狸本丸怪談・朔

これがそもそもの始まり。オールキャラ書くまで終われま10、一周目。



11、刀の幽霊


馬当番の最中のことである。
薬研藤四郎がふたりいる気がする。
そうつぶやく南泉一文字の顔があまりにも深刻で、石切丸はつい吹き出してしまった。何を笑うかと睨まれて、これは失礼と慌てて詫びる。
「さて、薬研さんのことだね」
南泉には猫が憑いてる事になっているから、勘が利くのかもしれない。
最近来た刀達は知らないだろうが、かつて薬研藤四郎は折れたことがある。この本丸で最初にして最後にしたい、刀剣破壊であった。みな悲しみ、そしてそれを埋めるように速やかにふたり目の薬研が顕現した。そこまでは非常に悲しい話であった。
が、薬研藤四郎はどうにも生命力に溢れた刀であった。
「ひとりめの薬研さん、魂だけ戦場から帰ってきたんだ」
刀剣男士の幽霊とでも言えばいいのか。そのままふたりめの薬研の助手に収まってしまった。
「手入れ部屋が繁盛の時には、薬研さんが走り回ってふたりに見える、なんて冗談があるだろう?」
あれは、本当にふたりいるんだよ。
うちもこんな本丸だからね、然もありなんさ。君も、もしもの時は気を確かに持つといいよ。運が良ければ帰ってこれる。と全くの善意で言う御神刀に、「にゃっす、肝に銘じます……にゃ……」と微妙な顔で返す他ないのだった。





12、真夜中の戦い


この本丸では、夜十時以降に共用の台所に立ち入るのは厳禁とされている。それはもはや禁忌という域にまで達しており、燭台切光忠や歌仙兼定ですらも許されていない。一体誰が許してくれないのかと言うと、本丸婦人会の面々である。
カップ麺をねだりに来た御手杵を刺身包丁のお嬢さんが「一昨日来やがれ!!」と叩き出し、失念してしまった糠床の手入れに来た燭台切を釜戸の婆が「婆がやっておくから、みっちゃんは早う寝んさい」と部屋に返す。
そんな強く優しく美しい面々と、日々戦い続ける男がいた。南泉一文字である。
猫の性が疼くのか、南泉は本丸の誰よりも宵っ張りだ。昼間は戦に当番にと体を動かし、しかも体は食い盛りで、夜中に腹が減らぬ訳が無い。猫を引き連れ煮干を狙い、日々激しい戦いを繰り広げているという。後ろの女からの女子会報告に、にっかり青江は夜中何があっても台所に近付くまいと心に決めた。





13、もうひとり


「包丁藤四郎を探すならにっかり青江の部屋から探せ」が常識として定着するほど、包丁は青江の部屋に入り浸っている。理由は言わずもがなで、本丸でも数少ない人妻、にっかり青江の後ろの女、通称笑子さんである。
「あーおーえー!おじゃましまーす!!」
元気よく障子を開ける包丁を、青江はにっかり笑って迎え入れた。包丁は鼻歌交じりに土産のお菓子を広げる。
「ご機嫌なところ申し訳ないけどね」
今日は彼女、居ないんだよ。キャラメルの包みを開けて、包丁の口に放り込んでやる。
目を真ん丸くして、キャラメルが詰まった口でモゴモゴと不明瞭に呻く包丁に、「秘密の集まりなんだってさ。……女子会のことだよ」と教えてやる。ようやっとキャラメルを飲み込んだ包丁は「だから今日はもうひとりの奥さんだけなんだ!」とあっけらかんとしたものだ。
……はて、もうひとり?
「えっと、もうひとりって、なんのことだい?」
少しばかり、青江の背中越しの空気が冷えた気がした。
「もうひとりはもうひとりだよ。旦那さんの首抱いてる人」

そんな物騒な人、知らないよ。





14、もらったお菓子


本丸から万屋への道筋に、駄菓子屋と思しき店がある。なぜ推定なのかと言うと、常に閉まっているからだ。曇ったガラス戸の向こうに、薄らと駄菓子らしきものは見えた。しかしそれだけであった。人の出入りの気配すらない。
そんな店から、包丁藤四郎が菓子を持ち帰ってきた。
「お菓子……ですか……
前田藤四郎と平野藤四郎は、そっくり同じ動きで首を傾げた。包丁の手の内にあるのは、確かに六方焼の包みであった。いやしかし、あの駄菓子屋で六方焼とは少々上等過ぎやしないか。どういうことなのか、前田と平野はじっと包丁を見る。
万屋へのお使いの帰り、例の駄菓子屋を少し通り過ぎたところで、女が一人蹲っていた。どうしたのかと訊くと、その女はあの店の者であると言う。店までもう少しという所で、持病の癪で動けなくなったのだそうだ。包丁とて身体は小さくとも付喪神だ。女に肩を貸し、店まで送って送ってやった。
「そしたら、お礼にってもらったんだぞ!」
二つもらったから誰か兄弟と分けようと思って、ちょうど最初に出くわした前田と平野に声をかけた次第だと言う。早速と包みを開けば、確かに美味しそうな六方焼だ。いただきますと包丁が大口を開けてかぶりつこうとした時。
「だめです!!!」
前田が叫んだ。
平野が半分に割った六方焼。
その中には、餡子ではなく、どろりとした、赤い臓物が詰まっていた。






15、どちらかがどちらか


前田藤四郎と平野藤四郎は、粟田口派の中でも特によく似た兄弟である。この本丸のふたりはその傾向が更に顕著で、戦装束はまだしも、内番服になるといっそ面白いぐらい間違えられる。面白いので、わざとややこしく振舞うこともある。前田なんて、わざわざマントを外しているぐらいだ。
ある時、とことんまで似せてみて、果たしてどれだけ見分けられるか試してみようということになった。
「では、平野は前田の予備のマントをつけましょう」
「なら、前田は平野に合わせて髪を少し切りましょう」
僕達が正しく僕達になれるように。
そうして、前田と平野はそれぞれに内番を手伝ったり話し相手になったり、好きに一日を過した。
夜、宴会の肴として、答え合わせが行われることになっていた。

「レディースエーンドジェントルメーン!これより第一回前田平野検定を開始する!!」
鶴丸国永がマイク片手に高らかにさけぶ。
「歌仙が生ける花を摘んできたのは」
「平野です」
「手合せ中の同田貫と和泉守に水を届けたのは」
「前田です」
「堀川の化け物狩りを手伝ったのは」
「どちらでもありません」
「光坊特製ずんだ餅を俺に届けたのは」
「平野ですね」
次々と質問が飛ぶが、誰ひとりとして見分けがついていた者はいなかった。
では最後に、と大典太光世が手を挙げた。
「俺と水饅頭を食べたのはどちらだ?」
兄弟にも食べさせたいと言っていただろう。もうひとつ買ってきた。渡してやるといい。
「それは僕らですね」
そう、全く同じ顔で、にっこりと笑って、同時に言った。
「僕らは食べましたので、それは大典太さんがソハヤさんと分けてください」
水饅頭を一緒に食べたのは確かにひとりだったのに。ソハヤノツルキの口に水饅頭を押し込みながら、大典太は頻りに首を捻るのであった。