狸本丸怪談・朔

これがそもそもの始まり。オールキャラ書くまで終われま10、一周目。



36、隣の騒音

ソハヤノツルキは日々苦しんでいた。深夜、隣の部屋が喧しい。時々、鯰尾藤四郎が骨喰藤四郎の手をひいて部屋に入るのを見かけるので、彼等の部屋なのだろう。あの兄弟の来歴は聞いている。無い記憶を埋めるように楽しくやっているなら、それを咎めるような野暮はしたくない。同じく兄弟を持つ身だ。そうは思っていたのだが、最近はあまりにも煩い。明日は骨喰と当番が一緒になるので、それとなく言ってみることに決めて、枕を被って就寝した。

さて、一夜明けたが、枕の恩恵とも思えないが、昨晩は静かだった。
少し気後れしながらも、骨喰に要件を切り出した。
「それはすまない」と骨喰は素直に頭を下げた。
昨日は兄弟と遅くまでゲームで盛り上がってしまったし、さぞうるさかったろう。迷惑をかけてすまない。
骨喰は真摯に詫びるが、少し待って欲しい。
「いや、昨日は静かだったぜ。一昨日は酷かったけどな」
「一昨日……?それはおかしい。実は普段から寝る時だけ、兄弟全員で大部屋に集まっている」
昨日はゲームのことがあったから自室にいたが、一昨日どころか、ひと月の内に五日も部屋では寝ていない。
そう言われて、ソハヤノツルキは、はたと気付いた。隣室は偶に静かなのだ。それこそ月に五日ぐらい。
……お前達が、部屋に、いない時……?」
そう、誰もいない時に喧しいのだ。
壁に頭を打ち付ける音が。






37、ついてくる

骨喰藤四郎が夜道を歩いていると、ヒタヒタとついて来るものがある。
すたすた
ひたひた
すたたたた
びたびたん
振り向いて見ても、何も居ない。極めた骨喰の偵察を掻い潜るとは、何者だ。
足音だけはどこまでもついて来るので、骨喰はとにかくうろうろと歩き回った。
歩きに歩いた。古本屋、茶屋、餃子屋と様々に巡った。巡れど廻れど何者かはベタベタぺたぺたびたびたついて来る。
遂に歩き疲れて、本丸に戻った。水場で汗でベタつく顔を洗っていると、大般若長光がやって来た。酒の合間に水を飲みに来たそうだ。
「ところで骨喰。足元のそいつはなんだい?」
見れば、骨喰の足元に、大きくぬらぬらとした生き物がいた。
……大山椒魚、だな」
そう言えば、足音に付き纏われるようになったのは、三条大橋だった。幕末の京都からこの本丸まで、
「時間遡行に着いてきたのか」
これを政府に報告したところ、審神者の才能があると、連れて帰ってしまった。






38、燈台下暗し

大般若長光は少しばかり退屈していた。折角の酒宴だというのに、綺麗どころの櫛やら風鈴やらは自分の懇意に構いっきりだし、余興も短刀ふたりの見分け当てでは新参者の自分には分が悪い。同派のよしみで祖が一振りを探してみれば、あつきが来ないと落ち込む末子に、せっせと甘味を与えていた。
どこかの白い刀じゃないが、退屈というのはよろしくない。気紛らわしに腹でも膨らまそうと小皿を手に取って、大般若は気付いた。
「おやぁ?これはこれは……
大層な別嬪じゃないか。燈台下暗しとはまさにこのこと。おそらく歌仙兼定か蜂須賀虎徹あたりがとっておきの皿を出してきたのだろう。実に美しい。形、色、大きさ、手触り、すべてが見事に調和している。そう讃えると、皿も嬉しいのか、少し赤味が差した気がする。
先程までの退屈とは打って変わって上機嫌の大般若に、隣で飲んでいた次郎太刀はズルいと叫んだ。
「あんたがそうやって口説くもんだから、料理の乗った皿がみんなあんたに寄っていってるじゃないか!」





39、とっくりのうた

先日、博多藤四郎が陶器市で仕入れて来た徳利が、酷く不評だ。見た目は悪くない。そこは歌仙兼定のお墨付きだ。しかしこの徳利、中から声がするのだ。いや、器物が喋ること自体は問題ない。自分達も同じ穴の狢だ。審神者は狸だが。
では何が嫌がられているかと言うと、地獄の底の合唱団の様な呻き声なのだ。そんなもの、昼間に戦場で聞き飽きた。酒の肴にするのは御免こうむる。そういう訳で、その徳利は食器棚の隅で埃を被っていた。
それに救いの手を差し伸べた者がいた。次郎太刀だ。次郎太刀は徳利に向かってトクトクと説いた。
「いいかい。アンタになんの辛いことがあったのか知らないけどさ。酒ってのは楽しく飲むもんだ。アンタも辛気臭い声出してないで、一度ぱーっと愉快に歌ってご覧よ。案外簡単に未練も無念もどっか行っちまうかも知れないよ」
次郎太刀の説教が効いたのかは分からないが、以来徳利は歌うようになった。次郎太刀も、その徳利で酒を飲んでは、併せて楽しそうに歌っている。






40、六文銭

博多藤四郎は大層立腹していた。たまたま居合わせた長曽祢虎徹と浦島虎徹は不運としか言いようがない。滅多に怒らぬ博多だが、その滅多の怒りが恐ろしいのだ。
「どうした、何かあったのか?」
長曽祢が意を決して訊ねると、博多は憤懣やるかたなしな調子で答えた。
「銭ばなくなっちょる」
なんでも、わりと刀剣以外の出入りのある本丸なのだが、出て行く者があると、遠征時に持たす用の銭が減るのだそうだ。だいたい六文くらい。
「そういうもんは、自分で用立てんしゃい!」
こうなったら、まず住み着く時に敷金をとらんと割に合わんばい、などと恐ろしいことをこんこんと説く博多に、虎徹の兄弟はただただ頷いてやるしか、しようがなかったという。