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いまち
2026-01-04 12:56:05
56479文字
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バウルおじーちゃんと孫の嫁
⚡🐣ベース⚡ほぼ不在。人間嫌いのおじーちゃんと孫の嫁のほのぼのハートフルコメディ(自称)
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つむじ風の来訪
夏の盛りの昼下がり、バウル・ジグボルトは窓辺でうとうと微睡んでいた。
普段は仕事に鍛練にと忙しなく動き回るバウルであるが、今日のような暖かいをやや通り越した
――
平たくいえば暑い日はぼうっと過ごすのを好んでいた。陽だまりの心地よさにほわほわ口元を緩めていると、ふいに家のドアをノックする音が響いた。
「む?」
ぽわぽわした心地よさは搔き消え、バウルははてと首を捻った。今日バウルに来客の予定はない。ついでに来客に繋がる事柄に覚えはなく、さらにはそのノックの音にも覚えがなかった。果たして知る仲の者にこんな静かに戸を叩く者はいただろうか?
誰と知らずとも、わざわざ訪ねて来た相手に知らぬ振りをするわけにはいかない。バウルは首を捻りながらも戸を開けた。熱気をはらんだ空気がむわっと入り込むが、そこに誰ぞの姿もない。
「お義祖父さま、こんにちは」
はてと思う間もなく耳に届いた声。聞きなれない声に覚えのない気配。それらにまさかとバウルが目線を下げると、見慣れない、雛鳥のような顔をした娘がバスケット片手にバウルを見上げていた。茨の谷でもめったに見ない人間の娘である。
そののほほんとした顔に、バウルは馴染みはなくとも覚えはあった。つい先日きゃわいい末の孫と姓を搔っ攫っていった人間の娘、ティナ・キースリンクである。それと知り、バウルは頭の奥が凍り付くような緊張を覚えた。
「
――
ッ」
馴れ馴れしい! 貴様にお祖父様などと呼ばれる筋合いはないッ!!
咄嗟にそんな言葉が脳裏をよぎったバウルであるが、そこは夕焼けの草原に住んでいた男である。忌々しい人間であれど、淑女に怒鳴りつけるなどもってのほか。喉元まで出かかった雑言を飲み込み、そっと呼吸を整え、ちまこい娘に目線を合わせた。
「
……
何の用だ」
「お義祖父さまにご挨拶に伺いました。お料理もあるので、お食事がまだでしたらどうかなーって」
言いながら、娘は持っていたバスケットを持ち上げた。瞬間、酸味を纏った香ばしい匂いがふんわり広がる。
人間の作った料理なぞ食えるか! 帰れ!! 反射してそう返しそうになったバウルであるが、美味しそうな気配を察し、ついつい言葉を飲み込んでしまった。それもそうだ、その匂いの元といえば、自身の好物である
――
「
……
サーモンか」
「はい! セベクくんから、お義祖父さまもサーモンが大好きだと伺ったんです」
よかったらどうですか。ぴよっと見上げてくる娘に反発したい気持ちは大いにあった。けれど、料理の匂いに刺激された腹はその気持ちを押さえ込む。腹に従ったバウルは不承不承、頷いた。料理に罪はないので。
+++++
「ハッ!?」
娘の持ってきたバゲットサンドをがぶがぶ平らげ、具材たっぷりのキッシュをもちもち食し、果物の香りのする茶をくぴくぴ飲み、お腹まんぞくさんになったところでバウルははたと我に返った。
適当なところでケチをつけ「アンタなんてウチにはふさわしくないのよ!」的な悪役令嬢ムーブをかまし、娘を追い返すつもりだったバウルであるが、予想以上においちい料理にすっかり夢中になってしまった。
そんなバウルを娘は温かい笑顔で見つめていた。ヒヨコちゃんみたいな顔をした孫みたっぷりの娘であるが、ママ力がバリ強い蟹座の女なので。
「お口に合いましたか?」
「
……
あぁ。馳走になった」
「よかったぁ。私、お魚料理はちょっと得意なんです」
えへへー、とぴよぴよ笑う娘にバウルはもよもよっとした敗北感を覚えた。「誰がお祖父様だ!(※お義祖父さまである)」「人間の作った物なぞ食えるか!(※食った)」「貴様のような軟弱な人間、親族とは認めんぞ!(※もう孫の嫁)」言いたいことは数あれど、そのどれもが喉につっかえ何も言えねぇでいた。なお最後の文句は娘婿に対して思っていることであり、娘に対してはさほど思っていない。人間の娘など軟弱であってしかりなので。
とはいえ、娘は元いた世界では年端もいかぬ頃から魔物退治をしていた身なので全くもって軟弱ではない。虫も殺さない町娘のような身形でありながら殲滅力で言えば孫より勝る、死骸も残さねぇおっかねぇ娘なのである。
娘の物騒さはさておいて、持ち込まれた料理を満喫してしまったバウルはみぎっと眉間に皺を寄せた。娘に対しどんな感情を抱けばいいのか分からず、気持ちを持て余していたのだ。
バウルは気難しい顔をした厳しい翁であり、それはバウル本人も自覚している。ひと睨みすれば人間も魔獣も怯み、なんならかつての部下たちもおっかながるほどに面の圧が強いのだ。そんな己が邪険な態度をとっているにも関わらず、にこにこ笑いながら見上げてくる娘が不可思議かつ不気味なものと思ってしまったのだ。
一方の娘といえば、夫と義家族からバウルについて「顔は怖いが身内には甘い好々爺」だと聞いていた。また、娘自身も荒くれ者が集う酒場で看板孫をしていた身であり、図体のデカい強面の男に慣れていたのである。ので、険しい顔のバウルには微塵も怯まず、なんなら懐かしさすら覚えてほのぼのしていた。
そんなわけで、ぎいっと睨みを効かせながらも内心バクバクしているバウルと、心身共にほのぼのにこにこしているヒヨコちゃんという愉快な構図が浮き上がってしまった。
でっかくておっかねぇのにちぃこくてかわちぃのが懐いてるのってかわいいよね。実に心温まる光景である。
「むぐぐ」
ただし、バウルの内心は荒れ模様のもよう。
+++++
「お邪魔しましたぁ。またお伺いしますね!」
「
……
。あぁ、馳走になった」
食事を終え、娘は長居するでもなく手早く後片付けを済ませるとバウルの家を後にした。娘は一人で商店を営む身であり、長時間店を空けるわけにはいかないのだ。
娘を見送り、てこてこ歩く後ろ姿を眺めながらバウルはため息をついた。結局、娘に対しどう接すればいいのか決めかねているのだった。
かつてのバウルは人間に対し強い忌避感を抱いていた。それは時を経て、娘婿を迎え、孫たちを愛でているうちに和らいできてはいる。けれど、かつて抱いた憎しみはいまだ胸の片隅で燻っており、人間を受け入れようとする気持ちは持てない。
なのに、娘に対してはそんな気持ちが起きなかった。嫌なはずなのに嫌じゃない。それどころか自身の娘のように愛らしく思えてしまう。それが我がことながら不可解で、バウルは形容しがたい据わりの悪さを抱えていた。
種を明かしてしまえば娘の父親が妖精に好かれやすい体質であり、その血を継いでいるだけの話である。けども、そんな事情をつゆ知らぬバウルはまじイミフと悶々とし、眉間に皺を寄せ、奥歯をミシミシ噛みしめた。
一方、そんなバウルの気なぞつゆ知らぬ娘はニコニコ笑いながら、軽くなったバスケットをブン回していた。
お義祖父さまにお料理を気に入ってもらえてよかった。お義母さまとセベクくんに好みをリサーチした甲斐があったなぁ、などと胸をぽっかぽかに温めながら。
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