山城まつり
2025-06-02 22:09:16
41939文字
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suicidal/leniency Karte01:聖戦の幕開け

スーリニKarte01、サイト掲載の前にちらりと載せて みます
めちゃくちゃ長いんですけどほぼ書き直してまして、頑張ってるので読んでくださると うれしい すみません、煩悩です
以前より恐らく、手術シーンが大幅に分かりやすくなっていると思います!みんな大好き冠動脈バイパス術、よければ楽しんでいってくださいませ!!!!!!!(狂気)


9節 生きる為の決断



そんな手術の1週間後。季節はようやく自分が「春」であると認識し、気温をぐっと持ち上げた。温暖前線が通過したヴェルティはぽかぽかと暖かく、巻雲を東へ押し流す空はルミエールの瞳と同じ天色だった。
気候のいい、三月の下旬。解放病棟に移ったレオの病室を、ドロシーとルミエール、クレマリーが訪れていた。
……親子水入らずの会話の中に自分達医師が混じってもいいものか、ルミエールはそのように悩んだが、ドロシーが「二人だと気まずいので……」と言うので一緒に見舞う事にしたのだ。
入院患者が入院患者を見舞う、というのもなかなかに変な話である。

……父さん、その……大丈夫?」
………。」

ドロシーが顔色を伺いながら口にするも、レオは返事を返さなかった。……以前に「厳しい父親」だと聞いていたが、これは確かに厳しそうだ……そうルミエールは苦笑する。
暫くの沈黙。雀が窓の先の小枝で歌う声だけが病室を占める。カーテンを微風が揺らし────その無言の圧に耐えられなくなったドロシーが、おずおずと話を切り出した。自責を含んだ悲しげなアルトの声が、病室で小さく木霊する。

……父さん、私変な事してごめんなさい。会社が辛くて、それで自殺未遂だなんて……私、逃げてるだけだよね。甘えてる、だけだよね。ごめんなさ────」
「────ドロシー。」

謝罪を遮って、レオは厳かに口を開いた。ドロシーは驚いて彼の顔を見る。
ベッドに背を預けて座る彼は、心臓に手を置いて静かに語り始めた。

「俺には、死にたいという気持ちは分からん。だが……此処が痛くなって、苦しくなって……怖いという感情を、久方ぶりに感じた。そしてこれは、お前が会社に感じている感情と……死にたいと思う程に思い詰めた苦しみと同じ〝痛み〟に似ているのではないかと思った。」
「父さん……
「お前はいつも強く優しい。故に、自分の苦しみを苦しみだと認められんのだろう。……なぁ、お前はお前の生きたいように生きていい。逃げてもいい。だから────死ぬな。それだけが俺の……そして母さんの願いだ」
……っ!」

────死ぬな。
それは、父親からの唯一の願いだった。
どれだけ逃げても卑怯でもいいから、死んでくれるな、と。
どうか、生きてくれ、と。
それだけで、いいのだと。

クレマリーはそんなレオに続いて言葉を贈る。

仕事などやってみなければ向き不向きというものは分からない。そして、自分で望んだからといって必ずしもそれを貫き通さねばならないとも限らない。────私達は殺されるために仕事をするんじゃない。生きるために仕事をするのだから」

その言葉を聞いて、ドロシーの涙のダムがついに決壊してしまう。
ぽろぽろと、雫が溢れて頬を伝う。
レオは「来なさい」とドロシーを呼び寄せ、優しく抱き締めた。
彼女は父親の胸の中で子供のように泣いた。
彼の心臓の鼓動が、ゆっくりとドロシーを包む。温める。そして、励ます。
救われた命と救われた命が、そっと触れ合った。千切れる事のない「親子」という糸で繋がれた彼等は、静かに互いの疵を塞ぎ合った。

辞めてもいいのだ、と。
生きやすいように、生きようとしていいのだ、と。
自分らしく、生きてもいいのだ、と。

ベッドサイドのスノードロップが、自らの花言葉を彼女に贈っていた。

ドロシーは────辞職を、決意した。