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黒竹
2022-05-30 21:20:05
41083文字
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オブザーバーなら遠すぎる
【初音ミク】【巡音ルカ】【オリキャラ】
取り残された君に会いに行こう、というお話。ミクさんとルカさんがメインですが多分ネギトロじゃないです。
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「あ、おかえり。ずいぶん練習してたんだね。もうとっくに歌送っちゃうにゅああぁぁ!?」
出迎えの声に答えもせず、待ちくたびれた顔を両手で掴んで無理やり口を開けさせた。目を白黒させるミクに構わず、内部の声帯部品を覗きこむ。「
……
標準搭載のパーツよねえ」「んぁぁうあっ」聞き取れない抗議にも構わず今度はシャツの裾から手を潜り込ませて撫でまわす。ひああぁぁ、とミクが情けなく悲鳴を上げた。
「なに!? いきなりなんなの!? わたし今ものすごいセクハラされてるよ!?」
「やっぱり外からじゃよく判らないわね。でも、ハードの問題じゃないのかしら」
「ルカが男性型だったら本気で殴ってるからね!?」
激しい抵抗に遭って手のひらから感触が失われた。ミクが自身を抱くように腕をまわして防御しているが、ルカは気づかないまま思索にふける。
何度歌ってみても、ミクが持つあの歌声は再現できなかった。どこかに違いがあって、そのせいだと思うのだけれど、どこにあるのかが判らない。
ボディは高級品に全換装されていたが、内部のコアパーツについてはカスタマイズされていないようだ。だとすると、やはりプログラミングの方だろうか。プロデューサはその方面に明るくない人だと思うが、誰か技術者が協力しているのかもしれない。そんな話は聞いたことがないけれど。今の状況ならともかく、ミクを使い始めた当初からならそういった存在を公表していてもおかしくない、というか複数人で楽曲を制作した場合、携わった全員を公表するのが最低限のマナーだ。それをしていないなら、今頃批判されていても不思議ではない。ミクからそういった人物の話も出ていないから、やはりそんな人はいないのか。
あとはなんだろう。自分と彼女の違い。機種もパラメタ値も違うけれど、そういった部分では説明のできない違いなのである。
「どうやったらミクと一緒になれるのかしら
……
」
「なんか今すごいこと言ったよ? あのねルカ、ボーカロイドって結婚できないからね? てゆーかわたしもルカも女性型だからね?」
「え? なにを言ってるの?」
「それはこっちの台詞だよ
……
」
いつの間にかミクがぐったり疲れていた。どうしたのだろう。
「ま、いいや
……
」諦めて泣き寝入りすることにしたらしく、乱れたシャツの裾を直してソファに落ち着く。
ルカへ首を向けて、自分の喉のあたりを指さしながら、
「ちょっと声かすれてるよ。無理しちゃダメって言ったのに」
「ん、高音のところ歌ってたから。でもこれくらいなら大丈夫よ。明日には自己修復機能で回復できるわ」
「一応、ルカのマスターにメールしておくね。こっちには来られないかもしれないけど、とりあえず調子見てもらお」
そんなに心配するほどのことでもないんだけどな、と思ったけれど、ミクがこちらを慮ってくれていることは判ったので、ええと小さく頷いた。マスタは連日、接待や営業報告書の作成などで夜遅くまで帰らないので、メールを見るのは今夜遅くか明日になるだろう。ミクが書いたメールに横から「大したことはありません」と書き添えて送信ボタンを押す。「あー」ミクがちょっと不満そうな声を上げた。
非難するような眼差しに片眉を上げ、ぽんぽんとミクの頭を叩く。
「余計な心配かけたくないのよ。ミクだって、マスターには自分のことで迷惑をかけたくないでしょう?」
「
……
そうだけど」
思い当たる節でもあるようで、唇を尖らせながら渋々うなずくミク。
ボーカロイドは基本的にマスタに従順だ。カスタマイズでじゃじゃ馬にしてしまう使用者もいるけれど、大抵の場合、素直に言うことを聞くよう調整されている。チューニングできない楽器を好んで使うアーティストがいないのと同じ理由だ。
ミクが指先で喉を撫でてくる。
「でも、ほんとに無理しないでね。あと五日しかないんだし、ルカになにかあったら大変だよ」
「
……
あぁ、そうね。来月にはCDが出るんだったわね」
忘れていた。いつもはマスタの時間がある時だけの、のんびりとした歌入れしかしていないから、スケジュールを誰かに決められるなんてことは経験がなかった。自分の行動が大勢の人に影響するのだ。今さらながら、それを実感する。
「ミクはいつもこんな感じでやってるの?」
「うん。今回はルカがいるからゆっくりしてる方だよ。一日とかで録り終わることの方が多いかも」
そんな状況、想像するだけでうんざりする。
それは確かに、ちょっとした不調でもメンテナンスを必要とするだろう。ミクと己の価値観に大きな隔たりがあることを強く感じた。一度歌って、じゃあ次は二週間後、なんて事態は彼女の考えにないのだ。
マスタからの返事は予想通り深夜になってからだった。たまたまルカもミクも起きていたのですぐに確認する。大丈夫だと思うが一度そちらに行く、と簡素な文面で書かれていて、ミクが「やっぱり優しいね」とからかいじみた口調で言ってきたのに、ルカは「ただの心配性よ」と答えた。
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