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DRRV11037
2026-02-05 13:21:14
18106文字
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DRRV 1章 日常編
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食堂
食堂の扉を開けるとすぐに、ほっとするような暖かくて美味しそうな匂いが鼻をかすめて、16人用の長いテーブルにのった料理が目に飛び込んできた。
斜め切りにされたかりかりのバゲットが一切れずつプレートに添えられている。その隣に、新鮮なレタスのシーザーサラダがどんと盛られていた。ころころした赤く丸いプチトマトと橙色の半熟ゆで卵が半分に切って2つ3つとのせられているおかげで、太陽みたいに彩り豊かだ。脇でおとなしそうに控えているのが、琥珀色に透き通った上品なスープ。表面から立ちのぼる湯気が食堂全体に良い香りを運んでいる。プレートの奥に寝そべっている銀色の包みのなかには、何が入っているのかワクワクする。ホイル焼きだろうか。どれも凄く美味しそうだ。この短時間で用意したとは思えないくらい、豪華だった。
「カップ麺とか想像してたんですけど
…
」
「
…
僕も
…
」
裁門さんと黒原くんが目をぱちぱちと瞬いた。良い意味で期待を裏切られたようだ。
「おかえり!!」
厨房から榊くんが出てきた。エプロン姿が驚くほど様になっている。その眩しい笑顔を見ると、なんだかひどく安心した。
「メシ作っといたぜ。ホイル焼きは桜衣兄、スープは天探、サラダはオレの担当!」
「凄い
……
!作ってくれてありがとう、」
そう言いながら思わず顔が綻んだ。
「
……
なんか、主婦みたいやな?」
彼の姿を見て小栄くんが呆気にとられていた。すると榊くんはちょっと意地悪な笑みを向ける。
「おっ、小栄お腹空いてないんだな。夕飯やめとくか?」
「えっ」
「お前の分は全部オレの分な!じゃ、そっちの皆は座って待っててくれ」
そう一方的に宣言して、もう決めたことみたいに、榊くんは厨房のほうへずしずし歩いていってしまう。
「えっっ!?待って待って待って!!?ごめんって!」
小栄くんは榊くんを追いかけていった。ぺしっと頭を叩かれて、料理の乗ったお皿を持たされる後ろ姿が見えた。
全員が揃うと、16人分の席が全て埋まる。
小学校か中学校の給食を思い出すくらいの大人数での夕食だ。
「さっきはご迷惑をおかけしてすみませんでした!自分の意見を押しつけてしまってました
…
。」
食事に手をつける前に、改瀬さんは、意見の対立していた子たちにも謝った。
「構わないわ。貴方まだ高校生なんだから。むしろ良い子すぎるくらいよ」
と、同じく高校生のはずの天探さんがあっさり許した。
「別に気にしてない」
と楠木くんも短く返す。
「いいですよ。僕のほうこそ酷いことを言ったので、実はさっきからいつ謝ろうかと悩んでいました。申し訳ございません。」
楸谷くんが薄く微笑んで頭を下げると「いえ、そんな
…
」と改瀬さんは慌てた。
テーブルに堂々と肘をついて眺めていた釘山さんが、場の雰囲気を切り替えるように言う。
「ま、これで解決ってことで。美味しいもん食べて忘れましょ!」
「そうだぜ!早くしねーと、スープ冷めるぞ!?」
と榊くん。
「それは大変だ!天探さんが、冷えた身体を温められるよう提案してくれたものなのに」
と三品くんがおろおろしだした。
パンッ、と榊くんが小気味良い音を立てて両の手のひらを合わせた。
「手を合わせてください!!」
いただきますを言おう、ということらしい。
「中学校の給食ですか!?」
と改瀬さんが突っ込んだ。
「ダサい!やり直し!もっとスマートでエレガントかつビューティフルにして!」
昼間くんからそんな無茶ぶりが入った。
困ってしまった榊くんが、たまたま近くの席で、そんなイメージのある三品くんにこの難題を押しつけようとした。
「
…
三品ならどうやんだよ」
三品くんはにっこり微笑むと、静かに目を閉じて両手を組んだ。
「天におられる我らが神よ、御名が手となり万物をお包みくださりますように、御教えが声となり地上へ降り注ぎますように、御心が───
……
」
「祈り始めちまったッスよ
…
」
釘山さんが呆然と見つめている。
白跳さんが「これは長そうだねー」と彼の顔を覗き込みながら言う。
「クソッ、埒が明かねー!
…
いただきます!!!」
場が混乱してきたことを察知した榊くんは、半ば無理矢理に押し通した。そしてみんなもいただきますを言って
……
私たちはやっと食事にありつくことができた。
「えっ?ヤバ、めっちゃ美味しい」
「料理上手さんだねー」
真っ先に一口食べた裁門さんが、口元に手を添えて驚きを表現した。スープカップを持って両手を温めている白跳さんは、珍しく微笑んでいる。
私も、冷めないうちにスープをいただくことにした。優美な曲線を描いた取っ手付きのカップを持ち上げると、澄んだオニオンスープが少し揺れる。底に細い玉ねぎの一本一本が折り重なって沈みたゆたっているのが、細い花びらのようだった。カップを傾けて一口飲むと、繊細で優しい玉ねぎの甘みが口の中に広がった。冷えた身体が温まるような感じがして、思わずほっこりする。天探さんにこんな親切な一面があっただなんて。初対面のときの冷たい子だという思い込みを謝りたいくらいだった。
「
…………
人間の食事って感じがする
…
」
「マジそれッス
…
」
同じくスープを飲んでしみじみとしている黒原くんと釘山さんに対して「褒められている気がしないわね
…
」と天探さんが微妙な表情を浮かべた。
気になっていた銀色の包みをカサカサと開いてみると、橙色のほっくりとした切り身と添えの野菜が入っていた。鮭のホイル焼きだ。柔らかく、あっさりとほぐれたそれを口に運ぶと、魚の脂とバターがじゅわりと溶け合っている。
「だーりんが俺の作ったご飯食べてる
…
」
夜深くんは、隣に座る楠木くんをじっと観察している。桜衣くんたちのグラスにはオレンジジュースがなみなみ注がれている。
「だーりんじゃないから。あと、じっと見られると食べづらい」
楠木くんは困ったように目を逸らした。
その陰でそそくさと、昼間くんが兄の皿から鮭の一欠片をかっさらっていった。超高校級の怪盗の盗みを見るのは初めてだけど、なんだか猫に似ている。
と、自分のプレートに目を戻した私は、サラダの卵が減っていることに気がついた。あれ?と固まった私の肩を、右隣に座る改瀬さんがつつく。
隣を見ると、彼女は半熟の卵をフォークで突き刺したまま、にひひと笑っていた。
「さっきの。約束でしたよね?」
あぁ、と私は笑った。
「今食べようとしてたのに、」
卵は彼女に取られてしまったみたいだ。でも、とろりとした黄身をこぼさないように頬張っている改瀬さんが微笑ましくて可愛らしいから、少しも気にならなかった。
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