったけど、明日のお掃除のために今日は早く寝たかったから、お風呂場で汚れをはたき落とすだけにしておいた。
お夕飯を食べて、明日のお弁当の下準備をして、お風呂に入って早めに床に就いた。
次の日もお掃除は続いた。
壊れた家具を直して、直せないような家具やゴミは処分。
ゴミは決められたところに捨てに行かなきゃだけど、源素還元しちゃえばその必要もない。だから、お片付けは私が引き受けることにした。
「消えちゃえっ!」
「ふなっ!?」
お片付けするものを部屋の隅に集めて、マジカルペンを振るえばそれで済む。ゴミが片付く上に源素も手に入って一石二鳥だよね。
前のことがあったからか、源素還元する度にグリムくんは怯えたような顔をしてた。でもやってるうちに慣れたらしく「使えるヤツだな!」なんて、軽口を言ってくるようになった。
たしかに、ゴミやおっきいものは捨てるのも大変だもんね。今日は源素を入れる試験管も持ってきてたから、還元した源素はそのままもらっておいた。
木製の家具がほとんどだから、木素の試験管はいっぱいいっぱい。使う機会はないかもだけど、捨てちゃうのはもったいないもんね。
「おやおや、ずい分すっきりしたじゃないか」
「これならホコリも掃きやすいねぇ」
いらない物がなくなってすっきりするとお掃除もしやすい。ユーレイさんたちも手伝ってくれたおかげで、床や壁もキレイになった。
みんなでわいわいお掃除するのは楽しくて、思ったよりも捗った。そんなものだから、日が暮れるころにはずい分とキレイになって、空気も澄んで、住み心地もよくなった。
……
と、思う。
使わないお部屋や細かいところはまだ汚れてるけど、暖炉を使えるようにお手入れしたし、屋根だけじゃなくて壁の穴や隙間も塞いだから、夜も少しは暖かく過ごせるはず。
昨日今日でできなかったところのお掃除は、また別の日にでもすればいいよね。
「ティナ、本当にありがとう」
「えへへー、どういたしまして!」
大げさなくらい頭を下げるユウくんに手を振ってお屋敷をを後にした。
植物園にお道具箱を返して寮に帰ると、今日も汚れて帰ってきた私に寮の人は顔をしかめた。
「キースリンク、お前大丈夫なのか?」
「なにがですか?」
「昨日も汚れて帰って来たろ? 嫌がらせかなんかされてるんじゃ」
「そんなんじゃないですよぅ」
「ならいいんだが
……
」
「心配してくれてありがとうございます。でも、大丈夫なので!」
そう言って笑ってみせると、寮の人は小さくかぶりを振って「何かあったら誰かに相談するんだぞ」と言い残して談話室へ入っていった。
本当になんでもないんだけどな。けど、こんなに心配されちゃうなら、ないことないこと心配させないためにも気をつけた方がいいかも。
反省しつつ寮服に着替えて、昨日今日で汚れた運動着と汚れ物をお洗濯機に放り込んだ。
ユウくんのお屋敷がキレイになってよかったなー、とか。
ハーツラビュルの副寮長さんのお料理はおいしかったなー、とか。
明日からのほしゅーってなにやるんだろうなー、とか。
そんな、とりとめのないことを考えながら、ぐるぐる回るお洗濯物を見ていると、部屋の入口から人の気配がした。
「あぁ、キースリンクさん」
「う?」
呼ばれて振り返ると、昨日私のパンを食べた寮の人だった。
なんでも、昨日のお礼をするために私を探していたらしい。気にしなくていいのに、そうは思いつつも、くれるという果物のジュースはありがたくいただいた。
「えへへー、ありがとうございます!」
「お礼を言うのはこっちだよ。その、あのパン、本当に美味しかったよ」
「そーですか? そう言ってもらえると嬉しいです」
「うん。パン屋のパンみたいだった。異世界ではパン屋だったのかい?」
「いえ。でも、パンも売ってました、人気だったんですよ。えへへ」
こうやって喜ばれて、褒められたら嬉しいかも。ママほどじゃないにせよ、パン作りはちょっと得意だから、こんなふうに認められたらなおいっそう嬉しく感じる。
その人はずい分と私のパンを気に入ってくれたようで、また食べたいとまで言ってくれた。そう言われたらすぐにでも作りたくなっちゃうかも。
またパンを焼くことがあったらお裾分けします。なんてお話をしているうちに、お洗濯は終わった。
「えと、それじゃあ失礼します」
「あ、うん。じゃあ
……
」
キレイになったお洗濯物ともらったジュースを持ってお部屋に戻った。戻る途中、食堂からにぎやかな声が聞こえてきた。いつの間にかお夕飯の時間になっていたらしい。
もらったジュースを飲みながらお夕飯を待とうかな。なんて思ってたけど、待つまでもないかも。なら、ジュースはお風呂あがりにでも飲もうかな?
お夕飯を食べたらどうしようかな。お屋敷のお掃除で疲れたからお風呂に入って早めに休もうかな? それとも、明日からのほしゅーのためにもうちょっとお勉強しようかな?
あぁのこうのと考えながら、まずはキレイになった洗濯物をクローゼットに片付けた。
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