狸本丸怪談・朔

これがそもそもの始まり。オールキャラ書くまで終われま10、一周目。



21、通らない注文

蜻蛉切と物吉貞宗は非番を利用して、町に買い物に来ていた。身の回りの細々としたもの、親しい者へのお土産、頼まれた食材と、荷物は山の如しだ。
「あ!あそこの新しく出来た茶屋さんが、美味しいって話題なんですよ!そこで休んでから帰りましょうか」
物吉が指さす先には、真新しい茶屋があった。
幸いに、少しの間しか待たずに店に入れた。大量の荷物を降ろして息を吐く蜻蛉切に、物吉は「ここは絶対に僕が払いますからね!蜻蛉切さんってば、僕の分も荷物を全部持ってしまうんですから!」と息巻いた。
店員を呼び「すみません。この肉饅頭と中国茶のセットを二つお願いします」と、注文を伝える。
先に来た中国茶を飲みながら歓談して待つが、肉饅頭はなかなか来ない。
二人より後に席に通された客には、どんどん肉饅頭が運ばれている。
店員に何度か声を掛けたが、その度にオーダーが通っていないと首を傾げられた。
「困りましたね……
「うむ、門限に間に合わなくなる」
「仕方ありませんね」
結局、中国茶の代金だけ払って、そのまま本丸へと帰還した。

「ほかの皆さんが食べていたのはとても美味しそうだったので、本当に残念です」
今度リベンジするんで、太鼓鐘も良かったら行きますか?と無邪気に言う兄に、太鼓鐘貞宗は曖昧な笑顔を向ける。
太鼓鐘の見ていた電子端末には、猟奇事件のニュース記事が映し出されていた。とある茶屋の厨房で、肉の削げた死体がいくつも見つかったのだという。





22、付け文

兄である亀甲貞宗から見ても、太鼓鐘貞宗は元の主の家名に恥じぬ伊達男である。そのため、町や遠征先で付け文を貰うことも珍しくない。町はともかく、遠征先の人間と縁を持つ訳にもいかないから卒無く断っているようなのだが、その中にどうにも熱心な娘がいたらしい。
初めは京都市内で出会ったのだという。しかし明石国行が見つかったことで、出陣先が江戸城下に移った。するとどういうことか、江戸城下で件の娘に付け文を渡された。
「うん、まあ、着物とかはその時代のなんだけど、顔も雰囲気もついでに文の字もどう考えても同じなんだよな」
その内に娘は遠征任務先にも現れるようになった。伊達の刀と慰安も兼ねて行った奥州遠征にまで現れる始末だ。
「なかなか情熱的なお嬢さんだね」
「男冥利に尽きるっちゃあ尽きるけどなぁ」
流石に第二のまんばの彼女案件はまずかろうと思っていたら、ぱたりと現れなくなったらしい。
「多分、あれだと思うんだけど」
最後に会った時、乱藤四郎と二人で遠征中だった。しかも燭台切光忠特製の手作り弁当を食べている時。
「勘違いされたよな」
「されたろうねぇ」
なにはともあれ、平和的に解決してなによりだ。






23、見えぬ

亀甲貞宗には悩みがあった。時々、演練相手に存在を認識されないのである。
ちゃんと六対六であるのに、そちらは五人で大丈夫かと心配或いは挑発される。試合前には認識されていても、いざ開戦となると全く眼中に無いように捨て置かれる。
亀甲とて極めているのだ。弱くて後回しにされている訳もない。混戦の中で放置され、ひとりぽつんと立ち尽くす。アリかナシかで言うと、アリ寄りのナシだ。務めを全うできないのは本意ではない。全く困ったものだ。
なんか白いもの倶楽部・打刀部門の仲間として話を聞いていた山姥切国広は、結構な事じゃないか、と真顔で言った。誰にも気にされないなら、誰とも比べられることもない。
「でも、誰とも戦えないのも困るよ」
……そうだな。すまない。やはり由々しき問題だ」
なにか心当たりはないのかと言われ、亀甲はしばし考え込む。
ああ、そういえば。
「関係あるかは知らないけどね。僕が見えない本丸はだいたい、『政府のやる戦力拡充キャンペーンが仕事しない』と愚痴っていたなぁ」
特に僕が見つけられないそうだよ。






24、高いところから落ちてくる

背後で、ぼとりと重い音がした。どうせいつものあれであろうと思いながら振り向けば、やはり一尺三寸ほどの鯉が落ちていた。まだ生きている。ビチビチとあまりにも元気だ。山姥切国広は懐から網を取り出すと、手際よく鯉を包んで池に放流した。

山姥切国広の周りでは、よく何らかのモノが降ってくる。それも真上からほぼ垂直に。
「アンタの仕業か」
今日も今日とて本丸の塀の向こうに佇むストーカーに問いかけるが、彼女もよく分からぬという表情で顔を横に振るだけだ。まあ確かに、身の丈八尺程度では打点が低すぎる。つまり犯人は他にいる。

「で、なんで俺たちが正座させられるわけ!?」
「そうですよ、べんごしをよんでください!」
いち兄を呼べ、岩融に言いつけてやる、と口々に鯰尾藤四郎と今剣がわめく。それを遮り、山姥切はスっと今剣を指して「天狗礫」、次いで鯰尾を指して「嫌いな奴には馬糞を投げる」と静かに告げた。
「俺、山姥切さんのこと全然嫌いじゃないのに!?」
「あー……、てんぐつぶて……。それをいわれると、ちょっとなぁ……
でも犯人じゃないと反駁する今剣。
「まあ、それは分かってはいるがな」
こうしている間にも落ちてくるドングリを布で躱しながら、山姥切は「現実逃避ぐらいさせてくれ」と嘆くのだった。






25、箱

鯰尾藤四郎が、遠征先から箱を持ち帰ってきた。
両掌に乗る程度の大きさで、八方どこを見ても継ぎ目がない。振るとカサカサと鳴る、ような気がする。鳴るという者と何もないという者がいるのだ。巴形薙刀などは「澄んだ鈴の音がするな」とまで言う。
それが面白くて、鯰尾は本丸中の刀にそれを見せて回っていた。
「鯰尾さーん、なにしてるんですか?」
「あ、今剣センパイ!センパイも、これ振ってみる?」
手本のように鯰尾自身が振ってみると、やはりガサガサと鳴った気がした。
受け取った今剣は、少しばかり箱を矯めつ眇めつしていたが、おもむろにそれを全力で投げ飛ばしてしまった。箱は、大量の烏の羽ばたきのような音を鳴らしながら、何処かへ消えた。
「あれは、むかしがふたしかなものには、とってもよくないですよ」
だから、ポイしちゃいましょう。