さもゆ
2024-12-06 15:27:25
17771文字
Public BF
 

【BF腐】ツイログ2

1~7…A英。
8…シンと肩幅おじさん。
9…あっしゅ誕生日祝い。
10…英ちゃんとコングとボーンズ。
11…ピザのちょこっとした続き。
12…A英。

2020.12.26 たまごのお粥pixiv投稿作品


ピザのちょっとした続き。

助けて兄さーん!



「はあ?」
 ……喉から随分物騒な声が出たな、と自覚できたのは、アッシュが自分に対してようやく理解を深めてきたからだった。
 アッシュは頭がいい。勉強ができる、という意味でも人付き合いが上手くできる、という意味でも。そんな十七歳にして生きやすそうなものを持っているからこそ生きにくく感じる難儀な少年のアッシュは、最近、ようやく、こういう不機嫌な態度を示してしまうことについてある程度の解明を進めていた。
 つまり、嫌いだからひどい態度をとっているわけではない、ということだ。特定の人物に限っての話である。
「アンタ、何、なんでそんな……
 アッシュは出会い頭に「はあ?」という機嫌の悪い声を出させたその特定の相手、奥村英二を上から下までじろじろと観察しつくした。糊の利いた白いシャツに、サイズの合っているスラックス、磨かれた革靴。ここまではいい。いつもより何倍も質の良いものに見えるが、彼は童顔なだけで自分より一回りも大人だ、きちんとした格好をしなければならないときの方が多いだろう。問題は、ネクタイのまだ締められていない襟元と、いつもの無造作ヘアとは違いおくれ毛一本もなく結ばれた黒髪、眼鏡をしていない黒目にある。問題というか。問題ではないんだろうが。
「なんでそんな小綺麗にしてンの」
「小綺麗って。……仕事してたからだけど」
 英二は整えられた太めの黒眉を下げ、「その言い方だといつも綺麗じゃないみたいになるだろ」と本気で言っているのか分からないことを言った。
 いやいつも綺麗じゃないだろ、アッシュは言おうとして口を噤んだ。その反論も本気か冗談か分からなかったからだ。だらしがない印象はあるが、決して小汚いと思ったことはなかったために、いつも綺麗じゃないだろと即答はできなかった。だが反論しないはしないで繊細な胸のうちがなぜか痒くなってくるので、一拍置いて「生活破綻者やめたの」と訊く。英二はまた眉を下げ、おかしそうに笑った。「やめてたら、ピザ頼んでないよ」そうしてアッシュが持っていた生活破綻に必須な四角く平らな商品を受け取った。
 見下ろせば、取っ散らかっていた長い黒まつ毛でさえ、綺麗に上向いている。
 こんなことは初めてだった。半ば無理やり友だちになってしばらく経つが、この男が身なりに頓着する様は素直にアッシュを驚愕させた。黒髪が顔にかかっておらず、眼鏡がないせいで、丸い黒目が余計に大きく見える。パッチリしている。襟の開いたシャツから伸びる首は男らしく喉仏があるし、別に特別細いわけではないのに、仕立ての良いシャツを着ていると何かが危うく感じる。
 やっぱり問題だろう。
 アッシュはバイト仲間が言っていたように長い黒髪を乱してみたいとは思わず、むしろちゃんと纏めてやりたいと焼きたくもない世話を焼きかけ友人関係に持ち込んだが、今はまるで真逆のことを思っている。──髪の結び目に指を差し込んでぐしゃぐしゃに掻き回してやりたい。それが叶わないなら、せめていつものだらしのない恰好に戻ってほしい。
 大問題だ。
 とても難しい問いが頭の中で広げられる。兄だ。“アスラン、なぜそんなことを思ったんだい?” ──答えを出させたいってんなら今夜は弟の心の勉強会にとことん付き合ってもらうけど──“それは勘弁”頭の中の兄は穏やかに笑んで広げていた問題を畳んだ。それがいいぜ兄さん。アッシュは考えるのを一切やめて憎まれ口を叩いた。
「チーズを零さないように精々気をつけるこった。ケチャップもな。あとオニオン」
……きみの中で僕って何歳なんだろうなあ」
「相手を確認してからドア開けれるようになったんだもん。プリスクール卒業おめでとう!」 
「ってことは今年から小学生か。二十七の僕が……? 情けな……
「そーいうの思うんだったらちゃんとしてくれよ……
 いつも通り値段ぴったりのお金を用意していただろう手をこちらに伸ばした英二が、先ほどのアッシュのものよりは柔らかい視線をまじまじと寄越した。
「だって、なあ、」
 そして照れくさそうに言った。
「十七のきみがしっかりしてんだから。口は悪いけど。僕だって、ちょっとばかししっかりしようと思ったよ」
…………泣きそう」
「エッ?」
「どうしようもねえガキが親離れしてくのってこんな感じなのかな。帰ったらグリフ労おう」
「僕に対して拗らせすぎじゃないか? お兄さんと仲良いね」
「今度会わせてやるよ……
「あ、ああ。どうも。……で、」英二はドアを大きく開けた。「どうぞ入って。メールでも言ったけど、若い子が遊べるようなものマジで何もないからね。あと、着替えるから適当に待ってて」
 アッシュは代金をポケットに仕舞うと、友人として初めて──不躾ピザバイトとしては侵入したことのある玄関に──招かれて足を踏み入れた。なんだ着替えるのかと残念がった自分に苛立ち、でもいつもの恰好に戻ってくれた方が安心できるとなんだかよく分からない溜め息を吐きかけたとき、先に行っていた大人が振り返って(「客に鍵を締めさせるな」と後で注意する)アッシュに事もなげに言った。
「私服、カッコいいね。モテそう」
 アッシュはまた頭の中に兄を呼び出さなければならなかった。
 帰ったらきっと労うどころか本当に心の勉強会を開催するだろう。つまり、だって。
……あんたに言われたって嬉しくないよ」
 アッシュは英二が嫌いでこんな態度をとっているわけではないからである。