ユキ
2025-12-25 16:03:41
33785文字
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🌲🎏アドベントカレンダー

同棲している杉元と鯉登が過ごす12月をまとめたものです


【⠀12月24日⠀】

「とうとう最後の一切れか……
「分厚くね?」
 
 二センチ、はないけどそこそこの厚みがあるシュトレン二切れをトースターに入れる
 ジリジリとオレンジ色の光に照らされるシュトレンを二人並んで見ながら、来年はどうするか話す。まぁ、毎年同じような話をしてるのに毎回同じような事を繰り返してるから来年も変わらないだろう
 
 ほうじ茶入れてくる、と湯沸かし器の方へ向かう鯉登によろしく、と声をかける。あいつの家から届いた荷物の中に入ってたお茶、昨日入れて飲んだ時の懐かしそうな顔を思い出して、そんなのあったんだと驚いた急須に茶葉を入れている鯉登にバレないようにへらりと笑う
 ティーバッグみたいな手軽なものしか買ったことないけど、あんなに良い顔してくれるならどこに売ってるのか調べて買いに行こう
 
 そんな事を考えている間にチン、と高い音が鳴ってゆっくり暗くなっていくトースターの中からシュトレンを取り出した。表面は良い感じに色付いて、バターとお酒の香りがふわりと香る
 溶けた周りの砂糖はかなり熱いから火傷しないように慎重に皿に移して、鯉登の方を見ると沸騰したお湯を湯呑みに注いでいる
「なんでお湯だけ入れてんの?」
「温めておいた方が美味しくなるとかかどんが言っていた」
 ふふんと鼻を鳴らして得意気な鯉登になんでお前がそんな偉そうなんだよとは思うけど、こういう教えてもらった事をちゃんとするのがこいつの良いところなんだよなぁ、と苦笑する
 
 なんとなく頭を撫でたくなって、皿を持っていない方の手を伸ばして形の良い頭に手を乗せる
 特に抵抗もされなかったのでそのまま二回目のお湯が沸くまでの間、指通りのいい髪の感触を楽しんだ
 ピー、と鳴る高い音
 するりと手の下から抜け出ていく頭にちょっと寂しくなりながら先にこたつへと向かった
 
 少し冷めているけどまだほんのりと温かいカリカリのシュトレン
 ラスクみたいで美味しい、と去年試してみてからお気に入りの食べ方だけど、今回はちょっと分厚いからか中の方がまだしっとりしていてそれもまた美味しい
 ずずっと香りのいいほろ苦いお茶をすすると、甘くなった口の中がさっぱりする
 ほぅ、と湯呑みから口を離して息をつく自分の顔をじっと鯉登が見ているのに気が付いて首を傾げると、ふふっと顔を緩ませた鯉登がなんでもないと言って湯呑みに口を付ける
 
……なにぃ?」
「なんでもないと言っているだろう」
 つんつんと、こたつの中で足をつつけばくすぐったいと鯉登が笑う
「美味いな」
……そうだねぇ」
 気にはなるけど、くすくすと笑う鯉登の顔にまぁいいか、と少し冷めたほうじ茶を飲み干した
 
「楽しみだねぇ」
「ああ」
 クリスマスイブ
 今日の夜サンタさんは来ないけど、明日の朝の楽しみに二人で顔を見合わせて笑った






【⠀12月25日⠀】

 縦半分に切られた桜島大根を冷蔵庫から取り出して両手で持つ
 さて、どれくらい食べられるか
 半分になってもまだずしりと重たい大根を抱えて少し悩んだが、まぁいけるだろうとさらに半分にして使わない分をラップで巻いて冷蔵庫に戻す
 
 四つ切りにした大根を皮がついたままスライサーで薄切りに、一緒に送ってくれた葉の部分も軽く洗って食べやすい大きさに切る
 沸騰したお湯に塩を少し入れて大根、ちょっとしてから葉を入れて二分程、ざるに上げ、冷水にとる。冷めたら水気を切ってボウルの中に
 大根とハム、そろそろ期限が切れそうだからカニカマも入れて、マヨネーズと醤油で味を整える
 
…………よし」
 なかなかの出来にきゅっと口角が上がる。家から持ってきた皿に盛って、さてあっちはどうだろうとリビングの方に視線を向けると
 コンセントの都合で床に置いているホームベーカリーと、その前で正座している杉元がいた
……何してるんだお前」
「待ってる」
 後ろから覗き込めば焼き上がりまで残り二分の表示、いつからこの体勢で待ってるのかが気になって足をつついてみた
「ッッ!?」
「おぉ……
 声にならない悲鳴をあげて勢いよく倒れ込み、ビクビクと悶えている杉元の足をさらにつついてやれば汚い声を上げながらゴロゴロと転がって遠ざかって行ったので、追いかけようと足を踏み出そうとした時にピーという高い音が鳴った
 
「あ、焼けた」
……おいこら……おまえまじでふざけんなよ……
 うきうきと白い家電の前にしゃがみこむと後ろから息も絶え絶えに這いずってきた杉元がなにか言っているが、今貴様に構ってやる暇は無い
 ポチリとスイッチを押して蓋を開く。立ち上る白い湯気とふわりと広がる甘くて香ばしい匂い
「「おぉ……」」
 いつの間にか隣に来ていた杉元と一緒に覗き込んだ釜の中、綺麗な焼き色がついたパンに感嘆の声を二人揃ってあげる
 
「ほら、早く取れ」
「お前があんなことしなかったらすぐにやりましたけどぉ?」
 ぶつくさ言いながらミトンをはめた両手で内釜を持ち上げてテーブルの上に置いたまな板の上にひっくり返す
 軽く揺すって釜から外れた焼き立てのパンは見るからに美味しそうでそっとひっくり返す杉元の周りをそわそわと歩き回る
「ふは……ちょっと落ち着きなよ」
「む……コーヒー入れてくる」
 せっかくだから、とドリップした少し良いコーヒーを入れたマグカップを持って戻ると待っていたらしい杉元が、ミトンを外した手をパンに添える
「「おぉぉぉ」」
 熱っつ、と言いながらふたつに割ったパンの真っ白な断面からぶわりと立ち上る白い湯気
 
「え、このまま食べたい」
「わかる」
 いっちゃうかぁ、と食べやすい大きさにちぎって渡されたふわふわのパンを両手に持って齧り付く
 
「「……………………」」
 無言で食べ切り、手を伸ばしてちぎる前の半分を手元に引き寄せる
「やばぁうまぁ……
……うん」
 パクパクと手に持ったパンをちぎっては口に運んで、どんどん小さくなっていく手の中の塊にもう少し大きいサイズのものを買えばよかったかもしれない、と少し後悔した
 
 半分くらいそのまま食べ続けて、やっと他の用意したものに手を伸ばした
「これ美味しいねぇ」
 さっき作った大根サラダがどんどん皿の上から無くなっていくのが見ていて気持ちが良い
 まだあるぞ、とまだ半分ほど残ったボウルごと持ってくればやった、と喜ぶ杉元がなんだかやけにニコニコしているのが気になった
「これさぁ、鯉登の家でよく出てたやつ?」
……? まぁ、そうだな」
「そっかぁ……
 もう一口、今度はゆっくり噛んで飲み込んだ杉元が美味しいね、と笑う
……そうだな」
 ぱくりと箸で掴んだサラダを食べれば、懐かしい家の味が口の中に広がる
 今度作り方教えて、と言いながらぱくぱくと箸を進める杉元に任せておけ、と返す声が自分でもわかるくらい弾んでいて少し照れくさくなった
 
「「ごちそうさま」」
 あっという間に無くなった焼き立てのパンとサラダ
 パンに合いそうなものを色々と準備していたのにほとんど手を付けずに食べ終わってしまった
「明日の朝も焼く?」
「そうだな……材料まだあったか?」
 見てくる、とキッチンの方へ行った杉元を見送り、空になった皿とマグカップをまとめてシンクへ運ぶ
 冷蔵庫の中を確認していた杉元がばっちりと指を丸くして、明日はどうやって食べようかと持ってきた洗い物を受け取る
 二人並ぶには狭いキッチンで、ジャムは何味が一番美味しいかについて議論しながら洗い物を終わらせて
 こっちも二人並ぶには狭い洗面所で肩をぶつけながら歯を磨いて髪を整えて
 
「今日は何時に帰れそう?」
「多分予定通り……お前は?」
「残業は無い、と思いたい」
 しわくちゃな顔で忙しいよなぁ、とボヤいている杉元の手にマフラーを乗せればこの間よりはスムーズに結ばれる
 
「帰る前に連絡しろ……時間合いそうだったら待ち合わせて一緒に帰るぞ」
「りょーかい」
 きゅっと結ばれたマフラーは今日は苦しくない
 
「「いってきます」」
 しん、と暗い室内に声をかけて扉を閉める。杉元の持っている鍵に付いているおそろいのキーホルダーが少し汚れているのが気になったのでひょい、と取り上げた
「どしたの?」
「んー……今度水族館行くか」
 またおそろいで買おう、と鍵を返して足を踏み出す
 少ししてから慌てて追いかけてきた杉元が顔を覗き込んできていつにする? と嬉しそうに聞いてくるのが面白くてマフラーに口元を隠して笑った
 
 いつにしようか、どこに行こうか
 そうやって二人でああだこうだ話している時間も楽しくて、愛おしい
 
 二人で過ごす日常がこれから先も続きますように
 クリスマスなんだから、それくらいお願いしてもいいだろう
 そんな事を考えながら隣を歩く杉元の手をぎゅっと握る
「楽しみだな」
「楽しみだね」
 ひひ、と笑うその顔にあぁ好きだなぁ、とぎゅっと胸がいっぱいになる
 
 今日はクリスマスだ
 たまには、と嬉しそうに笑う杉元と向き合って、口をひらいた