弓手
ゲッター。
左利きネタを忘れないうちにちょこっと
真面目なのかネタなのか自分でもよくわからず
xxx
やりたかったこと:
・サーガ號は左利き、ゲッター企画初期の隼人も左利きで、後者は近年まであちこちにその形跡が残っている(銃をパイスーの左側装備など
・であるから、サーガ序盤の「左利きか面白い」というのは石川先生のメタ発言かもしれない、作中の隼人の覚えたわかりやすい同類感や幾分かの感傷かもしれない
・ファンタジーにおけるいわゆるリザードマンは、ゲッターの頃には間に合わないものの、80年代以降「左利き」設定が付与されたので、カムイ世代のハチュウ人類はまだ左利き多数派でもいいかもしれない
・東映設定の帝王ゴール、クーデター起こしてトップになってたんすね
・東映無印ゲッター序盤のキャプテン・ラドラの初期脚本がものすごくおかしい。(あまりに早すぎたBLw
この辺をいじりたかったのです。多い。あとやっぱりキャプテン・ラドラ本当にどういうことなの(東映没部分はだいたい一号機乗りがおかしい、二号機乗りも比較的おかしいw)
*
右利きなのかね、君は
*
海底シャトル浮上の段になり、身体が辛いと感じたならすぐに言いなさい、と告げられていた金色の子供がダークスーツの男の手を握りに来た。ごめんなさい、身体は平気です、ただとてもこわくてかなしくなりました、どっちも滅多に感じなかったものです、がまんもできますけど、と。
もはや無理だ逃げろと言って下さった博士、同化実験に貢献なさった母上、ほんの数日で帰ってくると言い交わした友達、なのにそれがあんなに小さくなるともう安心より帰りたくなってしょうがないんです
そうか、わかるよ
私も当初はかなり強引に連れて行かれた身だったんだ。あの時は本当に混乱したし怖かったし無様も晒した
でもごらん、君が今ここできれいなお魚になれたとしても、家に帰る前に水圧でひしゃげるか、内臓を口から吐き出してお日様を拝むかだ。
「はい、わかっています」
「いい子だ、浮上する時がちょうど夜明けだよ、朝が来る。」
加圧減圧の効く部屋のベッドに入るのがいいかとクルーに連絡している傍で、子供がもう一度男の手を掴んだ。
「おや」
右利きなのかい、君は
「はい、ちゃんと教育を受けたハチュウ人類は左利きに矯正されますけど、最近は右利きのままのも多くて」
おれも、そうです
そうか、でもそれなら地上人類との握手はしやすいだろう。ようこそ、カムイ。
言われてほんの僅か嬉しそうな色を浮かべた少年が右手を差し出したのに応じつつ、男は小さな声で告げた
「だが実は私は元左利きなんだ」
*
前大戦の戦士達の肖像は、かつてなら軍人メンコ、近年はトレーディングカードとして出回っている。
敵軍側も有名どころの各国首脳や国王大統領に、何より直接会敵した恐るべき敵であるゲッターロボのパイロットも。
ジン・ハヤトはその中で根強い人気のカードだった。たまたまチャンネルが合って拾われた言葉の正確無比で冷徹な判断、囚われ辱められ標本化した同胞を「虫ケラ」と呼びつつも歯噛みする音、「猿」達の中では彼等に一番近い、青褪めて涼し気な風貌、嘗ての仲間たちを全て失ってなお、折れることなく脅威たりえる怨敵。それは恐竜帝国においてはむしろ美徳であり、シリーズが改まるたびに彼のカードは他の連中の強い猿顔へのデフォルメ無しで人気絵師が担当し、プレミアがついた。
これで地上人類には少ない左利きだなんて聞いたら、みんなどんなに驚くか、いっそ喜ぶか、なんて少年は思った。
ひょっとして昔クーデターで落ち延びた前王朝氷竜族の御落胤の末裔だったりしないのかなっていう説も既にありますよ、と言われた男はコーヒーに噎せた。
やめなさい、そういう「特別」に憧れた事はないよ、それに先代一号機乗りも左利きだったなそういえば。それほど珍しいわけじゃない、と。携帯の中から呼び起こされてこちらに笑いかけた青年か少年の顔は、どちらかと言うでもなく完全に猿で、地上人の顔だったが、それに私が自ら引きずり込んでしまったパイロットだった、と男は付け加えた。まるで数少ない貴重な共通点みたいに言う、と少年は思った。そろそろ体に馴染み始めた浅間山のふもとの日差しを、ヒーターの温かさに微睡む白いトカゲみたいに浴びながら
どうしたカムイ坊や、お国の左手への矯正か?
いいえ、そういうのよりもどちらかというと、神司令みたいに両利きになれたらいいなと
神司令みたいに!はは、言うじゃないか!
そうしたら、彼の本当の効き手と握手できるかもしれない、右手で敬礼を交わしながらであっても、別れの挨拶の意味を持つにしても
あの人のそばにいきたい
+++
『右腕でアームレスリングか』
號、お前の本気は左腕だろう、そう聞かれて。
『いや、だって俺の利き腕とあいつらの左じゃ勝負にも何にもなんねえでしょ、ハンデだよハンデ』
砲丸を野球ボールみたいに投げることも容易いその腕力はまだ矯正前ゆえのムラかと思いきや、號の所作にはそうしたたどたどしさが無い。初めて手にした銃火器も右手で構え、自販機の前で横移動することもなかった。
『そりゃあ、うちは店やってるから、ハサミの一つも使えねえままじゃ話にならねえよ』
『ふん』
なんだつまらん、私は直すのにそこそこ手古摺ったというのに。
『え、神さんも左利きだったの』
へえ、あんたも
たまにそんな具合にあった、敬意の喪失楽し気な対等感
*

(参照)
あなたが実は同族の子孫だったら、って故郷のファンが無理をいうのは理由があるんです、御存知でしょう?
地上での何度目かの秋、四百年以上ぶりの天王星の月蝕を見守りながら、社宅のトタン屋根の上でそんな話をする。みるみる赤く染まり欠けて行く月はあまり長いおしゃべりを許してくれなさそうだ。
巨大な狼か犬が月を追い貪るから月食が起きるのだというのはどこの言い伝えだったか
「キャプテン・ラドラ」
「そう、彼」
どういう人物でどう死んだかの記録が俺達と
―――ああ、恐竜帝国と、地上で全然違う人です
日月をも貪る狼が青年を乗せて夜を駆ける民話もあった。
『夜じゅう私を飢えさせないように、両脇に屠った肉片をぶら下げた上でしがみついておいで』
狼と青年はひとつになって走る、赤いしずくをまき散らしながら
あなたにそっくりで、爬虫人類も自分達とどれほどの違いがあるのかと初代一号機パイロットに気付かせ、躊躇わせた男、いいや、当時のあなた達と同じだから、少年。
敵である初代一号機パイロットを死なせまいと身を捨てた戦士、あれは故郷の他の武勇談と毛色が違うものの、今も人気です、なんなら本当の戦勝国はこちらだったのだという屁理屈と共に。
貴方たちのリーダー、恐るべきナガレ・リョウマの心をも捕らえた戦士。ラドラは「猿」達の心をも揺るがすことができたのか、それともリョウマが愛する形が彼に似ていたのか
―――
「やめておけ」
ラムに浸してあった干しブドウ入りのホットチョコレート、それが制止の言葉とともに強く香った
『ラドラ、君が人間だったらきっと』
あの逸話のナガレ・リョウマは実にとんでもない事を言ったから、真面目な方の拒絶だけでもないだろうと思うのだが。
『君が人間でさえあればきっと俺達は
―――』
左手を翳して見れば、朱色の朧に消えうせた月の向こう、田舎の澄んだ空には次第に星々が現れた。
夜明け前、ついに最後の肉片が尽きる
獣と一つになっていた青年は身を起こし、おのれの身に刃を突き立て肉片を与える
長い夜駆けがからくも終わる、朝が来る
ひとつになったよるのおわり、代償。
+++
『え、神さんも左利きだったの』
『ああ、お蔭で腕時計型通信機は一から作り直させる羽目になったし、急須を使うのに苦労するから常備するのは紅茶かコーヒーにさせたし』
『
……ん?』
『「仲良くしよう」って奴等で人の左側に座りたがる奴は一も二もなく排除したこともあった』
『それ、どっちかっていうと苦労じゃなくて
―――』
『お前ほどじゃないにしても、左側にくっついて来る奴の学ランは片手でビリビリに破いてやれたからな』
『
———こらえ性が無いっていうんじゃねえかな、怖えよそれ』
指揮官然とした彼が、嘗て相当な問題児だったらしいのは想像しにくい、そのいかにも頭脳明晰そうな冷静な言行からは
それでいてどうやら当時から女子だけでなく同性にも慕われる方だったらしい、こっちは少しわかる、そのひんやり整った面差しと、しかしそこから感じる頼もしさや情熱の気配から。
そうかい。あんたって
*
「恋敵の腹から生まれたヤツだとか、ゲスな事は思わないんですか」
「多分あれは母親っ子さ、困ったことに、ヘルメットで目元だけ切り抜くと今度は一号機のあいつらどちらにもよく似てくる」
だから棺桶より狭いキャノピーから送って来る少し変質した声を聴くのも好きだぞ
「神さんあなたは」
酷い人だ
「仕掛けたのはお前だろう」
左手が、ギアを切り替える以上の多くを語ろうとしている、もう自分は「こちら側」でも語れるのに、と。なのにそちら側は押すスイッチも少なく、「それは言わなくていい」と言われ続けているかのように覚え、彼は白く開いたスペースに拳を叩きつけたくなることもある。
左手は、男の嘗ての視界はあるいはこうだったのだろうか
「だからといって、聞いてほしいと誰かに圧し掛かろうとしたことは無い」
誰にも、お前にもそれはしないよ、そんな声を彼は勝手に思い拾う。
そして、
ダクトから降って来て、両手に構えた二丁で鉛の弾と銃火をそれこそ孔雀の尾羽かなにかのように広げた男の酷薄な笑みの所内記録映像。
ああ、と彼は声にせず得心する、深夜、突入前、部下に所内の死角を再度確認させつつ
『だが実は私は元左利きなんだ』
あれは元から拒否の言葉、「それは私じゃあない」とやわらかく押し戻すような
+++
ああ、そうか両利きに直したんで腕組みとか片肘付いたりの癖も意図して消しちまったのかなこの人、と號は思う。長くて白い指を組み合わせて何か考えるようなあの仕草はなんだか神秘的で、この人にはよく似合うと思うんだけど、戻っちまわないように寄り掛からないようにってことかな、と。
だから連れていけなくなったんじゃないか、ひとりぼっちにしても
全てが一つに帰る淵に溶かしてしまえない
ああこの記憶箱は重すぎる
あ。あれ?
なのに、触れに行くものがいる……?
*
あれは「私も受け入れてもらえない側だったよ」ではなく、
「私に寄り添ってくれるお前が他より愛しい」でもなく、たぶん
先に言っておこう、私もまたお前と違う存在だよ、で。
だからといってめそめそする暇はない、人はそんなことのために生まれて来るわけじゃない
むしろそちらに近い事を言っていた、どちらに偏ることもなく公平に非情なほどに。そしてその上で
愛さなければ愛されなかったし、
愛されればその残る血肉を均等に切り分け愛として返された、最後の一切れまでそうする目で
彼の手に触れるというのは、おそらくそんなことだった
左手の指の間、見えるのは地獄の窯の縁、立ち昇る緑の燐光、男が落ちて行った深い底、右手には拳銃、はるか下にはきっといま生じた死
取り残された、ただ告げたかった思い
朝がまた来る、もうすぐに来る
(了)
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.