【失笑の歌と蒼い月】

自陣Ibパロ/まとめ読み版



扉を開いたそこには階段ではなく、また通路が伸びている。あの不気味な絵画はなく、美術品も〈作品〉らしきものも見当たらない。これまでと違う様相に、カンジは首を傾げる。


「あれ? 階段やないんや」

「そうみたいだな。もしかして、この階層が最下層なんじゃないか?」

「ならこの階に出口があるんやな! よっし、気合い入れていくで!」


頬を二度叩き、改めて意志を強く持つ。ヒロを見つけ、ソウゲツと自分と三人で外へ帰るために。ソウゲツとはここで出会ったばかりだが、これもなにかの縁だろう。帰った後にまた新しい交流が増えると、カンジは気分が良くなる。人と良い縁を結ぶのは、彼にとってとても好ましいことである。


「なぁ、カンジ」

「ん? どないしたん?」

「オマエはここが嫌いか?」


意図の見えない質問に、カンジは足を止める。ソウゲツは不安げな、しかし真面目な瞳で目の前の彼を見つめている。理由は分からないが、ここで無視するのも忍びない。カンジはしばし悩んでから、返答をゆっくりと口にする。


「ここはまぁ、悪い場所やないんちゃうかな。さっきみたいに気味悪いところもあったけど、悪い〈作品〉はおらんのやと思う。でもオレには、オレを待っとる友達が外におるんや」

友達」

「せや。ソウゲツにもおるやろ? やったら帰らなあかん」


友人や家族、他にも自分を待ってくれている存在がいる。それはカンジにとって、十二分に帰りたい理由になる。そう告げるも、何故かソウゲツは納得した顔はしない。いや、むしろ不服そうな顔をしているような気がする。
一度口を固く結んでから、ソウゲツが言葉を漏らす。ドミノを崩さないようにするような慎重さで、カンジに語りかける。


なら、オマエの────」



バキッ


突然、床が壊れる音が響き渡る。
舞う瓦礫を押しのけて現れたその『イバラ』は、




まっすぐ、カンジへと向かっていった。