狸本丸怪談・朔

これがそもそもの始まり。オールキャラ書くまで終われま10、一周目。



41、見えぬ釣果

時々、浦島虎徹と長曽祢虎徹は連れ立って海釣りに行く。釣れることもあれば、そこら辺で適当に貝を拾って帰ることもある。本丸全員分の釣果を期待されてる訳では全く無いので、気楽この上ない。

さて、本日はどうであったかと言うと、ものの見事な坊主であった。持ち帰る桶に水を張ってすらいない。これは蜂須賀にますます叱られるな。兄ちゃん、俺、夕飯は豚カツが食べたい。などと言い合って歩いていると、急に桶が重くなった。その重さは、およそ八分目までの水と大きな魚程度。桶をブンブンと振り回していた浦島は急な重さに対応しきれず、後ろに倒れた。倒れたならば水も魚も零れようものだが、何も無い。空の桶が転がるだけだ。しかし、持てば重い。長曽祢が持ってみても重い。不気味に思ったが、桶は本丸の共有物だ。置いては行けない。仕方なしに持ち帰ることにした。

それにしてもこの重み、中々の大物と見受けられる。普段経験したことの無い魚の重みに、浦島も長曽祢もだんだんと気分が高揚してきた。兄ちゃんばっかり持ってズルいよ。では、曲がり角ごとに交代でどうだ。俺が持って兄ちゃんが持って、その後はずっと一本道じゃん!と大はしゃぎで本丸の前まで来た所で、蜂須賀に出会した。
蜂須賀は桶を見るなりひったくって、遠くへ投げ捨てた。
「お前は魚の真贋も分からないのか!」と長曽祢を叱りつけ、「変だと思ったらその時点で捨てなさい。危ないから」と浦島を諭した。

その晩、三人並んで夕餉の豚カツを食べながら、道端で乾涸びているであろう見えない魚に思いを馳せたのだった。





42、贋作

蜂須賀虎徹は昼食をこさえていた。霧の隠れ里が開いたらしく、あそこは皆レジャー感覚で行きたがる為、昼間の本丸に刀気は少ない。なので食事は各自で確保となっている。蜂須賀は何となくうどんの気分だった。歌いながら作りはしないが、鼻歌ぐらいは出た。

冷蔵庫にぶら下げてある『困った時のみっちゃんお料理ノート』を見ながら油揚げを甘く煮ていると、台所の入口に気配を感じた。ちらと見遣ると、白い毛並みの狐が大中二匹で覗いている。鍋に落とした油揚げは三枚。これをやる訳にはいかない。
「そこのふたり、」と振り向きはせず声を掛ける。
「お前達にやるものは何も無い。さっさと去れ」
大中の狐は暫し粘る様子を見せたが、何処かへと去って行った。

さて、茹で上がったうどんを器に盛っていると、鳴狐とお供と小狐丸がやって来た。
「これはこれは、なんとも美味しそうですなぁ!」
鳴狐もそれはそれは楽しみにしていたのですよぅ。
「これでこそ洗い物干しを手伝った甲斐があったというもの」
鳴狐も小狐丸も、三つ並んだキツネうどんに上機嫌だ。早速うどんを啜るふたりを見ながら、蜂須賀は先程の贋作達の姿を思い返した。どこの野狐だか知らないが、毛の色しか合っていないような化け方で、虎徹の真作を騙そうなど百年早いのだ。





43、狐が嫁入り

鳴狐と小狐丸は森の中を歩いていた。
遠征帰り、お供の狐がはぐれてしまった。探して歩き回ってみたが、一向に姿を現さない。常なら、鳴狐が呼ぶより早く返事をするというのに。同行していた鶴丸国永達は先に帰し、鳴狐と彼を憐れに思った小狐丸だけが、森をさまよっている。

「きつね、ねえ、きつね」と呼ばい続ける抑揚のない声は、まるで鳴狐の方こそが迷子のようだ。
鳴狐よりは冷静に辺りをうかがっていた小狐丸は、いつの間にか雨が降り出していることに気付いた。静かに、糸のように降る雨だ。空に雲はかかっていない。いつの間に?小狐丸が訝しんでいると、何が気配が近付いてくる。
鳴狐の手を引いて茂みに身を隠すと、来た道の向こうから花嫁行列が姿を現した。
「なるほど、狐の嫁入りか」
しかし、花嫁の姿が見えない。それらしき白無垢も籠もいない。ただ、先頭の紋付袴を着た狐が白い包みを抱えている。
おや、包みがなにやら動いたような?
次の瞬間、抑えていたはずの鳴狐が、紋付袴に襲いかかった。腹をひと突き。刺したまま、グルルと喉を鳴らすように睨みつける。
「返せ。それはやらない」
仕方なし。小狐丸も茂みから躍り出て、紋付き袴の死骸から白い包みを奪いとる。白い布を退けてみれば、中にはお供の狐が丸まっていた。
小狐丸はひとしきり笑い、花嫁行列に向かって本体を抜いた。
「お主ら、嫁選びに失敗したな」
まあせいぜい、そこな狐に食い殺されぬように逃げるがいい。






44、隣人

平成も終わりの年のとあるアパートに、白い男の噂があった。誰も住んでいないはずの203号室、その窓辺に毎夜白い男が現れる。それと知らずに彼と話すと、いずれ死に至るらしい。
この白い男、何のことは無くただの鶴丸国永であった。この時代で展示に出された刀の護衛任務である。展示施設の近くのアパートに間借りして、歴史遡行軍が彼を折りに現れぬよう見張るのだ。同じ任務に着いている鶯丸と小豆長光が展示を見る振りで護衛している間、鶴丸は暇だった。
「実につまらない。待機だぜ、待機。機を待つだけ。機は自ら掴みに行ってこそ、いい驚きがあるってもんだろう。というか、別にスリーマンセルで動けばいいと思わないか?ほら、あの、ラーメンに入ってる名前の忍者マンガだって、三人行動が基本じゃないか。一人は拠点待機なんて意味があるのか?鶯のは『お前は白くて目立つからな』とか言うが、小豆なんざ光坊よりデカいんだぞ。あっちの方が目立つだろ」
窓枠に腰掛け、上体だけ部屋から出して煙草を吸いつつ、鶴丸はまくし立てる。独り言かと思ったが、目線は隣の部屋に向いているので、隣人と話しているらしい。
コンビニ袋を提げて帰還した鶯丸は、そっと彼の後ろ姿に近付いた。玄関では小豆が不安げな顔でいる。
「なあ、鶴よ、それを人に話してしまっては、後で政府に何ぞ言われるんじゃないか。俺はその辺は気にしないが」
応、おかえり。と鶴丸は悪びれる様子もなく笑って二人の帰還を労った。
「隣の事は気にしなくていいぞ」
あちらさんが骸を見付けてもらう迄、相手をして貰っているだけだからな。
「ま、死人に口なし、と言うだろう」






45、買ってはならぬ

毛利藤四郎が本丸の玄関前を掃除していると、鶯丸と小豆長光がやって来た。茶菓子を買いに行くという鶯丸に、小豆が自作の参考とするために同行を申し出たのだという。
「うん、ここであったも何かの縁だ。毛利もついて来るといい」
粟田口にも分ける菓子だ。助言が欲しい。
お菓子を頬張るうちの子たち、可愛い!と妄想だけで上機嫌になり、諸手を挙げて了承した。
万屋もある御店通りをぞろぞろと歩いていると、ある店の前で毛利の足が止まった。六方焼や鶯餅、練り切りが並んでいる。餡ものばかりなので、小豆の目にも止まったらしい。
「古備前殿、そこはどうだろう」
「うちの子たち、おはぎとかも大好きですよ」
しかし鶯丸はちらりと見ただけで「あれは駄目だ」と取り付く島もない。
「あそこは止めた方がいい。他にも何軒か駄目な店があるから、道すがら教えよう」
特に餡子系と肉饅頭には気を付けろ。血生臭くて敵わないからな。
「まあ、人ばかりが店を出しているとは限らないということだ」