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黒竹
2022-05-30 21:20:05
41083文字
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オブザーバーなら遠すぎる
【初音ミク】【巡音ルカ】【オリキャラ】
取り残された君に会いに行こう、というお話。ミクさんとルカさんがメインですが多分ネギトロじゃないです。
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庭の下生えが短くなっていた。手入れをされたのだろう。記憶よりわずかに固い歩き心地に、ルカは彼女の心理を連想する。
餌をもらうのが下手な小鳥を思い出していた。手首に乗せて、他の鳥と離してやらなければパンをついばめなかった一回り小さな鳥は、自然の摂理から考えれば生き残ってはいけない個体なのだろう。弱肉強食は絶対の掟だ。人間だけがそれに反抗する。人間と、人間に作られたものだけが。強くて優れた個体だけを選別する自然から、そうではないものを保護しようとする。
人間と、人間に作られたものだけが、黙って見ている強さを持たない。
スタジオの庭で、彼女は一人きりだった。時には十人規模が集合するそこに一人、主然とした風情で佇んでいる。
庭の入口で立ち止まり、同型機へ発する信号を切って、彼女のセンサに引っかからない状態でじっと彼女の姿を見つめる。
気づかなければ帰るつもりだった。
それなのに彼女はさしたる時間をかけずにこちらへ首を回してきた。少し驚いたような表情。怯えにも似た眼差しを真正面から受けたルカは笑わない。
一歩、踏み出す。応じるようにミクが二歩進んだ。
忍び足に近い速度だったミクの足がだんだん速まって、しまいには駆けだす直前の速さになった。感極まった視線がすぐそばから届けられる。ルカは、まだ笑わない。
「あんなことするものじゃないわ」
「
……
ご、ごめ、でも、あの、どうしても
……
」
泣き出しそうな蒼い瞳が伏せられる。
塔の姫君が、閉じ込められた部屋の窓から垂らした髪の毛を、登るも切るもルカの選択ひとつだった。王子となるか魔女となるか、ルカはどちらも選ぶことができた。
ルカは──。
「わたし、あんなに長い時間、他の子と過ごしたことがなくて、あの、マスターも忙しくてあんまり会えなくて、でもそういうの当り前だって思ってたからなんともなくて、時々レコーディングで色んな人とお話したりすることはあったんだけど、あの、ルカは、そういうのじゃなかったから、えと、だからね
……
」
会いたかった、という一言を、彼女はどうしても口にできなかった。
それを言ってしまえば世界が崩れてしまうことを彼女は知っていたから。
髪を伝って忍びこめば塔は崩壊する。髪を切って二度と近寄らなければ姫君は寂しいままだ。
コツリと、額を彼女のそれに押し付けた。うにゃ、とミクが反射的に目を閉じた。抱擁は無意味だった。それは彼女を救わなかった。引き寄せたのは、言葉を伝えるための手段のひとつでしかなかった。
「鳥」
「え?」
「また鳥に、パンをあげに来てもいい?」
離れると彼女の相貌がほころんでいるのが見えた。
ルカも、笑った。
「うん
……
うん! いつでも来て。あの、あのちっちゃい子もね、ルカと遊びたいと思う」
言葉の裏に隠れた意味をルカは正確に理解していたし、ミクもルカが理解してくれたことを判っていた。
鳥の子を取り残さないでほしいと、彼女は切に願っていた。
「ええ。私もあの子に会いたいわ」
遠くから見ているだけならそれは一人と変わらない。
ルカは彼女に何かを与えるつもりもなければ何を奪うつもりもなかった。
塔には登らず、髪を切りもしない。
けれど、何をするでもないが見ているだけでもない。
ただ、地面に足をつけたまま、垂らされた髪を掴んで揺すって、「ここにいるよ」と知らせるだけだ。
そしてたまに、塔の上と下で一緒に歌えたらいい。
手が届かなくても声は届く。
ボーカロイドとして、一番大事なものが。
ルカの手のひらがミクの頬に添えられて、そこから温もりと声にならない言葉が伝わる。
会いに行くから待っていて。
鳥が空を飛んでいた。
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