狸本丸怪談・朔

これがそもそもの始まり。オールキャラ書くまで終われま10、一周目。



31、箱屋

その時の三日月宗近は、万屋へのお使いの帰りだった。三日月だって醤油ぐらい買ってこれる。傍から見たなら、ひとりで買い物に出されている三日月こそがホラーであろうが、今回はそういう話ではない。

店員に微笑みかけたら貰えた黒糖饅頭に浮かれながら歩いていると、ある店が目に付いた。
店は薄暗く、外からでは肝心の商品が全く見えない。ツツと寄って見ると、並んでいるのは箱であった。色も形も材質も全てバラバラだが、大きさだけは不思議と皆同じ。掌に乗る程度の箱である。三日月は少しばかり考え込んでから、「店主、店主はいるか」と呼ばわった。程なく、店主が店の奥から現れた。現れたのだが、顔が見えない。見ているはずなのに、顔が見えない。しかしそんなことは知らぬとばかりに、三日月は店主をばっさりと斬り伏せた。倒れ伏した店主に向かい、三日月は平然と話しかける。
「店主、この箱は人の身には毒にしかならんぞ。俺達も仮初とはいえ人の身を得ておってな。そういうものをこんな所で売られては困るのだ」
本丸には、毒されやすい者もいるからなぁ。
店主の首を鋒でひと撫ですると、店主はその身体ごと塵の様に崩れて消えてしまった。

三日月は、そのままさっさと本丸に帰り、たまたま鉢合わせた岩融と黒糖饅頭を囲んで茶を飲み始めた。その姿はどう見ても、いつものとぼけたじじいだ。その日、三日月が何を斬ってきたのかは、誰も知らない話なのである。





32、三途の川

重症で生死の境をさ迷っていた岩融の手入れが、先程完了した。もう暫し横になって身体を休めれば、直ぐにでも戦線復帰出来るだろう。今剣は敵討ちに出陣して行ったため、手入れ部屋へは、膝丸が食事を運んでやった。
「仲間を生かすためとはいえ、自分自身が死にかけるとは情けないにも程がある。今剣が戻ったら、ふたりで存分に鍛え直してやる」
こうやって叱りつけることができるのも、無事だったからこそだ。鶯丸から譲ってもらった茶をいれてやりながら、膝丸は内心安堵していた。茶を受け取り、岩融はバツが悪そうに笑って、それがなぁ、と語り出した。
「俺はどうもかの有名な三途の川とやらに行った様なのだ。それで、これはもう潔くあちらへ行って、弁慶と一献傾けるのも悪くは無いかと思ってな。渡し舟の船頭らしき者に声を掛けた。しかしその者は俺の顔を見るなり怒り散らしてなぁ。その者が言うには、俺は違うのだそうだ。無いものの癖に、在った者の様に死のうなど言語道断だと怒鳴られてな、川原から追い出されてしまった」
いやぁ参った参った、などと笑うので、これは今剣に告げ口してやろう。泣かれて心底困ってしまえ、と膝丸は心に決めた。






33、恋情にくれてやる

膝丸が呪われた。右足に呪いが絡み付いて使い物にならない。先日の遠征の際に、江戸日本橋で悪漢に絡まれた娘を助けたのだが、その娘が少しばかり性質の悪い者だったらしい。髭切がいたなら橋姫に準えて断ち切ってしまえたのだが、生憎と奥州遠征に出たばかりで当分帰ってこない。

先日はさんざん俺を叱ってくれたが人のことは言えぬなぁ、全くです、と岩融と今剣が呆れながら世話を焼くが、一向に埒が明かない。熱を持った足に氷嚢をあてながら、諦めたように膝丸が言った。
「愛染国俊を呼んでくれ」
くれぐれも本体を持ってくるよう伝えてくれ。

「俺になんの用だって?」
あ、膝丸さん、調子大丈夫か?
元気よく見舞いの言葉を掛ける愛染に、膝丸は挨拶もそこそこに右足を示して言った。
「この足を切り落としてもらえないか」
「は!?」
膝丸が言うには、この呪いは娘の恋情から来ている。呪返しは憐れであるし、足ぐらいならくれてやろうと思う。
どうせ手入れしたら直るのだから、そんなに気にすることは無い。そして恋情ならば、愛染明王の加護をもつお前に頼むのが順当だ。
「だから、頼む。流石に兄者が帰るまでにカタをつけねば、合わせる顔がない」
しょうがねぇなぁ、と愛染は嘆息して数秒ほど目を閉じ、抜いた本体を振り上げた。







34、上映会にて

その夜、本丸では怪談の上映会が行われていた。21世紀の映像ライブラリーから探してきた落語で、演目は真景累ヶ淵。人情物を語らせれば当代一と名高い噺家のものだ。
皆、固唾を呑んで聴き入っていたが、愛染国俊だけは落ち着かなかった。彼の後ろで、ずっと震えている気配がする。関わると面倒なことになる。愛染は、震える者に気付かない振りで、噺にぐっと身を乗り出す。震える者が少しにじり寄ってきたように感じる。噺は最高潮に達する。皆、一斉に息を詰める。震える者が、愛染の背に手を伸ばしていると分かる。誰かが小さく悲鳴をあげる。

そして、スパンっと障子が開いた。

現れたのは、盆に山盛りの菓子をのせた蛍丸だった。
「国俊、おまたせー」
「おせーよ、蛍丸。噺がひとつ終わっちまったよ」
「ごめーん。みっちゃんからあんころ餅貰ってきたから許してよ」
で、国行は何をぶるぶるしてるの?
愛染の後ろで、タオルケットを握り締めた明石国行が震えていた。
「相手にしたら面倒くさいから無視しとけ」
大人の形で情けねぇ、と愛染が揶揄うと、明石は情けない声で言った。
「いや、さっきまで居てた見えん人達、なんですのん!?」
今日は来派オンリーの上映会やろ!?
部屋にいるのはさんにんだけで、先程までの大勢の気配は、もういない。






35、ねこです

蛍丸と明石国行は壊滅的に絵が拙い。蛍丸の絵は色んな線が多すぎて、明石の絵はあまりにも線が少ない。なお、愛染国俊は二人の間を取ったように、丁度いい線の数でそれなりの絵を描く。
そんなふたりだが、何故かとある生き物だけは、ちゃんと描ける。
ねこです。
簡素な線で描かれたねこだ。
目付きは少々胡乱だが、真っ白なねこだ。
ねこはいます。
ねこは歪な胴と手足としっぽを持っている。
ふたりの絵を判じて暇を潰していたソハヤノツルキも、これだけはすぐにわかった。他は全敗だった。
これはねこである。
ねこですよろしくおねがいします。