狸本丸怪談・朔

これがそもそもの始まり。オールキャラ書くまで終われま10、一周目。



46、こどもの定義

それじゃあ気を付けてお家に帰るんですよ、と笑顔で手を振る毛利藤四郎。比較的平和な遠征先でよく見かける姿だ。毛利は小さい子が好きであった。可愛がり、あやし、褒め、構い、戯れる。別れる時には大きい飴玉を与え、姿が見えなくなるまで見守る。なんとも甲斐甲斐しい。
遠征の同行者である髭切は、感心半分の呆れ半分で、そんな毛利を観察していた。
背中が見えなくなり、満足げに一息つく毛利に、髭切は常々の疑問をぶつけた。
「がおーくんの『じっちゃん』もだけど、君の『小さい子』はどういう基準なの?」
さっきの、どう見ても元服していたけど。
そうですねぇ、と毛利は口に人差し指を当てて少し思案する。まあ、なんと言いましょうか。
「感覚ですよね。見目が全てではないですし」
ほら、童子と名に付いても、小さくも可愛くもないのもいるでしょ。名は体を表さないし、体が実を写しているとは限りませんよ。
よくご存知でしょう、と微笑んだ。
「成程、これは一本取られたかなぁ」
中身が可愛くない童子がいたら、教えてよ。すぱすぱっと斬っちゃうから。と髭切も穏やかに笑う。
いつまでもいつまでも、子ども好きの刀と童子の腕を斬った刀は、にこにこと笑い合う。





47、源氏の刀は

源氏の刀は良く斬れる。古今東西の名刀揃いの本丸ではあるが、源氏の刀は斬れる意味合いが違う。鬼も蜘蛛も罪人も、なんだって斬ってしまう。それが、本当にあろうと無かろうと。

今日も気持ち良く敵を殲滅し、帰還の前に拾った資材や刀を纏めている時だった。
両手を上げて背の筋を伸ばしている髭切の肩に、何かが引っ掛かっている。気付いたのは篭手切江で、折角の白い装いにそれはあんまりだと、そっと声を掛けた。
「髭切さん、肩に……
「おや、何だろうね?取ってもらえるかな」
お安い御用と篭手切がつまみ上げたそれは、腕だった。
子供の腕、だろうか。痩せ細って骨と皮だけの、ミイラの様な腕であった。
心当たりを訊けば、髭切は至極あっさりと「あれかな。僕が斬った苦無」と言う。
あれはなかなか手強かったなぁ、等と笑っているが、苦無に腕は無い。篭手切が見ていた限りでは、髭切は苦無としか応戦していないのも確かだ。
「まさか、無い腕も斬れるなんて……
篭手切と号の付く自分でもそんなことは出来はしない。
源氏の刀は良く斬れる。無い物も有る事にしてしまう程に、なんだって斬ってしまう。
篭手切は、ただただ畏れ入るしかなかったと言う。





48、未来日記

先日、籠手切江の部屋の机に現れた帳面は、まことに不思議な帳面であった。贈り物にせよ誰かの私物の置き間違いにせよ心当たりがなかったが、もったいないので日記帳として使うことにした。すると、籠手切は書いていないのに、明日の出来事が記されるようになった。
些細なことである。昼食の握り飯の具であったり、日課の鍛刀で誰が来たかとカ。夜戦で一緒になった厚藤四郎に、世間話の一つとして話すと「それ、未来日記ってやつじゃないか?」とのことだった。漫画でよくあるものらしい。「見た目がマイルドな件みたいなもんだろ。気にすんなって」と笑い合った。
その後も未来日記は緩やかに続いた。楽器が落ちるかどうか。検非違使に遭遇するまでの厚樫山の周回数。へし切長谷部と宗三左文字のぷよぷよ10回勝負の行方。一度、「後藤藤四郎、折れる」とあった時は肝が冷えたが、箪笥の角に思い切り足の指をぶつけて骨折し、手入れ部屋行きになっただけだった。

さて、籠手切は今、物凄く悩んでいる。日記が言うには、明日のおやつは燭台切光忠特製の抹茶シュークリームであると言う。それももちろん好きなのだが、個人的にはチョコクリームの気分なのだ。
「これは、今日の内にちょこくりーむでりくえすとしたら、歴史修正になってしまうんだろうか……





49、キャッチャー

山伏国広が森から出ると、ちょうど森と原の堺の草藪で、厚藤四郎と後藤藤四郎が探し物をしているのに出くわした。
「ぶっさん!ちょうどいいところに!」
「あ、マジだ、ぶっさんだ!ちょっと聞いてくれよ!」
どうしたのかと訊く前に、厚と後藤は怒涛の如く話し出した。
「オレ達、いつも兄弟と、あと獅子王と青江と不動と太鼓鐘と三日月さんと、えーと最近は南泉とかソハヤもだけど、とにかく、よくこの原っぱで野球やってるんだけどさ。ここ、ちょっと厄介なのが棲みついてるんだよ」
「そうそう、俺がキャッチャーで厚がピッチャーなんだけど。いくら俺たちがナイスバッテリーでも、打たれる時は打たれんだよな。でさぁ、悔しいけどホームランだったりする時に限って、手が出てくるんだ」
「手、であるか?」
「そう、手!」
「その手が、ホームランボールを捕って消えちまうんだ」
「困るんだよなぁ。野球ボールって結構値がしてさぁ。あんまりしょっちゅう新しいの買ってたら、博多に怒られるんだよ……
「あいつ、本当にこういう説教させると怖いんだよ……
山伏の頭に、トレーニング機器を使い過ぎで壊した時の博多の姿が過った。あの迫力は短刀のものではない。
「それで、こうなったら巣を探そうと思って」
「今までのボール全部、その巣に貯め込んでるかもしれないしな」
「手を退治する、という訳ではないのであるな」
「え……、だって、なぁ?確かに迷惑だけど……
「まぁ、悪い奴ではないしなぁ……。」
「そこまではしなくていいかなって」
「かっかっか、成程成程。これも江雪殿が言っておられる和睦の精神というものであるな」
では、拙僧も手伝おう。そういって山伏も草藪を探し始めた。結局、手の巣は夕方近くになって漸く見つかり、ボールのことで博多に叱られることはなくなったが、夕飯に遅れたとして歌仙兼定に絞られたのであった。





50、しりとり

山伏国広と陸奥守吉行は山の中を歩いていた、変なものに目を付けられたらしい。蔦やら蟲やらが矢鱈と絡みついて来る。
「何とかならんか……
「よし、では拙僧と少々遊んでいただこう」
はて、遊ぶとは。
「しりとりである」
山伏曰く、しりとりは簡易的な魔除けとなるらしい。
「しっかし、二人じゃあすぐにおわりそうじゃのう」
「うむ、では、必殺の奥義をお教えしよう」
どのような呪文なのかと息をのむ。
「ンジャメナ、である」
それは、一度だけ、死地を逃れられる言葉。