外伝 硝子の窓辺に佇む【後編】

あらすじ
かつてこの国には名探偵がいた。あらゆる謎を解き明かしたその探偵は、悪の教典と共に暗い滝壺で眠っている。
舞台は英国。不可思議な事件を巡る、残された者の物語__。
エマ=ジェームズ・ワトソンの元に奇妙な殺人事件の解決依頼が持ち込まれる。貴族家の女性が窓辺に佇むようにして死んでいたという奇妙な状況。さらにその事件には『魔女の絵画』という神秘の遺物が関わっている__。依頼の手紙にはそのような文面があった。依頼を受けたワトソンはシャルルマーニュと共に事件の捜査へ向かうが……?

スペシャルサンクス
Littorio様: エストレア・アマネセール様、トゥリウンファル・アル・アマネセール様、アドレナリーナ・アマネセール様をお貸しいただきました。
快くお貸しくださり、物語をだいぶ好き勝手に書かせて頂き本当にありがとうございました。
笋様: 『鳥の一族』の一族名をお借り致しました。事後報告となってしまい申し訳ありません。
読者の皆様: いつも感想をありがとうございます。本当に励みになっています。

中編➤ https://privatter.me/page/65b902c57d32f
前編➤ https://privatter.me/page/65afd8e7e75d5

ついに【後編】です。ここまでお付き合いいただきありがとうございました!!!! もうしばらくミステリーはいい!!!! 禿げる!!!!!!


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__The end of case; Standing by a glass window





「だって、禁忌魔術に全てをかけるんだもの。
嘘でも紛い物でも構わないから、その人に側にいて欲しかったんだわ」

メアリーの言葉に私の胸がずきりと痛む。
私も、この事件も同じだったのだと__唐突に理解した。この事件に関わった全ての人間はこの白い絵画の中にいた者を蘇らせるという、共通の目的のために動いていたのだろう。絵画に取り込まれた人物を取り返したいという一心で。

……私だって、道を誤れば幻想を現実にする力を行使していたかもしれない」メアリーとホームズに私は言う。「でもその度、二人が教えてくれたんだ」
「ワトソン」
「ありがとう」

私は呟く。姿は完全に普段の、悪態ばかりの作家__エマ=ジェームズ・ワトソンの姿に、小柄で長髪の女性の姿に戻っている。

……私は過去を抱えて生きていく。これからも、お前たちをこの身に宿して世界を泳ぐ泡沫であり続ける」
「ああ。……僕も礼を言うよ、マイ・ディア」ホームズは私の肩に手を置いた。メアリーも私の左手を両手で包み込み、「私も貴方に言わなくちゃ」と微笑んだ。
「マイ・ディア、ワトソン。君はこれからもずっと僕のボズウェルで、無二の親友だ。君という永遠が終わるとき、僕は必ず君と共に行こう」
「ジョン。愛してるわ。……私たちを未来へ連れて行ってくれてありがとう。たとえ姿は見えなくても、私たちは貴方といつでも共にある。どうか忘れないでね」

「最高の『空き家の冒険』だった」

二人の声が重なり、周囲の背景が混ざり合うように泡となって徐々に消えていく。私は二人を抱きしめた。

……書き続けるよ」
「そうしてくれ。それにそうしないと君、食っていけないだろ」
……うるさい」
「ふふふ。ねえジョン、次は一発当てないと大変よ?」
……わかってる!」私は二人に抱き着いたまま叫んだ。なんとも気恥ずかしくて、「なんとか、する……」と小声で呟くことしかできない。
「どうやら僕らもそろそろ行かねばならないようだね」ホームズは透き通り始めた自分の体を見て、そんな風に言った。「君もさっさと戻れよ。あまり友人たちに心配をかけるもんじゃないぜ」
……お前が! 言うな!!」

私はしっし、と手を振っているホームズを指さして叫ぶ。
だが不思議と後ろ向きな気持ちは無かった。寧ろ晴れやかな心持ちで前へと進んで行ける気がした。黒に近い紺色の扉を開く。__その先は滝壺である。轟音を立てて水が落ち、失落の瀑布は私の心をここへ留まらせようとしているのだろう。

一歩、踏み出す。その先は虚空だ。私の身体は滝壺へ一直線に落ち始める。

光に目が眩む。
私は自分が落下しているのか、それとも浮上しているのかも分からないまま身を委ねた。