【失笑の歌と蒼い月】

自陣Ibパロ/まとめ読み版



カンジは赤の部屋を開ける。そこは、黒と赤が絶妙なバランスで宿った部屋である。高価そうな家具に細かな模様の絨毯、天井から吊るされた巨大なシャンデリアが全体を照らしている。
部屋の中心には、長身の男がいる。雑巾にしては分厚い布で、大きなテーブルを磨いている。ここには背の高い男が多いなぁと思いつつ、カンジは背を向ける男に声をかける。


「すんません、ちょっといいですか?」


ピクリと反応して振り返った男の顔は、左半分が火傷で覆われている。一つ前の階層で見たキズの男よりも痛々しい痕に、カンジは思わず目を丸くする。男は気にした様子もなく、「誰だテメェ」と上から目線で言葉を投げる。


「オレ、迷子なんです。ええと、友達も多分。こっから帰る道と、友達探しとるんですが」

「あ? 帰り道? ……外への道ってことか? なら、この部屋に来たのは無駄だったな。外に行きたいなら下に行かなきゃならねぇ。地下への階段は、一つ戻った部屋の道の先だ」


そう言って、指で入ってきた扉を差す。素っ気ない反応ではあるが、そこにほんのりと優しさを感じてカンジはむず痒くなる。


「道、教えてくれてありがとうございます」

「ああ。
おっと、もう一つ伝えておく。階段の扉には鍵がかかってる。確かメ……あー、通路の両脇にある青色の部屋か黄色の部屋にいる男が鍵を持ってたはずだ。行く前に訪ねとけ」


返答代わりにカンジが頷けば、男は満足そうに笑う。ペコリと頭を下げて、部屋を後にする。後ろから「精々頑張れよ、迷子さん」と言う言葉が聴こえて、カンジは改めて気合が入る。そうだ、自分は頑張ってヒロを探しここを出なければ。
男の瞳に憐れみが宿っていたことに、カンジは気付かぬままだった。