はしびろこう
2026-02-09 19:02:03
20954文字
Public
 

治安悪ラヴァ

アシュヨダ前提🐮ラヴァわちゃわちゃ
アッパー集団🐮ラヴァが書きたかった



「埃っぽい、椅子が硬ぁい」
 捕まえた男を、部屋で両の手足を椅子に括り付けておけば、紫蓮華の色をした男は人を食ったような問答で文句を垂れる。余裕そうな顔に舌打ちして、銃を差し出し発砲——床と、男の足の甲に穴を開けた。
「っぐ、う、う」
「質問の答え以外に話すことは認めていない」
 すでに何発か殴った顔は腫れているし、蹴った腹は靴の汚れがついている。
 足に空いた穴を踏みつけながら前髪を引っ掴んだ男の顎を上げさせれば、垂れた目が痛みに歪められたのに構わず顎の下から銃口を突きつける。
「データをどこに隠した?」
 先日紫蓮華の男が派手なカーチェイスの末に手に入れたデータの話だ。
「さぁな、なんの話だ?」
 わかっているだろうのに、男は厚い唇をゆるめた。現場でメモを置いてきたが、曰くあの場に残した男はそれよりも自分が捕まったことを先に処理する男だと笑う。
 丁寧にセットしたであろう前髪引っ掴んで椅子の背に乱暴に押さえつけるが、緩やかに緩めた口元はどこ吹く風。
 ふと。
 遠くから、銃声と悲鳴が聞こえた。
「お迎えが来たか?早いな」
 男を置いてきた時、この男を守る双璧を為す男を置いてきた。だが流石にこの時間では人を集めてきたわけでもなかろう。
 迎えの男の死体ができたらすぐにもってこい、と聞こえよがしに行って、椅子の後ろに控えさせていた髪をまとめた男を退出させたが、——徐々に自分の口角が下がるのかわかった。
 鞭を打つような銃声が建物の中に響く。
 徐々に聞こえる爆音、轟音、悲鳴が入り口から近づいてくる。
 派手な音に思わずと言ったように笑う、椅子に縛り付けられた男は顔をゆるりと傾けて、ぱらりと前髪が片目がまばらに隠れて。

「あーあ、あやつが一番お前達に同情的な穏健派だったのになぁ」

 何を言っているのか、と思ったが、一際大きい音がして建物が震え、血の底から響くような怒りの怒号が響き——地鳴りが近づくようなそれに肝が氷点下まで冷える。
「何——何笑ってやがる!」
 冷えた肝をどうにか奮い立たせて銃の底で目の前で不快に笑う男の頰を叩くが、腫れたほおを引き攣らせて男はなおも笑う。
 その間に足をもつらせながら——先ほど退出させた男の足音がドアの前まで来て、ドアを乱暴に開ける。
「ボス!あいつ無茶苦茶だ!今すぐ——
 ドボッ。
 人間って潰れる時こんな音がするのか。褐色の男の腕が、素手で殴って頭を飛ばしたのだ。首から噴水みたいな血が吹き出し、体が落ちる。
 手から、と言わず全身から血をしとどに落とす褐色の男が幽鬼のようにぬるりと現れて視界に収まる男は常軌を逸していた。
 自分が獣であったなら、この場から一目散に脱走しただろう。
 こちらに向けられた目は、血走っているのか返り血が目に入ったのか、白目が白目じゃないような状態で、ギョロリと拘束している男に目線が飛ぶ。
 椅子に拘束されている男を盾にすべく腕を伸ばす——伸ばしたはずだったのに。
 気づいたら肘から先がない。
——え」
 ぼと、先ほどまでくっついていた腕が、一度落ちて跳ねる。
 どぷ。転がりながら血が地面に広がり、先ほど穴を開けた男の足もとに転がって。
「ぎゃぁああ!!ああああ!!」
 視線を戻せば、男はその場から動いてもいない。
 ただし、壁にあった飾りの斧を引っ掴んで、寸分違わず投げて腕を飛ばしたのだ。
「あ、あ、あ——
 血に濡れそぼった男が近づくのに音はない。幽鬼なのかもしれない。ガタガタ震える脚はもはや男を盾にすることも銃を掴んで構えることも——逃げることも許してくれなかった。

「汚ねえ手でその人に触れるな」

 どぼっ。今度は、自分の肉の音を聞く。
 胸に穴が空いていたのがみえた。

 ※

 部屋の中は精肉工場の臭いだ。丁寧に肉塊まみれにになって壁に誰とも知れん肉が、目玉が、皮が張り付いている。
 人だったのかわからないようなそれを踏みつけ続けているアシュヴァッターマンに、ドゥリーヨダナは声をかけた。
「アシュヴァッターマン、窮屈だ。解いてくれ」
 声をかければ、鬼のような、死神のような顔をしていた男が子犬のように健気にこちらを向いて、走り寄ってくる。
「旦那、怪我は——
 改めて身体を検分し、頬と、腹と、足元の怪我にこの世の終わりのような顔をしながら足の止血を始めた。
「クソ、クソッ——すまねえ、旦那」
「デザート食べ損ねたな、デザート食べに行こうな」
 怒ってもいないし気にもしていない。むしろ早く来てえらいぞ、くらいの口調で頭を撫でて抱きしめてやれば、アシュヴァッターマンは言いたいことを全て飲み込んで、ぶつりと拘束を断ちながら。

「病院が先に決まってんだろ!!」

 なお、病院では欲するデザートを無限に買ってきたしワガママも全部聞いた。