さもゆ
2024-12-06 15:27:25
17771文字
Public BF
 

【BF腐】ツイログ2

1~7…A英。
8…シンと肩幅おじさん。
9…あっしゅ誕生日祝い。
10…英ちゃんとコングとボーンズ。
11…ピザのちょこっとした続き。
12…A英。

2020.12.26 たまごのお粥pixiv投稿作品


リクで頂いた霜柱をテーマにシンか英二かアッシュかバディの話シンとブランカとナターシャにしました。

霜柱




 あ、霜柱だ。
 巨人がその体躯に似合わず小人みたいなことを言ったとき、シンはへえ両目がそんなに上にあるのに地面の霜柱が見えてんだとひどいことを思った。
 それをそのまま伝えるのはさすがに自分の伸びしろのある低身長具合を卑屈に捉えすぎている気がして、「アンタ霜柱好きなの?」とどうかと思うことを訊いてしまう。なんだその質問。隣に立って庭を見ていた巨人は庭からシンの頭頂部に視線をやり、こちらが思ったことと同じことを言った。「なんだい、その質問」うるせーよ。俺だって分かんねーよ。思って顔をしかめる。ちなみに隣を見上げたりはしない。首が疲れて慰謝料を踏んだくれるなら別だが。
「霜柱だ、って」
……見つけたから声にしただけで、好きかと訊かれるとそうでもないよ」
「丁寧に答えんなよ」
「ひどいな」
 ちっともひどいと思っていなさそうな声音が降ってくる。月龍邸、屋敷の主を待ちぼうけている庭に面したこの一室はとても静かだ。だから隣の大人がわざわざこちらの声を聞き取るために屈む必要がないし、こちらも見上げて言う必要がない。降ってくる声がそのまま耳に落ちてくるのは大変楽である。喧騒激しいチャイナタウンとここを行き来していると余計にそう感じる。
 緑の乏しい庭の地面は、巨人の言った通り霜柱が冷たく凍えて色をぼやかしていた。生き物が眠り、色が死に絶える冬だな、と思った。
「じゃあ冬は好きなの?」
「じゃあ、って」おかしそうに低く笑う。「いや、夏の方が好きだな」
「へえ、意外だ。好きじゃねーの?」
 曇り空で外が薄暗いおかげで、窓に顔が映るのが有り難い。
 大人は困った顔をしていた。
「好きか嫌いかで言うと、あー、ウン、まあ……どっちでもないなあ」
 大人になるとどっちでもないが増えるのかもしれない、シンは珍しい答えにそう思った。自分の周りは年上が多いが、それでも少年少女たちだ。そして彼らは、概ね好きか嫌いかで生きている。かくいう自分もそうだ。冬は寒いし色が曖昧でつまらない気持ちになるが、その分辛い料理が美味しく感じるし雪遊びだって冬にしかできないし、仲間と身を寄せあって暖を取るのも楽しい。冬は好きの部類に入る。
「アンタ田舎はどこだっけ?」
「ソビエト」
「は? 雪国じゃん。ああ、雪ばっか見てたからそーいう答えに行き着くのか」
「真っ白けで、嫌になるよ」
「ふーん。兄弟とかいる?」
「いや、」
 奇妙な間。窓ガラスに映る顔は冬のように曖昧に笑っていて、シンは唇を曲げて見せた。「答えづらいことは答えたくないって言やいいんだよ。別に尋問してるわけじゃねーんだから。子どもにンな微妙な態度とってっと嫌われるぜ」
「はは、あー、嫌いになった?」
「わりかし嫌いだよ。俺ですら見らんない俺の頭頂部見れるやつは大体嫌いだモン」だいぶ適当なことを言った。「……それって大抵のやつを嫌いってことにならないか?」「アレだよ、大人限定な。特に背が高くてガタイも良くてうさんくせえ笑み浮かべてるやつな」「私じゃないか」自覚あったのか。背が高くてガタイが良くてうさんくせえ笑みを浮かべている男は、いい暇つぶしと思っているのかそうでないのか、またシンの頭頂部を見下ろして口を開いた。「ということは、子どもは好きなんだ? きみ」
「子ども? そりゃ仲間だし。……守ってやりたいし。アンタは?」
「得意ではないな」
「好きか嫌いかだよ」
……
「またどっちでもないの?」
 思い切り不満たらしく顔をしかめてやると、曖昧に笑っていた大人はちょっと考えるように顎を撫でると目の前に視線をやった。つまり、霜柱。それから言った。
……私の最も愛した女性は、『あなたの育てる子どもは臆病な子になるに違いない』と」
 微塵も予想していなかった答え、それもこれが試験か何かならば確実に質問とは無関係すぎてバツ印がつけられそうな答えに、シンはちょっとびっくりして、けれど興味を惹かれる特殊な答えだったものだから、臆病? と小首を傾げて訊いていた。「どういう意味?」
「幸福とか、普通のこととか、普通が何かそのときは分からなかったが……今でもわりと……とにかく、そーいうものを素直に受け入れられない、ってことかな」
「まだよく分かんねえな」
「霜柱にはしゃいで、踏んで楽しめないってことだよ」
「ふうん。それで?」
「彼女は『だから私があなたの分まで、子どもに幸せとのうまい付き合い方を教えてあげるの』と言ってくれた」
「いいひとじゃん」
「だろう。だから、まあ、私は“子どもが得意じゃない”んだね」
…………、」シンはまたちょっと考えた。「エッなに、俺のろけられたの?」驚いて声を上げた。どうしたってそうとしか考えられなかった。
 ブランカは楽しそうに声を上げる。
「まあ、大人が曖昧に返すには、それなりの理由があるというわけさ」
「ええーっ? そーいう話だったか今? いやちょっと待って、ってことは何か、アンタ子ども育てたことあんの? マジでおっさんじゃん」
「おっさんて」あの日本人とは似ても似つかない黒眉を下げる。「まあ、案の定、私の育てた子は不幸に強くなったけど、幸福には弱くなったな」
「ウワッ体格はカッケーけどまるで駄目な大人だな」
「辛辣だなー……
「俺は将来アンタみたいなでっけー男になるけど、中身はアンタみたいにならないぜきっと」
 だってショーターみたいになるって信じてるんだ。それを信じて、やっていかねばならない。
 シンの誓いじみた言葉に大人はどう思ったのか、曖昧だった笑みを嬉しそうに深めて「どうやら、私はきみにそのままでいてほしいみたいだよ」と言った。人の話を全然聞いていない。「やだよ。でかくなるっつってんじゃん」身長の話じゃないさ、男が静かに言った。
 それきり口を噤んでしまったので、だってまだ若様は来ないし、交わした会話にヒントを散りばめられていたような心地が妙に煩わしくて、シンは窓の外を指さしていた。
「踏みに行く? 霜柱」
 大人が隣で、正解を貰った子どものような顔して笑った。