はしびろこう
2026-02-09 19:02:03
20954文字
Public
 

治安悪ラヴァ

アシュヨダ前提🐮ラヴァわちゃわちゃ
アッパー集団🐮ラヴァが書きたかった



 〝速報が入りました。カウラヴァ社CEO、慈善活動家の顔も持つドゥリーヨダナ氏が覆面の集団に拉致されたとのことです〟
 ドゥリーヨダナ誘拐の報をドゥリーヨダナが聞いたのは、親友たちとたまの休みを満喫して朝のティータイムに興じている時だった。
——わし様が誘拐されとる!」
「今日のドゥリーヨダナは?」
「ドゥフシャーサナだな」
 ドゥリーヨダナには兄弟や親戚が多い。顔の見分けがつくのは当人たちか、もしくは親友の二人だけであろう。——それをいいことに、特に仲のいい弟に、時たま仕事を任せていた。
 顔だけ出せば良いパーティや式典などは恰好の入れ替え日和だったのだ。
 そしてそれが今日であり、無論噂に響くつよつよの友達を連れていないことも、誘拐成功の要因だったろう。
 身代金、だろうか。それならいいのだが時期がいまいちよろしくない。今活発に誘拐殺人事件が多発している。襲撃時の動画をアシュヴァッターマンが引き当て、画面と同期して壁にその時の動画を映し出す。
 実に見事。
 客席の足元に威嚇射撃をして、パニック、土埃と人が伏せ、要人には護衛が覆い被さる。その間に舞台の裏から出てきた顔を隠した男が黄色い紐で護衛の首を絞め落とし、〝ドゥリーヨダナ〟を連れて行っている。式典のボランティアスタッフに紛れ込んでいれば可能だろう。
 いまだに会場は銃の乱射パニックで、舞台上でドゥリーヨダナと列席していた政治家二人が連れて行かれたことにまだ気が入っていない。
 定点カメラでなければ見ているものなどいなかった。
「誘拐された、が、これは」
「最近活発な戦女神信仰の奴らだな」
「見事な手際だ」
 戦女神に捧げる供物。人身供物をする宗教団体だ。世を良くするため、女神様のため、悪人を捧げろ、とのことらしい。
 彼らは生贄に血を流させず捉え、また生贄にするときも血を流させず、黄色い麻紐で絞殺することを旨としている。
 つまるところ、誘拐されたってことは次の女神の供物を備える日までがリミット——ということであった。
「‥‥次の祭典はいつだ」
「新月の夜更けに捧げるのが習わしだから——ちょうど一週間後」
 宗教団体の相手は面倒だ。
 目障りだと思ってはいたが、ついにこっちに手を出してきたのならばこの際で潰してしまいたい。
 しかしいかんせん兵隊の数が足りない。拠点を潰すだけなら可能だろう。だがそこから脱走した信者たちを待ち伏せて捕まえる人員がどうしても足りない。思想犯は逃すと面倒なのだ。なんてったって損得じゃなく本人の正しいというそれだけで本気で殴りかかってくる。
 ドゥリーヨダナは表向き単なるCEO、慈善活動家なのだ。
 下手に宗教過激派に兵隊を表立って動かすことなどできないし、名前が出るのもまずい。
 戦闘員にしても、少数精鋭の部下しかいない。
 あ——どこかに兵隊とかはえとらんかなぁ。
 そんなことを考えていれば、ドゥリーヨダナの耳にまたしても別の速報が入る。
 ※
 チッ。ビーマが舌打ちをしたのは誘拐事件の速報が流れてきたからだ。ドゥリーヨダナと共に捕まった政治家は、今時珍しいくらい清廉潔白な男で、兄もずいぶん世話になっている。
 ただ清廉潔白がすぎて、公式の場で例の宗教を批判し敵対声明をぶち上げてしまったのである。清濁合わせ飲めないタイプなのた。嫌いじゃないが、どうにもならん事態に巻き込まれることもある。今とか。
 宗教にとっての悪人とは、その考えを否定する人物。ただ、戦女神を信仰する宗教はまた別の政治家に政治資金を大金寄付しているため、確たる証拠がなければ表立っての捜査はできない。
 あの政治家は助けてやりたいが、どうにかしてあのトンチキだけ見殺しにできないものか。
 そんな公安らしからぬことを考えていたビーマの耳に廊下を走る音が届く。
 めずらしくアルジュナが廊下を掛けてくる音が聞こえ、急いではいても早歩きに止める弟が珍しい、と思えば後ろには双子の弟、オルタもいる。
「兄ちゃん!」
「どうした、珍しいな。お前が走るほどのことがあったのか?」
「ユディティシラ兄様が!」
 は?
 曰く、犯行声明の今回生贄に捧げる者の中にユディティシラの名前があったので確認したところ、急襲を受けており捕まってしまった事実がこちらに届いたそうだ。
 クソ、これは何がなんでも助けねばならなくなった。
 だが次の予定まであと一週間——秘密裏に動かせるのは精々公安の今浮いているメンバーくらいだ。表立って人数動かせる作戦もあるが、どう考えても捕まった方の安全を先に確保しなくてはヤケバチになった宗教団体が何をするかわからない。どう考えても私的に動かせる別動隊がいるが、大々的に人数を動かそうと思えば俺たちの動きは〝私情〟。クソ、どうすればいい。
 そう思っていれば、スマホが鳴る。
 知らない番号。以前にもこういうかかり方をしてきたことがある。前回も嫌々ながら、絶対必要だった男。舌打ちしながらとる。
『や——い!お前の兄人質——!!!』
 とった瞬間クソボケカスすぎる絶叫が鼓膜を叩き、こいつだけどうにか見殺しにできねえかなぁ‼︎と全力で思ったが、捉えられている男から連絡が来るはずがない。
「よぉトンチキ。お前も誘拐されたらしいのにめちゃくちゃ元気そうじゃねえか」
『誘拐されたらかけられるか間抜け!こちとら健在ですぅー!ばーか!』
 こちらに対する小2くらいの罵倒言語。間違いない、ドゥリーヨダナだ。
『誘拐されたのは別の男だ。だが助け出さねばならん』
「へえ、お前がねえ」
 一抹の良心を見た気がしなくもないが、それがどうした。こちらも兄の命がかかっていて、絶対助けねばならない。
『お前のとこも政治家の息がかかった奴がおるから表立って行けんだろう?——本当に嫌で仕方がないが手を組まんか?』
 男の声が低くなり、真面目な話に入ったことはわかる。
——NOと言ったら?」
『兄上との再会が無言のものになるだろうな。その場合わし様は弟しか助けん』
「‥クソ野郎」
『なぁに。お前たちは〝たまたま〟善意の通報者から来た通報に〝たまたま〟現場近くで演習中で〝たまたま〟現場から逃げる奴らを不審人物として捉えるだけでいい』
 実働はやる、手柄もくれてやる、なんなら感謝の言葉も公的に送ろう。だから人員を寄越して後片付けをしろ、と言うことだ。
「チッ——借りじゃねえぞ」
『わかっておるわ、決行は六日後だ。場所は送る。なるたけ人数集めて包囲しやすいところで演習しておけ』
 ぶつ。言いたいことだけ言って切りやがったし、こっちだって長話がしたいわけではないが。
 オルタが猫のように下から眺めている。
「ビーマ兄様、‥奴らからですか?」
「ああ。クソ、やりたくねえが手を組まねえと兄貴が」
「‥‥今回ばかりは——仕方ありません、——何より実働部隊としてこの上ありません」
 実力だけは、認めている。目線の先に、以前狙撃のしあいで決着まで持ち込めなかった白い男を瞳に浮かべながらアルジュナは真剣な面持ちで答える。
 兄のためならば、仕方がない。そう心を落ち着けていれば、明らかな捨てアカウントからメールが入る。地図と、件名。
『馬鹿ビーマへ。脳みそがあるならここに配置しろ』
 ——どうにかしてこいつだけ殺せねえかなぁ!?

▪︎

「うーん、これ行けるか?」
「アシュヴァッターマンの負荷が重いようだが」
「行けるっつーの、任せろ」
「うーん、そうだなぁ。お前がそういうなら問題ないだろうが、一応ヴィカルナにそっちまで手が回らなくても行けるように山に置いておくか。通報役も頼むしな」
 山の中にある施設なのに複雑な施設の地図に顔を突き合わせあって、電気配線やら何やらの確認をしながら会議をしていた。
「じゃ、俺は練習してくるわ」
「俺も手配に行ってくる」
 それぞれの役割が決まった後、ドゥリーヨダナはソファに深く腰掛け直しながらそういえば、と口を開く。
「そういえば、わかっておるか?」
「む?」
「ぬ?」
「後片付けを任せるってことは?」
「「派手に暴れていい」」
「はっはっは!よしよし!えらーい!行ってこい!」