森野 霞
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変わらない8月と君がいる9月_メインストーリー_9月

公式Twitterアカウントで画像で投稿しているメインストーリーを文章の形でまとめ直しております(複数画像やツイートに分かれていて見返しにくい部分もあるため)。
日付でページを分けています。こちらは9月更新分です。ストーリーをまとめて見返したい際などにどうぞ。
※多少修正や変更、増減している部分もあります。内容に大きな違いはありません。


■8月26日(金) 曇りのち雨


あの日、どうやって家に帰ったのか、覚えていない。
アオバくんの言葉もぼんやりとしていて、よく思い出せない。私はいつの間にか自宅に戻っていたし、24日も、そして今日も、いつもと変わらず目が覚めた。
――ぼんやりしている暇は無いのに、今日まで何をしていたのか思い出せないくらい記憶が曖昧だった。

ピピピ

いつもと変わらない目覚まし時計の音が鳴り響く。私は布団から起き上がると、ぼんやり3日前のことを考えていた。

「(――あぁ、でも今日の配信……、準備しないと……)」

そんな風に頭を無理やり回転させるとベッドから降り、顔を洗ったり着替えをしたり朝の支度を整えていく。いつもと変わらない朝なのに、頭の片隅ではずっと、アオバくんの言葉が反響していた。

『お前の望みは何なんだ?』

――そんなの、分かるはずないよ
――自分が死ぬだなんて、そんなこと考えたこともなかったのに

ずっとそんな問答を繰り返して、やがて何も考えられないまま眠りにつく。配信中もほとんどぼんやりしていて、途中で切り上げてしまうほどだった。
でもこのままではいけない。配信だってもっと楽しくしないと。そう思う度に、この問題について考えてしまう。堂々巡りのまま何も解決はしなかった。

そんな取り留めのないことを考えていると、不意にスマホの着信音が鳴り響いた。着信相手は、トアくんだった。
そこでハッと目が覚めた感覚になり、急いで応答ボタンを押す。

「もしもし……っ!」
『あ、心晴ちゃん?良かった、寝てたらどうしようかと思った』

電話口からは相変わらず優しい声が聞こえた。

「そんなに寝坊助じゃないよ〜!……えっと、どうかした?」
『うん、特に大した用事は無いんだけど。ちょっと会いたいなと思って。今日大丈夫?』
「特に用事はないけど。あ、アオバくんのこと?」
………ううん、今日は心晴ちゃんのこと』

少し間があって、トアくんの優しくて安心する声がそう言うのを聞いた。会う時間を決めて、通話を閉じる。3日前のことがあってからの、今日トアくんからの呼びかけ。何だかタイミングが良すぎるような気がした。
トアくんは一体何を知っているのだろうか――

*

その後、配信準備を整えてからトアくんとの待ち合わせに向かった。事務所に着くと先にトアくんが待っていて、「おはよう」と相変わらず優しい笑顔が迎えてくれた。

「ごめんね、待たせちゃったかな!?」
「ううん、全然大丈夫だよ」
「そ、そっか?ごめんね……あの、」
………うん、用件だよね。………言おうかどうか、迷ったんだけど……。でも心晴ちゃん、蒼葉くんに会いに行ったんだよね?」
……!そ、それは……。うん、会った、よ」

――アオバくんは、24日、宣言通りに引退配信を行い、そこで初めて引退を公表した。その日はもちろん、ちょっとした騒ぎになっていたし、ネットニュースなどにもなったが、今は少し収まっていた。そして、蒼葉くんはまた音信不通になっていた。
前回とは少し状況は違ったけど、それでも結果は変わっていないように思えた。

「うん、そうだよね。あの日、蒼葉くんから教えてもらったんだ、『心晴ちゃんと会った』って。……俺から話すのも聞くのも、そんな簡単にできることじゃないから、話さないし聞かないけど。蒼葉くんは『心晴ちゃんに必要なことだけ』言ったんだよね」

そこで言葉を区切ると、スッと息を吸う。

「だから……俺も、心晴ちゃんに、伝えたいことがあるんだ」

「ねぇコハレちゃんは覚えてる?」

………あぁまぁ、良いんだ。
……心晴ちゃんがね、相談してくれたことがあるんだ。蒼葉くんが引退したいって言った日から1週間くらい経った日だったかなぁ。
『私たちの関係が変わっちゃうのが怖い』って、心晴ちゃんが泣きそうな顔しててさ?俺はそれが心晴ちゃんの本心なのかなと思ってたんだけど……。」

――そんな記憶はなかった。このタイムリープが始まる前でも、始まった後でも、トアくんにそんな相談をしたことなんてなかった、気がする。

………うん、そう、だね……

それでも、曖昧に私は頷いた。

……うん、それでね、その時は俺、何も言えなかったんだけど。俺たちの関係は変わりはしないって、何の確信もない曖昧な言葉で誤魔化してさ。
だから今、心晴ちゃんに伝えたいんだ」

「変わったって、良いんだって。
変わることは悪いことじゃないとは言えないけど。でも怖がることじゃないよ」

「もしかしたら、俺たちの関係も、配信活動も、変わってしまうかもしれないけど」

……でもそれで、良いんじゃないかな」

「変わらない人なんて、関係性なんて、無いんだよ。いつまでも同じままなんてつまんないよ」

「変わることが避けられないなら後はどう変わるか、どう受け入れるかだよ。……随分、時間は掛かったけど、それが俺の出した答えだよ」

「それを伝えたかったんだ、心晴ちゃんに。……はは、何てカッコつけたけど、当たり前のこと言っただけだね」

…………まぁ、答えなんて人それぞれが出すものだし、心晴ちゃんももっとたくさん考えて、答えを出して」

「心晴ちゃんがどんな答えを出しても俺は受け入れるよ。俺は心晴ちゃんの――、味方だからね」