山城まつり
2025-06-02 22:09:16
41939文字
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suicidal/leniency Karte01:聖戦の幕開け

スーリニKarte01、サイト掲載の前にちらりと載せて みます
めちゃくちゃ長いんですけどほぼ書き直してまして、頑張ってるので読んでくださると うれしい すみません、煩悩です
以前より恐らく、手術シーンが大幅に分かりやすくなっていると思います!みんな大好き冠動脈バイパス術、よければ楽しんでいってくださいませ!!!!!!!(狂気)


2節 使命



「────ルミエール先生!」

第一手術室に急ぐと、そこでは看護師二名が既に処置の準備を終えていた。バイタルが生命を証明して、一定のリズムを保っている。モニターを見遣れば、低すぎる血圧と心拍が電子の波を揺らしていた。……危篤だ。事態は一刻を争う。そう判断してベッドの上に目を遣る────そこに横たわる女性は既に意識がなく、血色を失った白い肌に青く乾いた唇を持っていて。ルミエールはそれを心配そうに見遣り、看護師に向き直った。

「彼女は、一体……
「市販薬のオーバードーズです。それから、リストカットによる大量出血で血圧低下が見られています」
「オーバードーズ!」

……ルミエールも、聞いた事はあった。
身体及び精神にとって有害な作用が急速に生じるほどの量の薬品を飲用する、オーバードーズ。市販薬────睡眠薬や風邪薬で行われる事が多く、それを懸念したヴェルティ政府は市販薬の購入を一人一箱に限定しているが……複数のドラッグストアを回れば簡単に薬が入手出来てしまうので、オーバードーズの撲滅には程遠いと聞く。
自傷行為の一つとして挙げられるこのオーバードーズ……患者は希死念慮を抱いているケースが殆どだ。目の前にいるこの女性も、死にたいと願っているのだろうか────。そう思うと、悲しさが込み上げてくる。
彼女には彼女なりの事情があって心を病んでしまったのだと分かっている。それでも────ルミエールは目の前の彼女に、「生きていてほしい」と願わずにはいられない。これは、僕のエゴなのだろうか……ルミエールの瞳が揺れる。
クレマリーはそんな彼を一瞥し、手袋と手術用のガウンを装着しながら看護師に指示を出す。

「30Frの胃管、ゼリー、洗浄用の注射器、バケツを用意してくれ。それから活性炭75g、ソルビトール60g、輸液も」
「は、はい!」
「ルミエール、始めるぞ……今は目の前の命を救う事だけ考えろ。いいな?」
「クレマリーさん……
「死んだら全てが終わりだ。彼女を取り巻く状態が改善する未来は絶対に訪れない。だから私達は命を救って────それから彼女が生きやすくなるよう最大限の手伝いをする。手術だけが医者の仕事じゃない……患者が安心して『生きていける』ようにするのが私達の〝使命〟だ」
「!!」

クレマリーの言葉が、ルミエールの強張った心に溶けてゆく。
それはまるで、暗雲を晴らし、陽光が翳った空から覗くように。氷が解けて、緩やかに水位を上昇させるように。
そうか……患者が「生きていける」ように支援するのが、未来に向けて踏み出せるようにするのが、自分達医師の使命なのか。手術だけで自分の仕事はお終いなのだろうと、命を救うエゴを押し付けて、『誰か』に後を任せるのだろうと、何処かで『他の誰か』の手を借りようと甘んじていた自分が情けない。医療はチームだ。だが同時に、自分自身と闘う個人戦でもある。

『手術だけが医者の仕事じゃない』。
患者を救いたい。生かしたい。助けたい。美徳や希望を口にするのは簡単だ。しかしそれらを綺麗事でなく、口だけの言葉でなく、現実のものにするならば────迷う暇などなく、患者の命に向き合うのが先決だ。心の闇を祓い、未来を歩めるよう道を示し、彼女達の笑顔を取り戻す。他の誰かに任せるのではなく、自分が先陣を切って、この両の掌で!
それが、医者の使命。僕の使命。僕はこれから、その言葉を肝に銘じて────患者を真の意味で救える存在になろう。

ルミエールの瞳から、迷いの色が消えた。

……分かりました。僕が、僕達が、必ず彼女を救います。始めましょう───彼女を救う、サージェリーを」

クレマリーはそれを見るとマスクの下で緩く口角を持ち上げた。
そして看護師達を見回すと、手術開始を高らかに告げる。
叡智の紅玉が、命を救おうと輝いていた。

「さぁ───オペレーションの時間だ」