ハコニワのノア-乙女ゲーの世界に転生したけどなんだか様子が変です-

らいのあです


03:過去の私


戻ってくるや否やベッドにぼふん、と体を投げ出した。
暫く頭の回転を停止してみようかと思ったができるはずもなかった。

「私の所為で好きなゲームの元になった世界が壊れかけてるし、私は体乗っ取った訳じゃなくて…………??うわあーぁ!わかんない!急にはいどうぞ、あなたの責任です。って世界の命を握らされても!私って何!?ただ平凡にオタク活動してたかっただけなのに……。推しを愛でて、仲間とほのぼの好きな作品の話して……それで良かったのに……そんな生活がそもそも「間違い」だったなんて……

本来は物語の中でただ刻み込まれた言葉を吐くだけの、そんな存在。それが本当の私。
……なんだかそれってつまらなそう。その物語を見て誰かが楽しむ為にある世界だったんだろうけど。
作品は作る人、見る人の双方がいて成り立つはずだ。もしも見る人もいないのにループする物語を演じるだけだと言うなら、それは何の意味を持って存在するというのか?

「これからどうなるんだろう……この世界、元通りになるのかな……?」

そしたら、この「私」は消えちゃうのかな。それは……すごく嫌だな。
元の世界で生きていたこの「私」は、正直言うと幸せだったとは言い切れない。
「私」はどこにも馴染めないばかりで引きこもり気味だった。
親には「どうしてもお前を自分の子供とは思えない」と嫌われ、姉は親から私とは極力関わらないよう言われ育った所為か私に振り向くことはない。家庭環境はそんな感じで学校に行っても居場所を見つけられないまま過ごしていた。
数少なく私と仲良くなってくれた子もいたけれど、親の転勤がきっかけとかで離れ離れになって疎遠になることも不思議なことに多かった。ほんとは理由をつけて距離を取られていたのかもしれないな。
私は、周りが私を好きになれないというばかりだった所為か自分自身でも好きにはなれなかった。
ほしいものは一応渡される少ないおこづかいやアルバイトでお金を貯め、どうにかこうにか買っていた。
一人の時間ばかりを過ごす内に気づいたらオタクになってしまっていて。
私から一方的に特定のキャラクターを愛すのが当たり前になった。キャラクター達には私の愛は届くはずがない。だって、二次元だもの。でもそれでいい。「私」なんていなくていいんだ。
あのゲームを遊んでいた時もそう思っていた。
私じゃない主人公が色んな男の子達に愛されている。それを眺めるだけで十分だった。
だったのにな……
來人君が近づくのが、心底怖かった。大好きな画面の向こうの存在だったから。
私は彼が大好きだ。ファンとして。なのに突然壁がなくなって隣に私がいるのが耐えられない。

「私は、主人公じゃない……主人公になりたく、ない……

私は、ずっと画面の向こうからみんなを傍観していたい―――
塞ぎこむ私へ、コンコンとドアをノックする音。
寮の部屋は玄関までそんなに遠くない。

「はい……?來人君?」

私は重そうに体を動かしどうにかドアの前に立った。

「望愛、ドア……開けてくれないか?」
「あ、は……はい。開けます」

断るのが苦手で、承諾してしまう。さっきは逃げたくせになんと意思の弱いことか。
鍵を外し、ドアを開けると私より背の高い來人君がいる。
手に何かもっている。蓋のついたピクニックにでも持っていくだろうバスケット。

「これ、食べてくれ」
「ど、どうも有難う御座いますご親切に……
「後……できたらでいいんだけど……
「はい?」
「難しい話は抜きで、もう少し二人で話がしたい、なとか……駄目?」

もしかして來人君は私がさっき走って逃げたのが自分の説明の所為だと思っているのだろうか。
説明の所為、というより私には來人君という存在が大きすぎてその供給に耐えられくなかったからだけど……
申し訳なさそうに私を見つめ、返事を待っている。う……可愛い……

「わ、わかりました……はい、いいですよ」
「ほんとか?」

ぱあっと花が舞うエフェクトが見えた気がした、嬉しそうに笑う姿もcharming.
部屋の中に案内する。私はベッドに座り、來人君は遠慮したのか地べたに座り込んだ。
そんな!私が地べたに座ります。滑り落ちるように地べたに移動した。

「來人君はふかふかのベッドの方にどうぞ……
「いやここでいい」
「次いらっしゃる時までには私がクッションをご用意します……

そういうと、え?という顔をした後何かに気づいたのか嬉しそうな顔をしている。こっちがえ?なんだが。

「今度は望愛の話が聞きたいなって思ってたんだけど、走って行くから……
「すみません……しかし來人君に話せる私の話など……
「あるよいっぱい」
「た、例えば……?」
…………望愛の好きな人の話とか」
「す、好きな人!??!?!?!お、ボボボボボアババ……そんなのいませんよ!」
「えっ……俺は?好きじゃなかったのか?」
「ら、來人君のことは好きだけどそのやっぱりファン意識なので……アイドルに恋なんてしませんよ……
「俺はアイドルじゃないよ、少なくとも望愛の前では……

やややややややばばばばばばばばば近すぎ近すぎちかィゥユゥッくぁwせdrftgyふじこlp;

「だ、だめですっ!近すぎますっ!」
「お前がこの世界に来た時点で俺達は対等になったんだ。同じ世界の、同じ人間同士に。やっとここまで来たんだ。お前に面と向かって好かれたいな……
「せ、世界が元に戻ったらいくらでもできますよ!ね!」
「は……?」

あ。私、今。はっきりと彼の地雷を踏んだってわかった。

「俺がお前をどんな気持ちでずっと待ってたと……
「ご、ごめんなさい!すみません!心にもないこと言ってしまって……!」
「俺は今目の前にいる望愛をもっと知りたい。傀儡相手なんてのはもうこりごりだ」
「ほんとにすみませんでした……
「わかったならいい」
「うう……で、でも。私は來人君のファンでいたいです。わ、私の所為で世界もこんなになっちゃってますし……迷惑かけたのに私なんかは……

顔を見ることすらできず、俯いてネガティブ思考をまごまごとしつつも吐き出していると不意にぎゅっと右手を握られた。

「ぴ!?」
「もういいんだ。さっきは衝動的に「所為」なんて言ったこと、謝らせてくれ。俺がお前に望むことは世界の再生の為とか贖罪とかそんなんじゃなくて俺と一緒にいてくれることだから。恨んでないかと聞かれたらそれは嘘になる、でも……それ以上に望んでいることは二人で過ごせる時間だから」
「ふぇ……な、なじぇ來人君はそんなに私を……?」
「一つ言えることは、望愛は俺にいっぱい好きをくれたから」
「や、でも私の好きはただの推しで……
「そうだ、いっそのこと俺が望愛を攻略すればいい」
「はぇ!?逆転の発想ですか!?」
「俺は一度掴んだら絶対に離さないタイプだから」

握った手と手はもう私の力では解けなくなっていた。
転生したら推しがガンガン攻めモードになっていたんですがどうすればいいですか?
思えば元の來人君も恋人になった後はあちら側から積極的にデートに誘ったり学内でも絶対に隣は譲らないしで変わってない、な……
さっきから顔が熱いなと思ってたけど限界になった。

「の、望愛!?おい!わ、熱出てたのか……気づいてやれなくてごめん……

推しに抱きかかえられるヒロインな私は、そのまま意識を失った。