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異世界系列
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ハコニワのノア-乙女ゲーの世界に転生したけどなんだか様子が変です-
らいのあです
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08:甘ったれの狂気
形は保っているものの人のいない家屋ばかり並ぶ。
勿論店は機能なんてしておらず、昔は生きていたのだろう痕跡だけが残るのが不気味だ。
ショーケースに飾られたままの服などが私に何かを訴えているような気さえする。
「食材についても濁されましたが、衣食について仕入れるルート的なものはあるんですよね?」
「俺はな」
「そ、それを私が使うことって
…………
」
「できないな。俺には特別な力がある。だからこそできるってだけで」
「うう
……
」
私が持っているのは例の白紙にする力だけか
……
。
來人君の説明によれば彼は本当に色々できるよう。世界を修復する、とか時空を自由に移動したりだとか。そういうのって定番に乗れば異世界転生した私に付与されるチート能力というやつではないのかな。
しかし、一発の強力で人によっては恐ろしい弾丸しか渡されなかった。
もしもこのまま生きていくなら不便だな
……
。
でも、これを使えば死んだものは元に戻るの。なかったことになる。
この崩壊した世界ともおさらばして私は望んだ通りになれる。
やっぱり皆の為にも使った方がいいんじゃないだろうか。
「
――
望愛?」
「はい!なんですか?」
「何を思い悩んでいるんだ?」
「え、えっと
……
」
この力のこと、相談しておこうかな。來人君も教えてくれたんだから。
「その、來人君
――
実は私神様から一つ力を貰ったんです」
「は
……
?」
「この世界を元に戻す力
……
」
「元に
……
だと?」
「はい。全て元に戻ります。私も、いなくなったみんなもきっと。すべてが本来のあるべき姿に戻るものです」
「絶対に使うな」
伝え終えすぐに彼は恐ろしい顔をし、禁じる。
小心者故にびくりと私は反射的に体が少し飛び跳ねてしまう。
「い、いえ今すぐは使いませんよ勿論!暫く考えようと
――
」
「駄目だ。使わないでくれ。」
「で、でも
……
」
「
――
その元に戻る中に俺が含まれると思わない方が良い」
「へ
……
」
「この能力はイレギュラー化することによって使えるようになったものだ。俺の見た目が本来からかけ離れつつあるのもその影響がある。この姿、まるで半分中身の露出したアンドロイドみたいだろう。実際「來人」は瓦礫に潰されて死んだ。この力を受け取るには「転生」がキーになる。なのに、俺はルールを無視し、力を貰って無理やり蘇生させてもらったんだ。確かに俺は來人のはずなのに半分別人だよ。そんな、ルールに従わない紛いものが対象になるのか」
「來人君が望むならきっと戻れますよ!時間を巻き戻す、って言ってましたし!」
「望む
……
。俺は
……
再三言ってるが
……
俺を選んでくれるお前が好きで。全部白紙になるなら、お前の俺への気持ちすら消えてしまうのは胸が痛んで仕方ない程嫌だ。もう一度選んでもらえばいいだけなんてそんなの、違うだろう?選ばれるまで順番待ちをしてひと時の時間を楽しんだら、きっとそれでおしまい。それこそ前に言ってたアイドルとおんなじだとは思わないか。俺は偶像じゃない、心ある人なんだ」
「えっと
……
」
「世界が元に戻ったら、今日のコーディネートを選ぶような。並んだ好きなお菓子から一つ選ぶような。ただ気分で選ばれるだけの存在に戻るんだろう。ああ、そうか
――
アノマリーになるというのはこういうことだったのか。守られるべき規則に従いたくないと、拒む感情を持ってしまうことが。ははは
……
。そうかそうか。俺は、あいつらと同じように狂ってしまったのか」
來人君は皮肉にも己を笑う。
アノマリー。私にはまだよくわからないが、ひょっとすると私も力を持っているなら同じようなもの
……
なんだろうか。
「
……
私は、この世界をあるべき姿に戻してあげたいと思っています。でも、だからって今一緒にいる來人君のことどうでもいいなんて思っていません。始まり方は互いにとって酷いものだったかもしれませんがあなたにとても親切にしてもらったこと、無下にできる程非情にはきっとなれないので
……
」
「もしもそれでも世界を選ぶなら俺は望愛と対立するしかなくなるだろう」
「
………
。
――
まだどちらも選びません。だから、私は「歩く」って言ったんです。」
「精々悩んでくれ、そして「俺達」を延命してくれ」
彼は「自分」と「私」がこの世界で生き続けることを望んでいる。
一度死んで変異までして世界を繋ぎ止めてくれた彼を、この一手で殺してしまえるのだろうか?
神様は細かくは説明してくれなかったから彼の処遇についてあまりにも憶測のみで、恐れる以外無い。
もしかすれば彼の死さえなかったことにできるかもしれない。
しかしアノマリーという存在としてそうならないと言うなら、彼の席はどうなってしまう?
――
もし、複数いる人間の内、空席を失くして調整するだけで済むのだとしたら?
『アイヲハコブ』に登場する5人の男の子。彼はその一人だった。
その一人を消して4人に修正できるのだとしたら。來人君には帰る場所すらも失われてしまう。
パッケージには彼が映っていたのにそれも消えてしまう、というのか。
私達は誰に召し上げられるものかわからない。しかし私が思うに、『アイヲハコブ』のようにゲームだのなんだのでどこかの世界のフィクションとして提供される予定なのだろう。
それもまたなんと恐ろしいことか。私が今まで触れてきた漫画や、ゲームや、アニメは全てもしかすると同じようにどこかの生きた世界の一部かもしれない。
私は、彼に出会ってしまった以上架空の人物として接することは許されなくなってしまった。
ぽすん、と唐突に彼が私の肩へ表情を隠すように頭を乗せもたれかかった。
「
……
どうしましたか」
「望愛は、ゲームの中の俺とのお話、覚えてる?」
「はい。勿論です」
「聞かせてみせて。どこまで覚えてるか」
突然何を、と思いながら私は続けた。彼の震えだけが伝わる。
「來人君は、学内の王子様のような人でした。同級生からは特に本当にそうやって持て囃される程その名の通りに鮮やかに明るく、輝かしい方です。勉強を頑張っていつもみんなの期待に応えてくれていました。みんなの為にどこまでも頑張れる、努力家だったんです。でもその実どこか心を開ききれていないような一面もありました。そんな時、主人公と出会って少しずつ変わっていきました。二人の出会いはあまりにも定番で、使い古されたぶつかって初対面なんてそんな始まりです。來人君は彼女の抜け殻みたいなぼんやりした性格を放っておけなくて見かけては世話を焼いてあげるんです。教科書を忘れた時には率先して貸してあげて、「音読はなくてもできるからいいよ」とか言って実は失敗したらどうしようってドキドキしてたことが後でわかったり。体育の片づけでも一人でやってるところを見つけて手伝ってあげたりして。その時に二人で閉じ込められちゃって暫く二人きりで過ごしたり
……
私、そのシーン結構好きでしたよ。來人君が自分について暇つぶしにって言いながらお話するところ。ほんとはすっごい寂しがりやさんで閉じ込められた状況にも内心怖がってて、人の期待に応えてないと不安だから王子様を気取ってるだけなんだとか。不器用で可愛いなって思いました。」
「そんなことも言ったか」
「來人君とのお話を進めていく内に、二人が一緒にいてほしいって思える程好きになりました。だから最後結ばれた時は恋のキューピットにでもなったように嬉しかったですねえ
……
なんて。あなたの前で話すことではありませんね」
「
――
それからずっと、待っていたんだ。ゲームが終わると望愛はいなくなっちゃうから。すごく寂しかったんだよ。俺は、物語に続きがほしい。望愛と結ばれた後もずっとずっと、二人で幸せを分かちあえる時間がほしい
……
。だから、だから。俺は、もう
……
世界が壊れて無くなっても望愛と一緒にいられれば良いとさえ思っている。一人でいるのは嫌だ
――
嫌だよ
……
望愛。君の為なら僕、こんなに頑張れるから。僕を、僕を捨てないで
……
」
ああ
――
子供だ。少年が、いる。この人は未熟なまま。
理性が崩れると、殻の中に潜んでいた子供に戻ってしまった。
私からぎゅっと抱きしめてあげた。
彩ノ川來人という人物は、ずっと未成熟の少年だった。
甘えることを許可すればとことん甘える。
彼は別に家族と仲が悪いとかそんなことはない。
父も母もとても優しい人物だったと描かれていた。二人を祝福すらしていたのだから。
なのに、歪な感情らはどこからやってきた?
……
集団生活で彼が己の中に生み落としてしまった。
甘やかされて育った子供だから。集団生活で一人になるのを嫌っていたから。
そんな彼が、私はそれでも愛しかったのだ。
主人公と彼のことをふんわりとした小鳥が身を寄せ合っているのだと思っていたとも。
小鳥が震えている。私に縋っている。
「捨てたりなんてできるはずないって言ってるじゃないですか。私、來人君が大好きですから」
「今度はちゃんと側にいてほしい、お願いだから
……
」
「
――
ねえ來人君。あなたは本当に私に恋を、してくれていますか?もしかしたら、大変だったから生じた気の迷いかもしれませんよ。縋る相手に選ばれたのが私だっただけかもしれません」
「
……
いっぱい考える時間はあった。最初は君のことをこの世界に必要なもの以外に思っていなかったとも。でも、ゲームを通してどんどん君に会いたくて仕方なくなっていったし、気づいた頃には手遅れだった。君の言う通りこれは恋ではないかもしれないけれど、それでも
……
好きなんだ。君に心底、愛され求められたい」
「本当に、あなたって甘えん坊なんですね。私にまで向けちゃうなんて
……
はあ。私が望愛じゃなければ。家族に会いたいとも思わないんですか、あなたを一番愛してくれる人々ですよ」
「もう、長いことこうだから慣れてしまった。それに代わりに望愛が来てくれる。全部埋め合わせてくれる、そう思ったから」
「來人君
――
……
」
彼の心の深淵を覗けば覗く程私には到底理解しがたいものだとわかった。
「望愛」の不在に人生を狂わされておきながら、原因である「望愛」に出会い心酔してしまったのだと言う。こんなの受け取れない。彼の狂おしい愛なんて私には背負えない。
家族以上に一時顔を合わせた私の方が大事だとか意味がわからない。
私にはなかったものを差し置けてしまえる程好きになったなんて。
そんな価値がこの私のどこにあったと?
――
おかしい。この世界が壊れると同時に、おかしくなってしまったのだ。
若しくはそういう仕組み上私を好きにならざる負えなかったのだと、そうでなければ相槌は打てない。
このままではいけない。
現実の私を冷静に見つめ直してもらわなければ。
やんわりと抱きしめていた彼を離す。
「一人にはしませんよ」
「
……
」
「長く立ち止まってしまいましたね。そろそろ周辺の散歩は終わりましょうか。來人君は、戻ったらお仕事しなくていいんですか?」
「する。望愛が見えたからついてきたけど」
「それと、ぬいぐるみを作る生地とか道具ってありますか?作り直そうと思うんです」
「被服室にあるかもしれない。家庭科では裁縫の授業があったはずだし、手芸部もそこで活動していたから
……
手芸部のものは俺から現部長に後で伝えておこう」
「お願いします。」
学校へ向かう道中、彼の方を向かなかった。
今も尚、その盲目的な愛情で私に甘い瞳を向け続けている。
――
來人君。一刻も早く私を好きじゃなくなってくださいね。
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