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いまち
2024-02-10 11:44:01
199057文字
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ティナとねじれた魔法の世界・2
おはなし一覧
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ティナとねじれた魔法の世界
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18.ティナの短い一ヶ月
早いもので、ここに来てからひと月が経ってしまった。
相変わらずカボックへの帰り方は見つからないし、預けたラナフレームも、パパの道具も返ってきていない。けども、ここでの生活に慣れてきて、この世界がどういうところなのか分かってきたからか、始めの頃のような不安は感じなくなっていた。
そして、周りも私の存在に慣れてきたのか、よそよそしさも薄らいできた気がする。
毎朝教室の隅で本を読んでるイグニハイドの子に声をかけたり、エースくんとデュースくんとご飯を食べたり、トレイさんやケイトさんからお菓子をもらったり、リドルさんにお勉強を教えてもらったり。
そういうふうに過ごしてきたのもあってか、最近ではハーツラビュル寮の子ともお喋りすることが増えてきて、前よりはずうっと居心地がよくなった。と、思う。
「えへへ」
そんな今日も、リドルさんからお茶葉とケーキを貰ってしまった。
お茶葉はリドルさんの故郷のものでお花の匂いがするらしい。缶詰のような金属の箱にはお花の柄のラベルがついていて、お部屋に飾りたいくらいかわいい。
ケーキはトレイさんのお手製のもので、前に食べさせてもらったクリームたっぷりのものらしい。あの時びっくりして涙が出ちゃったのがリドルさんにもバレていたようで、「泣くほど好きなんだろう」なんてちょっといじわるな顔で言いながら渡された。
バレていたことも含め、さすがにちょっと恥ずかしかったけど、それはそれとしてありがたく頂いた。
どっちも楽しみで早くいただきたいかも。寮に向かう道すがら、ついついそう思って早足になるのを感じる。ついでにと貰ったハートの女王さまの法律の本は重たいけど、落として台無しにしないように気を付けて運んだ。
「ただいまです!」
「おかえり、キースリンク。なんだ、いいことでもあったのか?」
「えへへー、実は、お菓子をもらったんです」
「へぇ、よかったじゃないか」
「はい!」
寮の人になんてことない挨拶をして、美味しい物は美味しいうちにいただこうと自分の部屋に向かった。
まず着替えて、キッチンからお皿とフォークを借りて、もらったお茶を淹れて、おやつの時間だ。一人で、っていうのはちょっと寂しい気もするけど、今日のユウくんたちはお仕事で忙しいのだそうだ。残念だけど、このケーキは一人で食べるしかない。お仕事ならしょうがないもんね。
そんなことをぼんやり考えながら部屋に戻って、丸テーブルに貰ったものを一旦置いておいて、着替えるためにクローゼットを開け
――
ようとして、違和感に気付いた。
「
……
へ?」
あまりにもちょうどいい所にあったものだから自然に置いちゃったけど、この部屋に机以外のテーブルなんてないはずだ。
なら、私はどこに物を置いたのかと思って振り返ると、部屋の真ん中に黒い丸テーブルと、黒い椅子が二脚、向かい合うようにして置かれていた。当然、そのどちらにも見覚えはない。
「うえっ!?」
「なんだ、やっと帰ってきたのか」
「ぴっ!?」
もしかして、誰かの部屋と間違えちゃった!? そう焦る間もなく、ベッドの方から声がした。見ると、マレウスさんが立っていた。手には壁に立てかけていた私の杖が握られている。
あまりに自然な佇まいにちょっとだけ、頭が固まった。
「えっ? えっ? マレウスさん!? あの、えと
……
うえぇ!?」
鍵をかけていた私の部屋にマレウスさんがいる
――
そう理解して、びっくりしたのとわけの分からないのとで頭がごちゃっとなった。
鍵を掛けてたのにどうやって私の部屋に入ったんだろ、とか。なんで私の杖を持ってるんだろとか。このテーブルと椅子もなんなんだろ、とか。そもそもなんで私の部屋にいるんだろう、とか。いろんな疑問が頭の中でぐるぐる巡る
……
鍵はまぁ、マレウスさんは寮長さんだから、どのお部屋に入れてもおかしくないのかも? とは思う。だからって、留守中の女の子の部屋に勝手に上がりこむのはどうかとは思うけど。
でも、なんでここにいるのか、なんでこんなテーブルがあるのかはまるで分からない。
そんな私をマレウスさんはじっと見ているだけだった。キレイな顔でうっすらと笑っているものだから、よけい不気味に思えてしまう。
今がどういう状況なのか分からないし、マレウスさんも何を考えてるのか全然分からない。ならいっそ聞いちゃった方がいいのかも。
わちゃわちゃする疑問を頭の隅に追いやって、そっと一呼吸して、マレウスさんに向き合った。
「えと、マレウスさん? なにしてるんですか?」
「お前の杖を見ていた。異世界の物となれば興味を惹かれるだろう?」
「そうかもですけど
……
じゃなくて! なんで勝手に部屋に入ってるんですか!?」
「お前と話をしてみたかったんだ。ふむ、ちょうど茶菓子もあるようだな」
そう言って、マレウスさんはテーブルに置いたケーキの箱に目を向けた。どうしよう、微妙に答えになってない。その上私のケーキも狙われているらしくて背中がすぅっと冷えた気がした。
せっかく貰ったのに、とられちゃうのはちょっとイヤかも。なんて、うっかり思っちゃったけど、そう思うのはよくないかもと思い直す。
元々はユウくんたちと分けっこするつもりだったんだから、マレウスさんと分けても変わらないはずだもん。
トレイさんのケーキはとっても美味しいもんね。マレウスさんが食べたがってもおかしくない。食べたがってるのなら、いじわるしちゃダメだよね。ちょっぴり惜しいとは思うけども、どうにか気持ちを切り替えた。
「わかりました。
……
というか、このテーブルはなんなんですか?」
「立ち話ではお前も疲れるだろう?」
マレウスさんはそう言ってにっこり笑った。つまり、それくらい長話をしようってこと? おしゃべりするのはともかく、それなら談話室でいいんじゃないかなぁって思った。
なんとなく納得できないで、けども、口を出していいのか悩んでいると、マレウスさんは私に手のひらを向けてきた。途端に眩しい光が目の前に広がる。
「ぴっ!?」
そしてあっという間に寮服を着せられてしまった。ここに来てから何度もかかったお着替えの魔法だ。
「えと、ありがとう、ございます?」
「後は茶だな」
「
……
えぅ、わかりました。オマチクダサイ」
淹れてきなさいってことらしい。リドルさんからもらったお茶葉とケーキの箱を持って部屋を出る私に、マレウスさんはお砂糖もミルクもいらないと言ってにっこり笑った。
にこにこしてるはずなのに、王子様だからか、それとも強い妖精さんだからか、有無を言わせないような圧を感じる。そんなものだからつい頷いてしまった。
たぶんだけど、 マレウスさんは私の言うことを聞く気がないんだろうなって思った。けども、不思議と悪意は感じない。なんだかなぁって変な感じがするものの、早く用意しちゃおうとキッチンへ向かった。
いかにも良さそうなお茶葉だから、ヘンな味にならないようにユーレイさんから教わりながらお茶を淹れて、もらったケーキを半分こにしてお皿に盛りつけた。
用意したそれらをトレイに乗せてキッチンを出ると、廊下がいやに騒がしい。
何人かの走り回るような音があちこちから聞こえてくる。廊下って走っちゃダメなんじゃなかったっけ? なにかあったのかと不思議に思っていると、どこからともなく大きな声が聞こえてきた。
「マレウス様ー! どちらにおられますか!!」
どこから聞こえてくるのか分からない。それでも、はっきりセベクくんのものと分かる声だ。あまりにも大きな声なものだから、壁が震えてる気さえする。けど、そんな声よりも、その言葉が引っ掛かった。
もしかしてマレウスさんはセベクくんたちに何も言わないで私の部屋にきたのかも?
セベクくんが探し回ってるのならきっとそう。セベクくんはマレウスさんの護衛だそうだから、マレウスさんの側にいなきゃいけないはずだもん。
それなら、私の部屋にいるって教えた方がいいのかな? でも、そんなこと言ったらセベクくんまで私の部屋に居座るんじゃないかって気がする。なんなら、私がマレウスさんを誘拐したとか、あらぬ疑いをかけられるかもしれない。
「むー
……
」
それなら、マレウスさんにセベクくんが探してたって伝えておけばいいかも。ちょっとだけ考えて、そうすることにした。セベクくんには悪いけど、ここは本人に任せておこう。
そう決めて、セベクくんたちに見つからないよう、そうっと部屋に戻った。もしマレウスさんがどこにいるか知らないか? とか、聞かれてもうまく答えられる気がしないもん。
なにも悪い事はしてないのにコソコソしたせいか、なんだか神経がすり減った気分だった。でも、探してるのを分かってて知らんぷりしてたから、悪い事にはなるのかも?
「ふぃ、お待たせしましたぁ」
そんなことを考えて、もやもやしながらお部屋に戻る。そこにはもやもやの原因ことマレウスさんが椅子に座りながら、いつかの拗ねたような顔をしていた。
(えぇ
……
)
私が部屋を出る前まではニコニコしてたのに、今のさっきでどうしたんだろ。マレウスさんは私には見向きもしないで、じぃっとテーブルを睨んでいる。
もしかして待たせすぎちゃったのかな? けど、戻ってくるまで10分くらいしか経ってない。のんびりしてるようだけど、意外と気が短かったりするのかな?
何がどうしてこうなっちゃったのか、どう声をかけていいものか困っていると、マレウスさんはぽつり、と呟いた。
「お前はハーツラビュルに転寮するつもりなのか?」
「へ?」
じとーっとした目で、テーブルを見つめながらマレウスさんは口を閉じた。あまりにも不機嫌そうな様子にひやひやするも、なんでって気持ちが少しだけ勝った。
私がハーツラビュルに? なんでそんな話になるんだろ。マレウスさんの態度からすると、まるで決まったことのようだ。けど、もちろん、そんな話は出ていなければ、考えたこともない。
「あっ」
どうしてそんな話になったのか分からない。けど、マレウスさんが見ている物に気付いてはっとした。
マレウスさんの目線の先には、リドルさんからもらったハートの女王さまの法律の本が置きっぱなしになっている。
なるほど、マレウスさんはこれを見て、私がハーツラビュルに行くのどうのって勘違いしたんだ。納得して、マレウスさんにかぶりを振った。
「それはリドルさんからいただいたんです。ハーツラビュルに遊びにくるならお勉強するといいよー、って」
「ローズハートが?」
「はい。そのぅ、ハーツラビュルにお友達がいるので。だからその、寮を変わりたいとかじゃないんです」
説明すると、マレウスさんは納得してくれたようで、厳しそうにしていた表情が和らいだ。心なしかお部屋の空気も暖かくなった気がする。
「そういうことか」
「そういうことです」
マレウスさんの和らいだ表情を見て安心した。ただでさえちょっと困ったことになってるのに、さらにヘソを曲げられたらたまったものじゃないもん。
とはいえ、私一人が安心してる場合じゃないよね。マレウスさんも落ち着いたところで、廊下でのことを話そうと思った。
「あのぅ、マレウスさん
……
」
セベクくんがマレウスさんを探していたことを伝えた。ついでにセベクくんたちに何も言わないでここに来たのかとも聞いてみた。
けど、マレウスさんは分かっていないような、きょとんとした顔をした。否定しないあたり、黙ってここに来たのは合ってるのかも。
「そんなことが」
「えと、セベクくん、一生懸命探してたみたいなんです。だからそのぅ、声とか、かけといた方がいいかもです」
それでセベクくんまでここに来てしまおうものなら、狭いし、落ち着かないしで困るかもではある。けど、必死になってマレウスさんを探してるだろうセベクくんをほっとくのも気が引けた。
言ってみたものの、マレウスさんはどうするんだろ? 返事を待っていると、マレウスさんは小さく頷いた。
「少し席を立つ」
「あ、はい」
そう言って、マレウスさんは姿を消した。
ここにいるって言いに行くのかな。だとしたら、セベクくんたちの分のお茶やケーキも用意した方がいいのかも。だとすると、またケーキが減っちゃうんだなって思って、ちょっとだけしょんぼりした気持ちになってしまった。
とりあえず、戻ってくるのを待とうとぼーっと座っていると、ほどなくしてマレウスさんが戻ってきた。
出て行った時と同じように、ドアを開けずに、ぱっと目の前に現れた。
……
こうやって入って来られるんなら、鍵の意味ってあるのかな? ないとは思うけど、ドロボウ対策ってどうなってるんだろ。疑問に思いつつ、マレウスさんにお帰りを言った。
「あの、セベクくんはどうしたんですか?」
「夕食時まで部屋で過ごすと伝えて暇をやった」
「えーっと
……
」
まずはケーキの無事を確認できてほっとした。
けど、お夕飯時って、まさかとは思うけど、そんな時間まで私の部屋にいる気じゃないよね? というか、そんなウソついていいのかなぁ? あ、でも「誰の部屋で」っていうのは言ってないならウソにはならないのかも?
……
色々とつっこみたい気持ちになったものの、「これでいいだろう」と言って、楽しそうな顔をしているマレウスさんを見ると、どうこう言う気にはなれなかった。
それから、なんとなく流されるまま、ケーキとお茶を味わいながら、マレウスさんとお話をすることになった。
「その、お話ってなんですか?」
「ふむ、そうだな
――
」
お話というよりは、マレウスさんの質問に答えるのがほとんどだった。
ここでの生活は慣れたか、ってお話から始まって。
「慣れてきましたねぇ。みなさんのおかげで快適に過ごせてます」
「それは結構なことだ」
私がいた街はどんなところだったのかとか。
「えぇと、カボックっていって、一応、エスビオールでは一番おっきな街なんです」
「なら、さぞかし栄えているんだろうな」
「そのはずなんですけど
……
えと、でも、学園の麓にある町よりはちっちゃいかも、です」
「おやおや」
どういう生活を送っていたのかとか。
「ここみたいに便利なものはないですねぇ。電気とか、水道とかないですもん」
「ほう? なら、どう生活していたんだ?」
「え? えと、明かりはランプを使って、お水は井戸から汲んでました」
「なるほどな」
そんな、わざわざ話すまでもないような、なんてことないことばかり聞かれた。
「
……
えぇと、こんな話でいいんですか?」
「あぁ」
こんな話ばっかりでつまらなくないのかな。不思議に思って聞いてみると、そんなことはないとマレウスさんはにっこり笑った。
なんでも、マレウスさんは王子様なだけあって、お城の外に出ることはほとんどないのだそう。だから、街に住む人々がどういう生活をしているのか、なんてお話に興味があるのだそうだ。
そういうものなのかな。家どころかしょっちゅう街の外を出歩いていた身としては、外に出ることがない生活なんて想像もつかないかも。
「それで、お前の住む街はどれほどの規模なんだ?」
「んと、広さはこの学園の敷地くらいです。3400人くらいの人が住んでるって、おじいちゃんが言ってました」
お話しながら、異世界の街のお話をしても違いとか分かるのかな。ってちょっと気になった。
けど、大好きな街の話を楽しそうに聞いてもらえるのは嬉しいかも。楽しそうに聞いてくれるマレウスさんの顔を見れば、ついつい色んなこともお話したくなっちゃう。
「案外小ぢんまりした街なんだな」
「でもでも、おっきい街なのはほんとですよ! 今でもよそからアバンベリー目当ての人が来ますので!」
「アバンベリー?」
「街の近くにある遺跡です。えと、大昔の錬金術士が
――
」
「詳しく聞かせてもらおうか」
「へ!?」
それまで普通にお喋りしていたのに、アバンベリーの話をした途端、マレウスさんはいやに目を輝かせた。いつかのような、好奇心たっぷりの子供のような目だ。
どうやらマレウスさんは街のことよりも、遺跡の方に興味があるらしい。街に興味を持ってもらえて嬉しいなぁ、なんて思っていたものだから、負けたような気がしてちょっと悔しいかも。
それでもやっぱり、興味を持ってもらうのは嬉しいから、行ったことのある遺跡のお話をした。
大昔の錬金術士がお空に作ったというアバンベリー、遺跡そのものが大理石でできたフローレスマーブル、そして、ここにくる直前までいたイリスの寝所。
どこも不思議で、面白くて、危険な場所だ。マレウスさんはよっぽど気に入ってくれたのか、本当に楽しそうな顔で聞いてくれた。
そんなマレウスさんを見て、私もちっちゃい頃にパパに旅の話をせがんでは聞かせてもらったことを思い出した。きっとその時の私も同じような顔をしてたんだろうなって、なんとなく思った。
そうしてせがまれるまま、私の世界のお話をしているうちにお夕飯の時間になってしまった。
「あぁ、もうこんな時間か」
「そー、ですね」
「惜しいが、暇するとしよう」
マレウスさんも気付いたのか、ちょっとだけ残念そうな顔をすると、ようやく席を立った。
あぁは言ったけど、ほんとにこんな時間までお話するとは思わなくて、ちょっとびっくりかも。
「興味深い話を聞かせてくれて感謝する」
「えぇと、どういたしまして、です」
「また機会があれば聞かせてもらおう。ではな」
「えっ」
満足そうな顔で、とんでもないことを言い残してマレウスさんは私の部屋から消えてしまった。まさか、まだお話し足りないなんて言ってるんじゃないよね?
聞こうにもマレウスさんはもう部屋を出た後だ。空になった食器を見て思わずため息が出てしまった。
「えぅ
……
」
これからもマレウスさんがお部屋に来るなんて、って考えるとちょっとだけ気が重い。お話するのは楽しいけど、王子様の相手なんてどうすればいいのか分からないもん。
どうしたものかと思いつつ、けども、ひとまずはご飯を食べようと、使った食器をまとめてキッチンへ向かった。
出る間際、少しだけ物が増えたお部屋を見て、ここに来てからあっと言う間だったなぁって、なんとなく思った。
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