トウメイ希望
2025-10-11 16:20:19
21571文字
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【ルデナナ】道の先へ

牧場物語「三つの里の大切な友達」の二次創作。ルデナナです。
 一年目。春から夏へかけてぐらい。
 憧れを胸にその道に飛び込んだお嬢さんが、現実を知って、悩んで、乗り越えて、強くなっていくのっていいよね。そんな妄想を収穫しました。
 ルデナナは甘さ控えめ、ほんのり香る程度。
 初めて書いたルデナナ小説です。今見返すと恥ずかしいよう。以前は某所で公開していたのですが、諸事情により非公開にしたためこちらで公開します。



 異変に気付いたのは、数日前のことだ。
 ルデゥスがいつも通り、浜茶屋『カロセロ』で昼餉を取っていると、視線を感じた。
 そちらを見やれば、どこか遠慮がちなナナミと目が合った。
「ハロンガ、ナナミ。道具の注文カ? 悪いナ、今は休憩中なんダ。
 ……アンタもいっしょに食うカ? メシの後なら、受けられるゾ」
「ううん、ありがとう。私は大丈夫。
 お食事中にごめんね。ちょっと、増築に必要な材料を確認したくて……
「そうカ。リストならちょうど持っているゾ。自由に見ていくとイイ」
 彼女も忙しいのだろう。ルデゥスはリストを渡すと、再び食事に戻った。

 美人姉妹が切り盛りしている。そんな評判が評判を呼んで、今日もカロセロは繁盛している。
 噂通り、二人ともイイ。イゥカちゃんは元気でカワイイ。シゥカちゃんは物静かでカワイイ。観光客たちのはしゃぎ声が、青空の下ではじけていた。
 幼馴染故に、双子の本性を知っているルデゥスは、知らないって幸せなことだよナ、としか思えないが。
 双子は、忙しそうだ。ナナミに気づいている様子だったが、手が離せないらしい。
 イゥカは猫かぶりモード全開で客に食事を配り歩き、シゥカはもくもくと料理を作っている。
 
 ふと、ナナミが静かなことが気になった。
 見ると、やけに表情が暗い。リストを手に持ってはいるが、その視線はどこか上滑りしていて、何か別のことを考えていることは明白だった。
 ルデゥスに見られていることにも気づいていない。
 ルデゥスが知る限り、ナナミが浮かない顔を見せるのは初めてのことだった。

「ナナミ?」

 話しかけると、ナナミははっとして、笑顔になった。

「あ、ごめんね。目の前に居られたら、食べにくいよね」
「イヤ、それは気にしないが……どうした?」
「えっと……大きな動物小屋って、どこに書いてある?」

 取り繕ったな、と感じた。だがルデゥスは素知らぬ顔でリストの一か所を指さした。

「それなら、ここだナ。レンガと、木材と、小さな木材が……
 ナナミは、かき消されそうなほど小さな声で「うん……ありがとう」と呟いた。

「家畜を増やすのカ? 順調だナ」
 言った瞬間、ナナミはなぜかぎくりと肩をすくませた。おやと思いながらも、ルデゥスは続けた。
「オレたちは牛乳を飲む習慣は無いガ、アンタの牧場のは美味かっタ」
 あいつらも、と、双子を顎で示した。
 ちょうど客が会計をすませたところで、姉は、愛想良く手を振り、妹はぺこりとお辞儀して見送っている。
「アンタの牛乳とフルーツを合わせれば新作ができそうだって言ってたゾ。そのうちに話が行くかもナ」
 言い終わるころには、ナナミはいつも通りの笑顔に戻っていた。
「本当? ありがとう! あの子、頑張ってお乳出してくれてるから。
 ただ、ごめんね。あんまり沢山は用意できなくて。次出せるのはいつになるかな……
「気にするナ。アンタが忙しいことぐらい分かってる。気長に待つサ。
 それより……あんまり無理するなヨ」
「平気、平気。疲れててもね、動物たちの顔見ると、吹き飛んじゃうんだ。それに、みんな喜んでくれるし、優しいし」
 ルデゥスもね。そう付け加えるナナミを、じっと見返した。

 ナナミの言葉は、本心から来ているだろう。だが本心の全てではない。

 まだ、一度の春を越えただけなのに。
 彼女はこんなにも痩せていただろうか。

 初めて拳を合わせた時にはすべすべと柔らかかった手は、開墾と仕事に追われるうちに、ただの一月で荒れた。豆が潰れ、乾燥に割れ、骨ばって節ばかりが目立つ手とは裏腹に、瞳だけは来た時と変わらぬままに希望に輝いている。痩せた体と膨らんだ心が一つの心身に宿る様は、酷くアンバランスで、危うかった。
 それでいていかにも主人公じみた、超人らしいその瞳の輝きは、ナナミを遠い存在に見せていた。支えようにも、彼女は笑顔で牽制した。

 余計な手出しをしないでくれ、と。

……アンタが平気なら、いいガ……

 どう伝えたものか考えあぐねていると、二人の間を割って、どんっとグラスが置かれた。

「アア、モウ! 注文が遅いから、先に持ってきちゃったワ。
 忙しい中作ってあげたんだカラ、感謝しなさいよネ。
 それにしてもルデゥス。アンタ、誘う気概も無いワケ?」

 遠慮なく会話に入ってきたのは、双子のイゥカだ。
 案の定、客がいなくなった途端に本性を現している。
「あ、ううん、違うの! ルデゥスはね……
 ナナミが言葉を続けるよりも早く、珍しくシゥカが庇い始めた。

「イゥカ、それは、違ウ……ルデゥスはナナミのこと、ちゃんと誘ってたヨ」
「アラ、そうなノ? 意外だワ」
「ウン。……ただ、フラれたダケ」
「アラ、そうなノ。やっぱりネ」
「お前らナ……

 相変わらずのぞんざいな扱いに、ルデゥスは低く呻いた。ナナミは慌てた様子で手を振った。
「フったなんて、そんな、違うの!
 ただ、その……ごめんね。お店を冷やかすつもりはなかったんだけど、今はお金がちょっと、」
「ナナミ」

 ルデゥスは静かにナナミを遮った。それ以上続けさせると、言わなくてもいいことまで言いだしそうだ。
 ふっとナナミに微笑みかけると、双子から庇うようにして、ナナミに向き合った。

「こいつらはまともに相手しなくてイイ。
 それニ実際、全くご馳走できないってのも、男がすたるからナ。
 一杯、奢らせてくれヨ。忙しくたって、飲み物ぐらいなら平気ダロ?」
「だけど……
 なおもナナミは言い淀んだ。

 ルデゥスを押しのけて、イゥカがずいとにじり寄った。
「何ヨ。それとも、アタシの特性パインジュースが飲めないって言うノ?」
 そこまで言われると、ナナミも断り切れなくなったようだ。
……ううん。ありがとう」
「フン。分かったら良いのヨ。ありがたく飲んで、午後も気張りなさいよネ。
 ……はぁい、ウェルンガ~!」
 と、イゥカは、来た時と同じような唐突さで、新しく来た客を迎えにいった。



 そう時間をかけずにパインジュースを飲み終えると、ナナミは牧場へと戻っていった。その足取りは、飲み物の効果か、幾分かしっかりしている。
 背中を見送って、ルデゥスも立ち上がる。と、双子が寄ってきた。

「アンタねぇ。ナナミみたいな子には、多少強引にいかないと、いつまでも発展しないワヨ。
 きっかけ作ってやったんだから、感謝しなさいよネ」

 偉そうに説教をしてきたのは、姉のイゥカの方だ。ルデゥスはうるさそうにイゥカを見た。

「お前は何をカンちがいしているんダ……まぁ、ジュースには感謝するガ」
 食事程ではないとはいえ、飲み物でも腹に入れれば力は出る。
 ナナミはすっかり痩せたくせに、ああでもしなければ遠慮してしまうだろう。
「ふん。分かったらいいのヨ。さ、とっとと払いなサイ」
「アア……イヤ、ダメだナ」
 言われるがままにナナミの分も支払おうとして、手を止めた。

「はぁ? ちょっと、ダメってどういうことヨ! アタシの心づかいに何か文句デモ……
 と、イゥカはそこまで言って、ルデゥスと同じものを見つけたらしい。
 グラスの陰には、こっそりと。そしてきっちりと、ジュースのお代が置かれていた。

「あーァ……これじゃ、ただの押し売りじゃないイ。
 ……アタシが甘かったわネ。あの子もたいがい、ガンコだワ」
 静観していたシゥカも後に続く。
……ナナミは、親切。……だけど、自分が受け取るのは、下手だネ」
……そうネ」
 つまりは、そういうことなのだろう。
 イゥカは一つ溜息をついて、幾分か不機嫌そうに食器をまとめ始めた。

……力になれないってのは、案外、つらいもんだナァ」
 ぽつり、呟く。
 自分は頼られやすい性分だと思っていた。
 双子はしょっちゅう用事を言いつけてくるし、村人たちもバーさんの話し相手やら犬の散歩やら、何かとルデゥスに相談してくる。とにかく気兼ねなく当てにしてくる連中ばかりだ。

 だから、ナナミのように、悩みを隠されてしまうと、どのように手を差し延べたらいいか分からない。手助けをしたいという気持ちだけが空回りしている。
 彼女自身も、サポートが必要なはずなのだが、拒まれてしまえば、どのように手出しをしたものか。何もできない無力さが歯がゆかった。
 トトタラの孫として育ち、次期村長として扱われるうちに、知らず知らずうぬぼれていたらしい。
 歯がゆさに溜息をついて、牧場へ続く道を見つめた。
 危うげな背中は、もう、見えない。