トウメイ希望
2025-10-11 16:20:19
21571文字
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【ルデナナ】道の先へ

牧場物語「三つの里の大切な友達」の二次創作。ルデナナです。
 一年目。春から夏へかけてぐらい。
 憧れを胸にその道に飛び込んだお嬢さんが、現実を知って、悩んで、乗り越えて、強くなっていくのっていいよね。そんな妄想を収穫しました。
 ルデナナは甘さ控えめ、ほんのり香る程度。
 初めて書いたルデナナ小説です。今見返すと恥ずかしいよう。以前は某所で公開していたのですが、諸事情により非公開にしたためこちらで公開します。



 翌日の、夕暮れ時。
 ナナミの牧場にたどり着き、出荷箱の前に立った時、やけに家が騒がしいことに気づいた。
 誰か来ているらしい。一つはナナミの声だ。もう一人は、聞き慣れない男の声だった。
 だが。

「──勘違いするな!」

 その、あまりにも興奮しきった声ははっきりと聞こえた。

「家畜はペットじゃない。まずは経営を成り立たせろ。
 これを見れば、オス牛を置く余裕なんか、牧場には無いことが分かるだろう。
 どうしても置きたきゃ、育てて食え!」

 足が、止まる。
 話の内容から、声の持ち主に見当がついた。ナナミの師であり、叔父であるフランクだ。
 そう接点は無いが、口を大きく開けて笑う、気のいい男だということは知っていた。
 どこかザハゥと通ずるものがあるのも親近感がわく。

 だが今は、普段の陽気な、どこか楽天的な性分はなりを潜めていた。
 答えるナナミもまた、普段からは想像できないほどに興奮していた。

「それじゃあんまり可哀想だよ!
 お乳は、子牛が飲み切れなかった分をいただけばいいじゃない!」

 瞬時に、ナナミの暗い顔はこのせいか、と思考が回る。
 聞いてはいけない、と思う。運営の方針など、自分にはどうしようもできない。
 専門家に任せてそっと立ち去り、何も聞いていないようにふるまうのが一番いい。

 頭ではそう思うものの、足が動かない。

 厳しい声はまだ続く。
「本分を忘れるな! 子牛が飲み干すのは牛乳じゃない、母牛の餌代だ。
 オレたちは命を育むが、殺しもする。いちいち憐れんでいたらキリが無い。
 手を汚す覚悟が無いなら、牧場なんかとっとと辞めちまえ!」
「やめて──もう聞きたくない! こんなもの……
 ナナミが叫ぶ。悲痛な、痛切な嘆きは、聞く者の胸に突き刺さった。

 次の瞬間。

「いい加減にしろ!」

 バン、と何かが叩かれる音がした。フランクは酷く興奮していた。
 ルデゥスの脳裏に、もんどりうって倒れるナナミの姿がひらめいた。

「ナナミ!」

 考えるよりも先に体が動いた。気が付けば、扉を開けて踏み込んでいた。
 二対の目が、ルデゥスを見つめていた。
 二人は、突然現れたルデゥスに呆気にとられ、口論を忘れている。

 二人は机を挟んで対峙していた。ナナミは興奮に顔を赤くして、何かを握りしめていた。
 フランクは、机に手をついて身を乗り出している。先ほどの音は、おそらく机を叩いた音なのだろう。
 最初に声を上げたのは、ナナミだった。

「ルデゥス? ……なんで?」
 呆けたような声に、部屋に踏み行ったのを心底後悔した。
 ナナミにけがは無い。よく考えれば、フランクが姪を叩くはずはないと分かったのに。

「あ、イヤ……すまなイ。盗み聞きするつもりは無かったんだガ……
 自分でも滑稽なほど、しどろもどろとした口調だった。
 ナナミも、フランクも、答えない。三人は見つめ合ったまま、硬直した。

 やがてナナミが俯いた。
「ごめん、今日は……
 そこから先は、言葉にならなかった。
 耐え切れなくなったのだろう。掴んでいた何かを手放すと、ルデゥスの脇をすり抜けて、外へと走り去った。
 ひらひらと、数枚の紙が、地に落ちる。

「おい、ナナミ! ……ったく……

 フランクは何事かを毒づいたが、追いかけようとはしなかった。
 どのような表情を作ればいいのか分からないのだろう。
 困ったような、笑うような、ちぐはぐな顔でルデゥスを見た。

「みっともないところ見られちまったなぁ。
 アンタは確か、トトタラさんのところの……
「ルデゥスだ……
 悪イ。アンタがナナミを殴るわけないと、冷静に考えればわかったはずなんだガ……
 言ってから、失言の上塗りに気づく。これではフランクが暴力男だと言っているようなものだ。

 だが、フランクは額に手を当てて深くため息をついただけで、気を悪くした様子は無かった。
「いや、いいよ。むしろ助かったぐらいだ。
 オレもナナミも頭に血が上っていたし……
『これ』を破られたら、机の次は本当にナナミを引っぱたいていたかもしれん。
 ……オレは、酷い叔父だな」
 フランクは、床を指さした。

『これ』とは、今は床に散らばっているもののことだろう。
 ナナミが掴んでいた、そして置いて行った何かは、数枚の紙だった。ナナミに握りしめられて、くしゃくしゃだ。
 よく見れば、紙面はびっしりと数字や図で埋め尽くされている。牧場経営には欠かせない知識なのだろう。それは家畜が置かれた厳しい現実も表していた。
 どうやらフランクが書いたものらしい。

 ルデゥスはかぶりを振った。
「アンタは、ナナミを一人前の牧場主として扱っていル。……それだけのことダ」
 ナナミが、ただの若いお嬢さんならば、僅かな間だけ牧場の夢を楽しみたいだけならば、血なまぐさい現実は知らなくてもいいのだろう。
 だが、牧場主として自立していくなら、いつかは現実と向き合わなければいけない。

 フランクは虚を突かれたように瞬きすると、ふっと目元を緩ませた。
「オマエ、いい男だなぁ。少し気が楽になったよ。
 ……さて、あるじ不在の家に、オレ達が居座るのも変な話だな。帰ろうぜ」