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美味いものは冷めても美味い.zip
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主足怪文書不法投棄
アカウント移行前に新書ページメーカーで投稿していたものをまとめてみました
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何するつもりだったの?
キッチンから漂う甘い香りが、家中にゆっくりと広がっていく。ハロウィンだからと鳴上が用意したのは、かぼちゃを使ったタルトとクッキー。焼き立てをテーブルに並べながら、どこか誇らしげに口を開いた。
「どうですか?ちょっと張り切っちゃいました」
「
……
はあ。相変わらず器用だねぇ。買ってきたんじゃなくて?君の手作り?」
「もちろんです。ほら、ちょっと焦げてしまったのが」
「あはは。なにそれ、人間アピール?」
差し出されたクッキーの一枚は端がわずかに焦げていて、それが確かに手作りを証明していた。足立は小さく笑いながら、それを摘んで口に放り込む。
「
……
ん、思ったより甘すぎなくていいね。美味しい」
「本当ですか?足立さんの口に合って良かったです」
足立がもぐもぐと咀嚼する様子を、鳴上はどこか期待するような眼差しでじっと見つめている。ふと目が合えば、鳴上は慌てて視線を逸らした。
(あー
……
なるほど、ね)
鳴上の目論見を察してしまった足立は、小さく肩をすくめて、じとっとした目で鳴上を見た。
「
……
なに、そんなに見られると食べづらいんだけど」
「いえ、足立さんが食べてくれるのが、嬉しくて」
「ふうん?」
用意されたお菓子をすべて平らげたことを確認して、足立は鳴上の様子をちらりと伺う。もうお菓子はこの場にはない。このタイミングを待ち焦がれていたであろう鳴上は、まだ何も言い出さず、そわそわと視線を宙に泳がせている。それを見かねた足立が、わざとらしく甘ったるい声を作り、問いかけた。
「
……
ねえ。君さ、僕が今トリック・オア・トリートって言ったら、どうするの?」
「
……
え?」
ぴくりと肩を揺らす鳴上。足立は、その反応を見てふっと唇の端を持ち上げた。まるで何から何までお見通しだと言わんばかりの目で、鳴上を見つめる。
「タイミング遅すぎ。君が言うの、待ってあげたのに」
「もしかして、僕から言ってくること想定してなかったの?そりゃダメだよ」
からかうように笑いながら、足立は頬杖をつき、鳴上を見た。その目は、少しだけ細められていて、半分呆れたような、でもどこか楽しげな表情で続ける。
「さっきから、やけにもの欲しそうにジロジロ見てくるからさぁ、気づいちゃったよ、君の目論見」
「
……
早くお菓子ちょうだいよ。ねえ?悠くん」
「え、いや
……
その
……
お菓子は今
……
」
「そんなの知らないよ、僕が言ったタイミングでお菓子渡してもらわないと、さ」
しばらく言葉を失っていた鳴上が、ぽつりと呟いた。
「ずるい、です。俺、言おうと思ってたのに
……
」
拗ねたような声音。テーブルに視線を落としたまま、ほんのり頬を膨らませている。
「言いたかったのに
……
俺がトリック・オア・トリートって言うつもりだったのに
……
」
「ふぅん?それなら、どうして言わなかったの?」
頬杖をついたまま、足立はわざとらしく首を傾げてみせる。まるで拗ねた鳴上を挑発するように。
「君が黙ってるから、てっきり僕が言うの待ってるのかと思っちゃったじゃない」
「
……
違います。足立さんが可愛い顔して食べてるから、見惚れてただけです」
足立はわざとらしく眉を上げてみせながら、からかうように言葉を重ねた。
「可愛いこと言っても無駄だよ?だって、お菓子ないんでしょ?じゃあ、悪戯されるしかないね、君」
いたずらっぽく細められた足立の瞳が、テーブル越しにじっと鳴上を射抜く。そうして椅子を引くと、ゆっくりと立ち上がり、そのまま何食わぬ顔で鳴上の隣に腰を下ろす。
「
……
ねえ、悠くん」
耳元すれすれ、吐息の混じった低い囁きが降りる。同時に、テーブルに置かれていた鳴上の手の甲へ、そっと指先が触れる。その瞬間、鳴上の肩がびくりと揺れた。けれど足立は構わず、そのまま指を滑らせながら、さらに体を寄せていく。
「トリック・オア・トリートって言いたかったんだ?」
「
……
っ、はい」
「じゃあさ
……
君は僕に、何するつもりだったの?」
頬がかすかに触れ合う距離。耳朶に落ちる声の温度が鼓膜の奥をくすぐっていく。鳴上が言葉に詰まれば、ぴたりと指が止まり、焦らすように留まる。
「悪戯って、たとえばどんなこと?」
言いながら、指先は再びゆっくりと動き出す。円を描くように撫でながら、少しずつ指の腹が鳴上の手のひらへと滑り込んでいった。あくまで手だけ。けれど、そのなぞる所作には妙な艶っぽさがあった。くすぐるような、それでいて、どこか焦らすような手つき。指先は、そっと鳴上の指と指の隙間に忍び込む。
「
……
君、何想像してたの?」
全て承知の上で問いかけるその声音に、鳴上の耳がじわじわと赤く染まっていく。
「
……
その、足立さんが、食べ終わった後に
……
」
ぽつり。少し間を置いてから、鳴上が身を縮こまらせながら呟く。視線はテーブルに落ちたまま、それでも足立の手を振りほどこうとはしない。
「甘いものを食べたら、足立さんの口の中も
……
きっと、甘いと思って
……
だから、トリック・オア・トリートって言って、キス
……
したかった、です」
言ってから、鳴上ははっとして口をつぐむ。耳まで真っ赤に染まった鳴上が、かすかに俯いて息を呑むのが分かる。その告白に込められた熱量は、明らかにただのキスでは終わらないものだった。
足立は目を細めると、まるで獲物を追い詰めるような笑みを浮かべて、囁き返す。
「でもさ
……
その次は?キスのあと、僕に何するつもりだったの?」
低く囁かれた問いに、鳴上の背筋がかすかに震える。答えられるはずがない。けれど、言わなければならない雰囲気を、すでに足立が作り上げていた。
「それ、は
……
」
声にならない声を絞り出しながら、鳴上は唇を噛む。指を絡められた手がじんわりと熱を持っていくのを感じながら、鳴上は深く息を吸った。
「足立さんの、首とか、肩とか、噛んで
……
」
ぽつり、ぽつりと落ちるように紡がれる言葉は、羞恥の色を帯びながら、なおも濁さずに続く。
「もっとくっついて、いっぱい触れて
……
その、」
喉が詰まる。けれど足立の指先が、促すように、やさしく指の腹をなぞった。
「えっちなことも
……
したかった、です
……
」
耳まで真っ赤になったまま、鳴上は俯いて動かない。けれど足立に弄ばれている手を、わずかに握り返している。足立はくすりと笑ってから、すっと椅子を引いた。立ち上がると、鳴上の手を引いて移動を促す。その視線は、鳴上の見間違いでなければ寝室の方向。
「じゃ、させてあげよっか」
「
……
え?」
「僕の悪戯はもうおしまい」
そう言って、足立は柔らかく笑った。穏やかで、からかい半分で、でもどこか優しさの滲む顔。その瞬間、鳴上の胸にふと湧き上がるものがあった。
「
……
じゃあ」
立ち上がった鳴上が、足立の手を握り返す。
「
……
トリック・オア・トリート」
「
……
は?」
呆気に取られたような足立の声が、小さく響いた。
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