ハコニワのノア-乙女ゲーの世界に転生したけどなんだか様子が変です-

らいのあです


02:世界について


二人きり、足音が響く校内の様々な場所を歩く。
どこも長く使われていないかのようにほこりを被っていたり廃墟化が進んでいる。
隣の來人君は何か私には見えないものを片手で操作しつつ、校内の様子を確認しているようだった。

「望愛。お前はこの世界を知っているだろう」
「あ、はい。えっと、元の世界では似たような世界観のゲームを遊んだことがあって……
「『アイヲハコブ』、だろう」
「!ら、來人君が何故それを……?」

彼は私の知る限りでは、「ゲームの中のキャラクター」だった。
そんなゲームの中側が「それ自体」を認知しているものだろうか?
私が生きていた世界がもしゲームだったとしても、知る術を何かしら与えられない限り一生をかけても知りうることはない。……なら、彼はどうやって?

「俺はある目的があって、あのゲームを通して望愛の世界と繋がっていたんだ。しかし、あれの中身は完全な「この世界のあるべき姿を模した虚像」だったけど」
「あのゲームの中の來人君も……虚像?」
「さあ、それはご想像にお任せってことで。ともかく。あれがあるべき姿を模したものならば、こちらが現実だ。この世界は残念ながらあのゲームのようにはならなかった」
「どうして……
「原因は一つ。必要なものが足りなかったからだ。例えるなら……部品の足りない機械みたいなものかな。何か重大なパーツが欠けている所為で電源を何度いれても全く動かない、そんな感じだ」
「この世界に大事なもの……。うーん……あ。人がいないとか!ほら、さっきからどこにも見かけないし……
「答えに近いが、望愛の考えているものとはずれているな。望愛にとってゲームの『アイヲハコブ』に必要なものはなんだ?」
「キャラクター、イラスト、ストーリー、胸がきゅんとする主人公と男の子達の恋愛要素とか?えっと後……あ!バグが酷くて狭き門になってたからデバッグも!」
……バグについては置いとくが。その内のキャラクターであり一番重要なもの――主人公だ」
「あれ?主人公……?ちゃんと出てきてたけど……?」
「操り人形であって本物じゃない。本物は、生まれこそしたけれど魂だけが欠けていた所為でずっと眠っていたんだ。俺が見つけてずっとここの寮の一室で保護してた」
「そう、なんだ……?え、あ……え?」
「ここまで言ってまだ確信しないか。魂は戻ってきた。望愛、お前がいなかった所為でこの世界は死にかけている」
「わ、私の所為……!?」

ちょっと待ってほしい。
主人公は魂が欠けていて寮の一室ずっと眠っていた。
そして、私は寮の一室で目を覚ますと主人公だった。
主人公=私?全然理解できない。というか、理解したくないのかもしれない。
私は元の世界でただの一般オタクとして生きてきただけの人間だ。みんなと何ら変わらない、普通の。

「信じがたいかもしれないが、お前の魂は以前いたあの世界に間違いで辿り着いてしまったんだ。」
「どうして魂だけ別の世界に行っちゃうことがあるの?魂もないのに、体は生まれるなんて変だよ……
「そうだな。さらにややこしくしてしまうが、この世界の仕組みについて話そう。この世界には元々「筋書き」がある。ここに住むものたちは皆、その筋書き通りに行動するよう予め定められている。例外はない。例外が生じるとそれは「異常」なんだ。」
「ええっと、つまり……例えばゲームとして誰かによってすでにプログラムされていて、この世界にいる人たちはそのゲームのキャラクター……みたいなものってことでいい?」
「そんなところだ」
「ううーん……なるほど?」
「物語には物語を進める為の「人物」が必要だと思わないか?アイヲハコブのようなシナリオがこの世界で繰り広げられるのだとしたら、主人公が生まれないまま物語はそもそも始まるはずがない。なにも始まらないままだ」
……それで?」
「「世界」として成り立つ要件を満たせないまま存在することになると、突如崩壊が起きた。最初は些細なものだったが今ではこんなに廃れた場所へと変貌してしまった。どうにかして世界を失くさない為にも崩壊を食い止めようと手段として「望愛の存在を体だけでもいいから生み出し少しでも遅らせる」ことにしたんだ」
「結果は……
「少しは意味があった、けれど少ししかなかった」
……。今は?私がいる、今は?」
「ああ。今こうして見て回っている訳だが、望愛が目を覚ましてから突然落ち着いたような気はする。まだ確信は持てないからもうしばらく様子を見ないことには何とも言えないな。言っておくが、他の関係者達は近くにいないだけでどこかにはいるよ」
「世界で二人きりじゃなかったんだ……!」
「あいつら俺には会いたくないようだから俺といる限りは会わないよ」

ここまで來人君から沢山説明をしてもらったけど、まだまだ理解は追いついていない。それに疑問だっていくらでも出てくるだろう。
あの時――私が死ななければ私はこの世界に転生しなかったのだろうか。
そしてこの世界はそのまま滅んだのだろうか。
私は、本当に「姫宮望愛」なんだろうか。
……あれ?そういえば。
ゲームの中の主人公の名前はなんだったっけ。
「姫宮望愛」?ううんそれは私の名前。
私の、名前…………
じゃ、ない。
これは『アイヲハコブ』の主人公につけた名前だ。
彼女に名前はなかった。だから最初にユーザーがつけるようになっていた。
だったら前世の私の名前は?私は……なんだっけ。

「望愛」
「へひぃ!?はい!?」
「話聞くの、疲れた?」
「い、いえそんな……!」
「無理しなくていいよ。ふらふらしているみたいだし、少し休もうか。どうする?寮に戻ってもいいし、起きてから何も食べてないだろうしお腹がすいたなら何か作ってあげるよ」
「ら、らららら來人君に作っていただくなんてとんでもありませんっ!す、少しお部屋で休みます……
「そういえば部屋、外に比べると綺麗だっただろう?望愛が起きた時の為に俺がこまめに手入れしてたんだ」
「そ、それは有難う御座い、ます」
……褒めてほしいな」
「へぁ……ァア……ら、來人様のおかげで寝覚め素晴らしく起きることが出来、大変感謝致します」
「求めてたのと違う」
「で、では!私一旦戻ります!」
「え、おい!待て望愛っ!?」
「また、後で~~……っ」

迷うような道のりでもないしな、と私は一人颯爽と学校を出てきた道を辿っていく。
そういえばこの世界の人は今ご飯は何を食べているんだろう。こんな状況なら非常食?
来ていきなりハードなサバイバルか……とほほ……話の通りならそれもこれも私の所為なのか、そうか……
ひょっとして、ゲームの中の主人公がぼんやりしていたのは文字通り魂が抜けていたからということか。
私はこの通りだし、もしもちゃんと機能していた時の本当の主人公はどんな性格の子だったんだろう。
それは失われてもはや知る術はない。