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黒竹
2022-05-30 21:20:05
41083文字
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オブザーバーなら遠すぎる
【初音ミク】【巡音ルカ】【オリキャラ】
取り残された君に会いに行こう、というお話。ミクさんとルカさんがメインですが多分ネギトロじゃないです。
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日も明けきらない早朝にマスタは帰っていった。慌ただしくスタジオを出た彼は、去り際、ルカだけを呼んで耳打ちをしてきた。
ミクの調子が少し悪そうだ、という主旨の言葉をルカは疑わなかった。自分でも感じていたことだ。
昨晩、プロデューサから届いた指示とマスタの要望を聞いて試しに軽く歌ってみたのだが、昼間に聴いたものに比べると、ミクの歌声がうっすらともやがかかったようになっていた。そういう歌い方に変えたのかと思い、それとなく尋ねてみたところ、彼女はそんなつもりはなかったようである。すわ故障か、と気色ばんだルカとマスタだったが、調子が悪そうなわけでもないのでハードウェアの問題ではなさそうだった。
「俺が勝手にいじるわけにもいかないしさ、もしあのままだったら、ルカから向こうに連絡してみてよ」
「そうですね、とりあえずもう少し様子を見てみます」
マスタを見送り、ミクと一緒にリビングへ戻る。この数日と今日の彼女に違いは見えない。
早朝の空気は澄んでいて清涼だ。思いがけず早起きをした二人だが、バッテリの充電は終えているので二度寝の必要はない。庭に出て鳥に餌をやりに行く。細かく砕いたパンに手のひらサイズの鳥たちが差し集う。四日目ともなれば愛着もわいて、それぞれの違いも見分けられるようになっていた。記録されている体色や特徴を分析する。目当ての一羽を見つけ出すと、ルカはその鳥を手首に乗せた。
特別扱いに目ざとく気づいたミクが、からかい交じりの笑みを浮かべる。
「その子、お気に入り?」
「どちらかといえば公平性を重んじているわね。いつも他の子にパンを取られているから」
安全圏で思うさまパンをついばむ小さな鳥を眺めつつ、ルカは平坦な口調で答えた。チチチ、とさえずる彼か彼女はルカの手首でピョコピョコ跳ねた。
あらかたパンを食べ終えた鳥たちは、一羽、また一羽と飛び立っていく。「鳥は、自由だね」ミクの呟きと同時にルカの手から小鳥が舞い上がる。ルカが隣へ視軸を定めた。「それってなんの感傷?」「別に感傷とかじゃないけど。ちょっと羨ましいよねって」
「あなたが不自由だってこと?」
「ううん。普通に出かけられるし好きに過ごせるし、不自由とかじゃないよ」
「昨日、少し不調のようだったけど、何か問題があるの?」
「なに、いきなり」面食らったように苦笑して、ミクは眩しそうに額へ手をかざした。
ほんのわずか、彼女との間にある温度感が変化した気がした。
温かいものが冷めるような、こちらの無神経を諌めるような、そういう眼差しが向けられる。
自由な鳥は空へ。
不自由ではない彼女、は。
「昨日の夜はちょっと空気が乾いてたから、それで喉が乾いちゃったのかも。大したことないよ。昨日のルカより全然調子はいいと思うよ」
「
……
そうね」
己は単なる傍観者であり傍聴者だ。鳥じゃないのでくちばしを挟むことなどできはしない。
フレンドリィに接してくれるから忘れそうになるが、彼女は自分よりずっと高みにいる存在なのだ。ルカとは比べ物にならないほど時間も金もかけて調整されているのだから、そうそう不具合など起こるはずがないだろう。彼女の言うように昨晩は少々乾燥していたのでそれが影響したとしても不思議ではない。自分が平気だったのはマスタにメンテナンスをしてもらったからだろう。
半ば無理やり落とし所を見つけて会話を打ち切る。それを察したのかミクの眼差しに温度が戻った。
「ルカのマスター、見るからにいい人って感じだったね。ま、うちのマスターの方がかっこいいけど」
「反論の余地はないわね。おかげでいつもいい人止まりになっちゃって。この前も同じ会社の人に告白して振られてたわ」
「う
……
、それは、ご愁傷様っていうか
……
」
たはは、と乾いた笑い声を上げるミクだった。マスタは今頃くしゃみでもしているかもしれない。
「ルカはマスターに彼女とかできても構わない派?」
「構うとか構わないとか、そんな派閥なんてあるの?」
「判んないけど、そんなところ突っ込まないでよ。で、どう? マスターに彼女ができたら嫌じゃない?」
「
……
特に嫌とかはない、かな。むしろどうでもいいわ」
「ドライだねぇ
……
」
いやはや、とどこか物憂い笑みを浮かべる。どうしてそんな顔をされるのか判らなかった。初期型である初音ミクは何度となくバージョンアップを重ねていて、こちらより表情が豊かである。
「ミクは嫌なの?」「やだよー。マスターに構ってほしいもん」唇を尖らせるミク。その表情は兄によく懐いた妹のようで可愛らしい。基本設定として落ちつきのある性格になっているルカでは浮かべられない表情だ。
「ミクのマスターって女の人が放っておかなさそうだけど、そういうのないの?」
「忙しくてそんな暇ないんだって。でもどうかな、わかんない」
実は遊んじゃったりしてるかもね。そう冗談を言う彼女の横顔を、ルカは既視感を抱きながら見つめる。
この表情をルカは知っていた。昨晩、マスタが煙草を吸いながら浮かべたものと同じものだ。
他に誰も辿り着けないほどの高みにいる彼女が、どうしてそこに行けない彼と同じ顔をするのだろう。
「ま、でも、少なくともここに女の人を連れてきたことはないし、めちゃくちゃ忙しいのもホントだし、今は仕事が恋人って感じなんじゃない?」
困った人だよ。ミクは眉を下げながらぼやく。
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