狸本丸怪談・朔

これがそもそもの始まり。オールキャラ書くまで終われま10、一周目。



16、庭に来るもの


この本丸はそれなりに大きな武家屋敷の形をしていて、おかげで刀剣たちは自分たちのスペースをある程度確保できている。その中で、大典太光世は庭の隅に小さな畑を作っていた。皆で世話をするのとは違う、本当にささやかな、自分の好きなものだけを植えた畑であった。
近頃、その畑に、鳩が棲みついてしまったらしい。大典太自身が鳩の姿を見ていない。しかしその痕跡は確かなもので、畑の一部は見るも無残な廃墟と化していた。大典太も応戦はしたのだ。燭台切光忠に教えを請うて、共同の畑で採用している鳥避けを吊るした。音の鳴る玩具をそっとおいてみた。しかし、気配は一向に退くことはなかった。己の霊力の影響を存分に受けた畑で、こうもしぶとく生きているのならば、敵ながら天晴れと言うよりない。共存の道を歩むも吝かではない。そう思い、先日、巣箱を設置してみた。

というような話を、獅子王は大典太本人から、鵺を触らせてやっている折に聞いた。鵺の天日干しを兼ねて庭を散歩していて、件の畑が見えたので思い出した。そこで、ちょっとどんな鳩か見てみようか、と巣箱を覗いたのが間違いだった。
「うっわ、これ鳩じゃねーじゃん。以津真天じゃん」
そりゃあしぶといわ、なかなかいなくなんねーわ。





17、じっちゃん


獅子王は『じっちゃん』に対して、非常に面倒見が良い。本丸の所謂三大ジジイこと三日月宗近・鶴丸国永・鶯丸の相手は勿論のこと、本丸の近所や遠征先の『じっちゃん』にも愛想良く手を貸している。
だが、ひとつ、不思議なことがある。獅子王の言う『じっちゃん』は、往々にして「年をとった男」ではないことがあるのだ。老婆ならばまだいい方で、幼い少女や獅子王の見た目と同じ年頃の男、果ては犬猫を『じっちゃん』と呼ぶ有様だ。

今日も今日とて、遠征先の鶏をじっちゃんと呼んで、甲斐甲斐しく餌をやる獅子王に、同田貫が訊ねた。
「お前、それ鶏だぞ。一体どういうふうに見えてんだよ」
「どうって、鶏だろ。立派な烏骨鶏だな」
なー、じっちゃん。と笑うので、ますます何が『じっちゃん』なのか分からないのだった。






18、連れ帰った亡霊


同田貫正国には悪癖がある。合戦場で、戦いの果てに死んだ武者の亡霊と、やたらと意気投合するのである。
それで済めばよいのだが、盛り上がった挙句、本丸に連れてくる。
「兜割りのひとつも出来りゃあ、酒でもくれてやるよ」と、酔っ払いの如く上機嫌で連れ込むのである。
燭台切光忠はお酒やおつまみの準備に困るんだよねと溜息を吐き、五虎退や謙信景光は怖がって押し入れなどに逃げ込んでしまう。

ある時、遂に堪りかねた歌仙兼定が、本体を抜いた。
「いい加減にしろ!その雅さの欠けらも無い首、貴殿のものも含めて、片っ端から落としてやろうか!」
真剣必殺よりも殺意のこもった一喝には、流石の同田貫もたじろいだ。
「わ……わかったよ……。かえせば文句はねえだろ」
そうしておもむろに自身を抜き、亡者達を片っ端から真っ二つに叩き斬ってしまった。
同田貫はその後も亡者を連れ込んでは、歌仙に一喝されて、斬って捨てるを繰り返している。





19、掛け軸の手入れ


左文字兄弟は、よく歌仙兼定と茶会をする。元々は末弟の縁があったし、茶の席は長兄の言う和睦の道に通ずるものがある。次兄も元の主の影響を受け、なかなかどうしてそういう事が嫌いではない。歌仙からしても、左文字兄弟の静かな物腰は歓迎するものであった。

最初にそれに気付いたのは、次男の宗三左文字であった。歌仙の設えた茶室には、掛け軸がある。水辺に鵲が二羽。それが、前回の茶会で見た時とは、僅かに変わっている気がした。
「ねえ、歌仙。この掛け軸ですが……
「ああ、流石は宗三だね。気付いたのかい」
皆まで言わずとも、宗三の言おうとしたことを察したらしい。歌仙は、いつもの通りに、風流だろうと笑う。
「元々は和泉守が町で見つけてきたものなんだけどね」
前の茶会の席で掛けてみたけれど、何か納得いかなくて。その後に本体の手入れをしながら、落ち着いてよくよく考えてみたら、右の鵲の位置が良くないのだと気付いたんだ。
「それで、彼に『もう何寸か手前に寄ってみたら、より映えると思うよ』と提案してみたんだ」
そうしたら、存外素直に聞いてくれたのさ、と歌仙は上機嫌である。
小夜左文字は、お茶を頂きながら、鵲に「貴方も苦労しますね」と胸中で語りかけるのだった。




20、予言


「道中、油断めされませんよう」
「余計な馴れは怪我のもとですよ」
……気をつけてね」
出陣の準備に追われていた蜻蛉切と物吉貞宗は、揃って顔を青ざめさせた。
出陣前に、左文字三兄弟に声を掛けられると、怪我をする。この本丸で密やかに語られているジンクスである。江雪だけならば軽傷、宗三も加われば中傷、小夜までいれば重傷と言った具合である。
彼等に言われるから気を取られて負傷するというのがへし切長谷部の意見であり、彼等の忠告があるからその程度にとどめられるというのが歌仙兼定や燭台切光忠の見解である。
蜻蛉切と物吉は後者を支持しており、「僕が幸運と受け流しでお守りしますね!」「いや、自分の方が体力もある。自分の方こそ、いざと会う時には、物吉殿をお守りいたそう」と、お守りを確認しながら、互いに励ましあう。それを見送って、左文字の兄弟達は資材と手伝い札の準備をしに、本丸に散っていった。